第十章 明暗境界線 ②

 青の塔の脇にある、棒状の塔に巻き付く様な非常階段の下に滑り込む。

 階段入り口のセキュリティーをウィルが得意のハッキングで解除し、19人全員が階段の内側に入り、再び扉を閉めた。

 Jを先頭に階段を上る。

 塔の正面にいた人影は、ほとんどいない。

 塔前の高級ホテルのタクシープールの様な車廻りから、空港方面に、多くの車両が走っていく。

 作戦は予定通り続行される。

 目指すは70階、研究エリア。

 そして、99階、御前。

 階段で塔の2階ロビーまで行き、そこからエレベーターで70階へ。

 Jの考えで、敢えて一般用のエレベーターを使う。

 緊急用、士官用は、今の状況を考えると、どこかで誰かが乗り合わせる危険がある。

 エレベーターホールは、無人ではなかった。

 10基のエレベーターの内、一般用3基を除くほとんどが、ひっきりなしに到着しては、降りた人員の全員が、塔の入り口に向かってかけていく。

 エレベーターホールの隅で、15分ほど様子を見ている内に、エレベーターの発着がほとんどなくなった。

「行くぞ」

 声はすれども、姿は見えず。

 空気が動き、二つに分けた組の内、J、ロン、ウィル、そして紅穂を含んだ一組10人が先にエレベーターに乗り込む。

 70階で待ち合わせである。

 エレベーターは一度も止まることなく、目的階に着いた。

 エレベーター脇の小部屋(資材室)で第二陣を待つ。

 研究エリアは外の喧騒とうって変わって静かだった。 

 一般用エレベーターが止まり、扉が開いた。

 一見、誰も降りて来ないが、人の気配は感じた。

 第二陣、茉莉花率いる9人の裏戸隠隊が、光学迷彩蓑から顔だけ出す。

 ここまでは上首尾。

 研究エリア、研究室に突入する前に、作戦の最終確認をしてJが言った。

「始めようか」

 作戦開始。

 エレベーターホールから、研究室内へ。

 扉をそっ、と開く。

 広い研究室内は、巨大なオープンスペースで、大きく二つに分けられている。手前正面に受付ロビー、左手に天井人の神魔器総務エリア(神魔器の管理、探索、人事、予算、研究承認、報告等)右手にカフェがあり、残り半分奥側が、4つの担当別エリア。奥手前左に、神魔器の作用副作用分析チーム、右に神魔器の実用化開発チーム、最奥左が、研究実験臨床チーム、そして残る一つが、他の創家の神魔器の分析チームである。

 研究室の奥には、その大きさの半分を占める別な部屋があり、そこは、文献や電子データが収納された、言わば図書室になっている。

 見張りを残して、扉から入ったJ達一行は、まず、受付にいた女性二人を気づかれぬまま、麻酔銃で眠らせる。

 続いて、部隊を二つに分け、左の総務エリアと右のカフェエリアを同時に制圧。

 隠れ蓑を使っての素早い隠密行動だけに、奥のエリアにはまだ気づかれていない。

 多くの人員は空港方面に行っているのか、手前のエリアに居た人員は15名ほどで、しかもほとんどが外を見るように窓際(カフェエリア)に立ち、無防備な背中を見せていたため、制圧は拍子抜けするほど簡単だった。 

 それらの人達を順に麻酔銃で眠らせ、結束バンドで縛り、猿ぐつわを噛ませる。

 二手に分かれていた部隊は、総務、カフェエリアと奥の研究チームエリアの間にある間仕切りの陰に集合した。 

「さて、ここからは隠密行動って訳には行かないね」

 茉莉花が光学迷彩蓑を脱ぎながら、それでも囁くように言った。

「ああ。ここからが正念場だ」

 Jも光学迷彩蓑を脱ぎ捨てる。裏戸隠隊の内、4人もそれに従った。

「どう?戦闘員は居る?」

 茉莉花がJに聞く。

「いや、残りはほとんどが非戦闘員だ。天井、地上の研究者従事者だな。比較的冷静だから、論理的な話し合いに応じるはずだ。行こう」

 姿を見せた6人は、殊更重火器を見せつけるように奥に進んだ。

 最初に、その姿を見たのは、座って作業していた、分析チームの地上人だった。

「な、なんだね?君たちは?」

 驚いているが、それほど大きな声は出さない。Jは、ひとつ頷くと、重火器を見せつけ、大声を出した。

「研究者諸君!俺だ、七川目だ!話がある!抵抗せずに、奥の図書室に入ってくれ!全員だ!」

 おそらく、空港の騒ぎが気になったのだろう。

 その時点で静かなざわめきの中、研究している者はほとんどいなかった。

 Jの大声をが出した大声でざわめきが静まり、手近な者同士で顔を見合わせる。

 ざっと50人。紅穂が想像しているより、少なかった。

 やがて、最初に気付いた研究者が、両肩を竦めて立ち上がり、奥の部屋に向かった。

 それを合図に、白衣の一団が、一人、また一人と立ち上がり、奥の部屋に向かう。

 奥右手の研究チームから、一人の男が、小走りにこちらに向かってきた。

「七川目さん?」

 茉莉花が銃を構える。

 その銃口をJがゆっくり押さえ、下に向けた。

「知り合いかい?」

 茉莉花の問に、Jが頷いた。

「増田さん!」

 眼鏡をかけた、小柄な男性。増田貴久。それは、おじいちゃんの大学の助手の増田さんだった。紅穂も2度会ったことがある。増田さんが居る、ということは。おじいちゃんも居るに違いない。しかし、パッと見、それらしい人物は見当たらなかった。別の場所に居るのだろうか。

 増田がJの前に立った。

「噂には聞いていたけど、どうしてそんな姿に…」

 増田が挨拶そこそこにJの肩を揺さぶる様にして聞いて来た。 

「神魔器の実験に使われたようです。自分でも詳しくは分かりません。今はゆっくり話している暇がなくて。増田さん。壬生沢教授は?」

 Jの冷静な返答と、真っすぐな視線に、増田は肩から手を離し、さっと目を逸らして下を向くと、眼鏡のブリッジ部分を指で押した。

「それは…高畑さんに聞いて欲しい…」

 口ごもる様に言う。

 Jは頷いて、増田に言った。

「分かりました。高畑さんは?」

「奥に行きました。行きますか?」

「元よりそのつもりです。増田さんも一緒に。事が済むまで、しばらく奥に居てもらいます」

 増田は頷いて、図書室に向かった。

「行こう」

 目に見える者、目に見えない者、両方に言うと、Jは図書室に向かった。

 図書室は、入り口から入ってすぐに20メートル四方のスペースがあった。全体的に、研究室から見た感じの想像以上に広く、部屋の右側にある、床から天井までの嵌め殺しのガラスのおかげで開放的な雰囲気を醸し出していた。

 20棚ぐらいの書架が、部屋の奥に向かって等間隔に並んでいる。

 書架と書架の間は3メートルほどもあり、所々に椅子とテーブル、テーブルに掛かる様に観葉植物が置かれていた。

 研究者の一団は、めいめい、腰かけたり、書架にもたれかかったり、立ったまま白衣のポケットに手を突っ込んでいたりしている。

「七川目君。これはどういうことかね?」

 入り口正面、集団の中心に居た、太い縁の黒メガネをした頬のこけた初老の男が話しかけて来た。

「高畑さん。お久しぶりです」

 Jが挨拶すると、高畑と呼ばれた男は、蠅を払うように顔の前で手を振った。

「挨拶はいい。どういうことかと聞いている」

「相変わらずですね。礼儀も大切ですよ。さすが、俺たちをこの姿にした張本人なだけはある。驚きませんね?」

「私はたいていのことに驚きはしない。なんの根拠があって、そんなことを言うのかね?これは武器を手にしたアドバンテージを利用した吊し上げ、復讐ということかね?」

「復讐とおっしゃりましたか?否定なさらないんですね。根拠はありません。寝ている間に行われた実験ですので。単なる推測です。神魔器を使って人間の体から動物の体に意識を移す。そんな危険な実験を、研究エリアの誰もGOサインを出さないだろう、という。主席研究員のあなた以外はね」

 高畑は黙った。

「ちなみに復讐ではありません。むしろ、協力してもらいたい。あなたがどこまで知っているかは分かりませんが、いや、知らない訳がないか。藍姫を元に戻したい」

 沈黙。

「それと、壬生沢博士はどこですか?お会いしたい」

 高畑は沈黙し、睨むことでそれに敵意を加えた。

「高畑主席。時間がない。俺たちは、間違いを正しにここに来ているのです。あなたを糾弾したり、危害を加えるためではない」

 Jのあくまで真っ直ぐな物言いと視線に、高畑は耐え切れないように目を逸らした。

 図書室内に沈黙が訪れた。

「いい加減に観念しようぜ。高畑さん。あんただって、何かが違って来てることに気付いてんだろ?でも、認められねえよな。頭いいからな。思惑が外れたことを直視出来ないんだろ?それともこのまま禁断の研究を続けたいのかい?後世にマッドの名を残したいのかい?やめとけよ。暴かれた方がいい。あんただってボロボロの仮面は、付けているのも苦しくなってるんじゃねえのか?誰かに強引に剥がしてもらって方がいい。僕みたいにね」

 沈黙を破ったのは、高畑でもJでも、他の誰でもなく、第三の男だった。

 静まり返った室内だから聞こえる程度の声は、小さかったが淀みがなかった。

 ずっと練習していたセリフを話すかのように。

 少し離れた書架の陰から、体を書架に預けるように引きずりながら、男が現れた。

 雷が光り、姿が照らし出された。

「コニー」「神室川」

 Jと高畑が驚いたように言った。茉莉花以下、姿を見せている裏戸隠が銃を構える。

 コニーは気にせず、書架に手を着きながら、ゆっくりとJに近づいて、手近な椅子を引き寄せると、落ちるように座った。

「やあ、J…隊長。お疲れ様です。その姿は聞いてましたが、長く生きられるもんなんですね」

「やあ、コニー。そういうお前は前以上に顔色が悪いな。大丈夫か?」

 Jを挟んで少し離れている紅穂にも、コニーは体調がいいようには見えなかった。呼吸が辛いのか、襟元のボタンは三つ外されている。研究員に紛れ込むためだろう。白衣を着ているが、ブカブカで、折れそうなほどの華奢さを強調している。 ピカッ。

 再び雷が光った。

 額と頬に汗(頬のは、涙?)が浮いている。

「最悪です。こうしてかっての先輩に会ったのに、敬礼も出来ない」

「そうか。誰かに医務室に連れて行かせよう。今は再開を祝している場合じゃないからな」

 コニーはゆっくりと顔を横に振った。

「医務室はけっこう。もう何回も行きましたよ。原因不明。隊長も知ってるでしょ?僕たち天井人は、イレギュラーには馴れていない。それよりも…」

「なんだ?」

「時間がない。空港は陽動でしょう?今は混乱しているかも知れないが、銀と緑がこちらに向かって来ている。伯爵が来たら厄介だ。早めに藍姫を」

「それは、そうだが、聞きたいことがある」

「なんです?もうなんでも答えますよ」

 Jは茉莉花と顔を見合わせた。

「一連の事は、お前の、いや、お前と伯爵と田丸の仕業なのか?」

「そうです。さすがですね。それとそこの高畑のやったことです。後は、命令されただけの連中ですよ」

「なっ!貴様!」

 コニーに掴みかかろうとする高畑に、茉莉花が脚を掛けた。派手に転ぶ。

「お静かに。誰も怪我をさせたくない。ただ、少し話をさせて下さい」

 Jが言って、コニーに歩み寄り続けた。

「そうか。お前たち、何を企んでいる?」

「お前たち?僕?僕ですか?」

「そうだ」

「僕は何も企んじゃいない。いや、いなかった。多分。遠い記憶なので朧気ですがね。ただ、僕はもっとJに、いや、七川目隊長やロン、佐々堂に認めてもらいたかった。そこだけは薄っすらと覚えてるんです」

「何があったんだ?」

「どこまで知ってます?」

 Jが首を振った。

「どこまでもは知らないよ。全部推測だ。聞いて違えば教えてくれるか?」

 コニーがだるそうに頷いた。

「タイミングは分からないが、お前と伯爵は、懇意になった。そこで、伯爵に謀略に誘われた。藍姫の再生にイレギュラーを仕込んで、創家を田丸の意のままに動かせるようにする計画だ。見返りとして、探索チームのトップにでもする約束だろう。田丸と伯爵にはすでに密約があったのかも知れない。田丸は青の一族を乗っ取って、銀や緑、他の創家を抱き込んで、黄色から創家筆頭を奪い返し、あわよくば、根の民の力を削ぐ。そして、田丸と伯爵は、第三エリアを好き勝手する。どうだ?」

 コニーは口元を歪め、頭を振りかけて止め、こめかみを指で押さえた。

「さすがだ。だから嫌だったんだ。だが、今は、隊長が居てくれて良かったと思ってる。この状況を覆せる天井人は、他にいないからな。さて、大筋はあっているけど、少し違う。まず、伯爵とは懇意だったんじゃない。懇意にならざるを得なかったんだ」

「どういうことだ?」

「田丸の指示で伯爵に会いに行ったんだ。未発表の神魔器を借りる約束でね。そして、そこで、強制的に再生を掛けられたんだ。隊長達と一緒。今思えば、実験だったんだと思う。藍姫にイレギュラー再生をかけるための。詳しく話す体力がないから、生きていれば今度話すけど、寝て起きたら何かが違ってた。自分の中に、何か、違和感があった。しかも、最悪なことに、頭の内側に、だ。それ以来、思考がおかしくなっちまった。ほんとはしたくないことも、伯爵や田丸に命令されると、従わなきゃならなくなった。僕は頭痛と、自分の二面性について訴えた。伯爵は、言うことを聞いていれば、頭痛を取り除いてやる、と言った。僕はそれを信じた。信じると楽になることってあるだろ?例え、嘘でもさ。だが、だんだんあいつら、そこにいる高畑も含めて、何言ってんのか分からなくなった。心のどこかが、どうしようもない不信感で喘いでいた。後はお察しの通り。詳しくは分からないが、どこかの誰かの脳のDNAを運び、藍姫の再生にイレギュラーを起こし、隊長達を実験再生に掛け、ここに居る。田丸や伯爵の思惑は実際の所は分からない。あいつら、そろいも揃って嘘つきなうえ、自分達のことしか考えないから。ただ、一度、アースウィンドで第二エリアの連中と伯爵が話しているのを見たことがある。僕が運んだDNAも、第二エリアの誰かの物らしいと、田丸から聞かされた。大方、力を増しつつある、龍黄弦を、陥れる陰謀だろう。そう考えると、伯爵の後ろにも、それを操っている誰かがいるんだろう。それは第二エリアの創家の誰かかも知れないし、あるいは第一エリアの創家の誰かかも知れない。それに、伯爵や田丸が乗ったんだろう。藍姫が健在だったら、そんな陰謀に加担するとは思えないからな。良くも悪くも、藍姫は美しいお方だからな。今は変わっちまったが」

 コニーは話し疲れたのか、溜息を吐いた。

 近くの研究員が水を差し出した。

「そうか。お前もイレギュラー再生に使われたのか…田丸もそうか?」

 受け取った水を飲み干して、コニーは答えた。

「いや、やつはしてない。ドが付く卑怯者で、ドが付く臆病者だぞ?偉そうに振舞ってるが、本質は違う。あの小狡い男は、自分が傷つくことは、何一つやらないよ」

「分かった。少し休め」

 Jは言い、高畑に向き直った。

「高畑主席。聞いた通りです。おそらくあなたは、そこまでの陰謀とは知らなかったはずだ。伯爵や田丸と同じ、やつらは権力ですが、あなたはあなたで昔から自分の研究しか興味がなかったですからね。しかし、実際の再生に携わったのはあなたでしょう?教えて下さい。イレギュラー再生の治し方はあるんですか?」

 高畑はJを睨み、コニーを睨み、言った。

「知らん。わたしは何も知らない」

 言い切る高畑に、鋭い罵声が飛んだ。

「いい加減にしろよ高畑!研究者が、何も知りませんで通ると思ってんのかよ!」 ロンが、光学迷彩蓑を脱いで、顔を出した。

「宇城隈…!」

「オデ達には時間がねえんだよ!コニーにも、藍姫にもな!さっさと教えろよ!知ってんのか、知らねえのかよ!」

 ロンの大声が、室内に響き、研究者達が静かに顔を見合わせた。

 白衣の群れから、1人が浮き上がる様に進み出た。

「もう、止めましょう。我々は間違った研究をしてるし、してしまった。全てを元に戻しましょう」

 ロンの叫びに答えたのは、高畑ではなく、増田だった。

「増田さん。あなたも実験に加わってたんですか?」

 Jが驚いたように言うと、増田が頷いた。

「黙っていてすまない。私だけじゃない。高畑さん、壬生沢博士、そして、ここにいる研究員の半数が関わっている」

「そうだったんですね…」

「すまない。神室川君は、君たちが言う、銀狐ファミリーが再生を行ったと聞いたけど、藍姫、そして君達をイレギュラー再生したのは、私達だ」

「壬生沢博士も?!」

「そうだ。そこにいる高畑さんにそこまでの知識はない。彼は、ただ発想し、命令しただけだ。データを検証し、実際に行ったのは壬生沢博士だ…」

「そんな…では、壬生沢博士はなぜ俺達を?それに、博士は今どこに?」

「なぜ君達を匿ったのかは分からない。やってしまった事の罪滅ぼしかも知れないし、研究と人助けは同時に存在する。私でもそうしたかもしれない。ひどい目に合わせてこんなこと言うのは卑怯かもしれないが、我々も脅されていたんだ。壬生沢博士は、指示通りしなければ、家族を無理やり再生に掛けると脅されていた」

 紅穂は息を飲んだ。増田は続けた。

「治し方は確立していない。ただ、理論はある。確かな事は言えないが。ただ、時間が掛かる、と思う。博士は…ここにはいない。案内は…出来る…」

「そうですか。それを聞いて安心しました。では、博士の所に案内してください。それと、コニーや、俺達も元に戻れるんですね?」

「ああ。君たちは混じってないから比較的簡単だと思う。神室川君の場合も、はっきりは言えないが、理論的には可能、だと思う。ただ…」

「ただ?」

「藍姫と違って、銀狐ファミリーの研究所で再生を行っている。とすると、データや、神室川君に混じったDNA素材が必要になる」

 コニーが溜息を吐いた。

「やれやれ。僕はいつもツイてない」

 Jが言った。

「心配するなコニー。お前の事は俺達が何としても元に戻してやる」

「んだよ。オデ達青の一族の探索チームはエリア最強。そうだろ、コニー?」

「ングッキュ~」

 いつの間にか、紅穂の足元に居たウィルも顔を出した。

 コニーが笑った。

「まったく、その姿になっても自信満々だな。頼もしいよ」 

 そして、こめかみを抑える。

「コニー。お前、俺達を信用するか?」

 その姿を見たJが言った。

 コニーは痛みに顔を歪めながら、強く頭を縦に振り、答えた。

「紅穂」

 Jが呼んだ。紅穂は一瞬迷ったが、光学迷彩蓑から顔を出した。

「紅穂ちゃん!」

 増田が驚く。

「増田さん。お久しぶり」

 どういう表情を作ったら分からなくて、口元だけで笑ってみた。

 Jが割って入る。

「紅穂、挨拶は後でゆっくり。少し時間が経ち過ぎた。お願いがある」

「何?」 

「コニーを眠らせてやってくれ」

 紅穂は、胸元のペンダントの内、青く光る方を指で触った。

「うん。分かった。やってみる」

 紅穂は他の人が視界に入らないように、コニーに近づき、苦痛を湛えるその目を見据えると心の中で強く念じ、声に出さずに呟いた。「眠れ」

 コニーの瞳から、ゆっくりと力が抜け、コニーは椅子にもたれかかった。

「それは…ヒュプノクラウン!」

 高畑と増田、研究員研究員達が口々に口にする。

「そうです」

 Jが答えた。

「しかし、その眠りは永遠の眠りなのでは?」

 増田が言うと、今度はロンが答えた。

「オデ達が醒まし方を知ってるよお」


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