ケジメ


 電光掲示板に映し出される、三対一と劣勢のスコア。

 優勝候補だという相手のレベルから考えればよく粘れていて、しかもスタジアムの応援は時間と共に熱気を増しているが、それでも掲示された時計は、無慈悲にも最後の針を動かそうとしている。


「須田、本当に大丈夫なのか?」


「ええ、万能サポーターに万能ミサンガですから」


 右脚を指さしながら監督に伝えると、なんだよそれ万能ネギかよ、と佐倉にツッコまれて、万能ネギってそういや何に万能なんだろうと思った。とにかく、そんなツッコミができるくらいなら、まだこのチームは大丈夫だ。


 俺はピッチを眺めてみる。

 青々とした芝生が、味方のシュート、敵のスライディング、その一つずつの動作に削られている。もうすぐ試合が終わって人が消えれば、ピッチ上ではちぎれた葉を風が静かに舞わせることだろう。その景色を、数分後の俺たちは、どんな表情で見られるのだろうか。


 アディショナルタイムの表示が出る。少ししたタイミングで相手のシュートが外れ、試合が止まった。

 俺はピッチの方へと小走りに駆け、汗だくの冬樹先輩とタッチを交わす。後は頼む、と苦しそうな声が、先輩のトレードマークの厚い唇から漏れ出る。三年間ずっとベンチ止まりだった彼に、これからもっともっと試合に出てもらいたくて、俺は後を引き継ぐ。


 振り返って見えた時間表示は、三分。

 その視界を遮るように現れたのは。


「おかえり、相棒」


「ただいマコちゃん。何点取ってやろうか」


「三十秒に一点で、サーティーワン」


「はいはいアイスくらい奢るって」


 もちろんゴール決めたらな、とウインクすれば、全身汗だくの真は荒い呼吸をしながら、舌をぺろりと出した。OK、コイツも大丈夫。この勝負、やっぱりまだまだこれからだ。


 観客席を眺める。広いスタジアムの一角に、越野の姿を見つける。拳を掲げてみたが、反応を確かめる前に笛が鳴り響いた。

 思い切りよく右脚を踏み出せば、快晴の秋空と緑色の芝生の間で、赤、黄、緑の信号色の葉に囲まれた競技場で、俺の脚は久々に味わう速さでギアをトップにまで上げる。ほお、魔法のやつ、やるじゃねえか。


 なあ越野、見てるか? 最後まで顔上げとけよ。


 ここまで粘れているのはお前のおかげだ。今から、大逆転劇を見せてやるからな。


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