サッカー
十月の残暑を作る太陽が、視界の片隅に入った。その横から白黒のボールの影がぐんぐん近づいてくる。
味方からのクロスをきっちり胸で止め、そのままゴールと向き合う。前と左にマークが一人ずつ。落ち着いてその間にボールを出すと、狙い通り真がゴール前に入ってくる。
「いけ!」
真の右足から鋭いシュートが撃ち抜かれ、キーパーの手の先をすり抜ける。
「っしゃ、マコちゃんいいよー!」
「見たか見たか!」
よし集合、と監督の声がグラウンドに響く。ピッチの隅へと駆けていく俺たち二人の後ろから、
「広大、真、その調子で頼むぜ」
と
来週には、秋季大会地区予選のベスト十六の試合がある。教室ではあんな感じの俺と真は、唯一、いや「唯二」? 二年生にしてレギュラーを務めている。
MFの俺とFWの真。三年生にチームプレーの得意な選手が多い今の部において、このうるさくてガンガン進む二人はいい具合にフィットしている。その証拠に、チームも数年ぶりに順調に大会を勝ち進んでいる。
「……という感じだ。十分間休憩」
その一言で、空気が一気に和やかになり、他愛もない雑談が始まる。やはりみんな、試合が近くて気が張っているのだろう。チラッと振り返ると、キャプテンはいつもの穏やかな顔を曇らせて、監督と何かを話し込んでいる。
「どうした、広大」
横にいた同級生の
「いや、キャプテン何を話してるのかなって」
「ほー、さすが次期キャプテン。目の付け所がシャープ」
「ピンピンのビンビンのギンギンだな」
「真くん、自重しなさい」
この大会が終わったら、俺が次のキャプテンになるというのは周知の事実だ。
キャプテンよりも、その横とかでおちゃらけてムード作る方が好きだし得意なんだけどな、とは思うが、どのみち二年生レギュラーが俺と真だけの時点でもう決まったようなものだ。
――俺も、広大しかないと思ってる。
夏のある日、校舎の裏で、蝉の大合唱の中キャプテンと話をした。
――お前ほどチーム全体を見られる奴は、そうそういないからな。
「ん、
佐倉の声に反応すると、グラウンドの反対側で誰かがダッシュの練習をしていた。
「またノルマか、それとも自主練か、どっちだろ」
「さあ。相変わらず足おっせえなあ……」
そんな会話を聞きながら、俺もその体操服が似合わない華奢な一年生を眺めていた。
やたら前のめりで走って、一回一回息をついて、また走り出して。遠くて顔がよく見えなくても、彼の必死な表情すら、容易に想像できた。
越野です。……サッカー経験は、ありません……すみません。
越野
全くの初心者ということで当初からみんな嫌な予感はしていたが、実際に始まると、予想をはるかに上回るくらい、絶望的に、十年に一人クラスで、運動神経が無かった。
「あ、こけた」
真の「おいおい」と、誰かの溜め息と、数人分の笑い声が、同時に耳に届いた。
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