あのとき何をすれば


 お母さん、どこ行くの?


 うん、ちょっとお仕事入っちゃった。


 でも、こんな時間だよ?


 ごめんね。戸締りには気をつけてね。冷蔵庫何かあったっけ、お金渡そうか……。




 私は、お母さんに抱きつく。柔らかい胸元に、顔を埋める。




 私、カップ麺がいい。


 さやか。


 カップ麺を食べてたら、お母さんと一緒にいられるから。




 お母さんは私を抱き締め返して、背中をさすってくれた。仕事をこなして、家事をして、一人でこの家を守ってくれている優しい手で。




 さやか、強くならないとダメ。


 ……うん。


 女はね、強くないとダメなんだよ。






 あの頃、私は、どうしようもなく無力だった。


 あの頃、私は何をすれば、運命を変えられたのだろう。


 何かをすれば、運命は変えられたのだろうか……。

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