閉廷!……


 さやかが、好き、なのかもしれない。


 今年の春に転校してきた彼女と再会してから、ずっとなんとなく気にはなっていた。ただそれは、昔なじみの縁があるからだと思っていた。

 気持ちをちゃんと意識し始めたのは、今年の七月の保健室だ。突然倒れたさやかの柔らかい体を背負って、苦しそうな寝顔を見ているうちに、守りたい衝動に駆られて、もしかしてこれは、と。


 ただ、そうは言っても友人として過ごすのが楽しいわけだし、周りに色々冷やかされることも多いけど、その程度は平常心で適当に返せるし、誰かに相談したくなるほど迫った感じでもないし、だから、「かもしれない」なのだ。


 何より、当の本人があの調子だ。どう考えても敗色濃厚じゃね? 「嬉しいけど、これからも友達として……」パターンじゃね? 

 無駄玉は早死にの元。無理な戦は避けるのが手だ。変に「好き」に傾くより、今の方がずっと心地良いし、一緒にいられるのには変わりがないし、何より、アイツのくすんだ表情はもうまっぴらごめんだ。以上、閉廷!


 それは分かっているのに。

 自分の手を閉じたり開いたりしてみる。


 どこか悔しさが残るのは、なぜなんだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る