春 ころころときらきら

シャープペンシルは転がらない


 シャープペンシルは、ころころと転がってくれない。




 頬杖をつきながら、窓の外にちらつく雪を見る。

 その白いカーテンのバックには狭いグラウンドが見えて、サッカー部や野球部や陸上部、ハンドボール部の生徒がひしめき合っている。

 雪は白色、体操服やユニフォームも、みんな白色。グラウンドは砂の色、その周りの枯れ木は、桜もモミジもみんな茶色。二月の風景は全部が寂しくて、しん、と冷たい音が、風と共に北から南へと真っ直ぐ流れている。


 だけど、これが今年最後の雪かも、と思った。

 だってあと少しで三月、家の近所の公園にある梅はもう咲いていて、桜の蕾も開き出す頃だから。


 物理実験室は今日もぽうっと温かくて、体の外側から色を塗られているみたい。

 壁沿いの棚には古びた実験器具が並んでいて、どこか秘密を含んでいそうで心惹かれるけれど、文系の私には何一つわからない。

 いや、あれはなんとか天秤だな、と一つの器具に目が留まる。上皿、という単語がすぐに出てこなかったのは、暖房で頭がぼんやりしているせいにでもしておこう。


 そんな場合じゃなかった。肘の横に広げた紙の、一点を見つめる。


 どうしよう。


 そっと、シャーペンを机から拾い上げる。前に正門で予備校が配っていた、安っぽいクリアピンクのシャーペン。クリップに親指を軽く挟んでみる。かちっ、かちっ。かちっ。このままちょっと強めに爪を押し上げたら、何のためらいもなく割れてしまうだろうな。


 このクリップって、と私は思う。

 物を挟むためというより、転がり落ちないようにするためについているんじゃないかって。




 小学生のとき、何かに迷ったら、私はいつだって六角形の鉛筆を取り出した。


 低学年の間は4B、中学年の頃は2B、五年生ではBで、六年生になるとHB。

 小豆色のボディーに金色で刻印された文字が、歳を重ねた証としてどんどん変わっていくのが、嬉しくて、なんだか誇らしかった。きらんと輝いて綺麗だから、私はそれが刻まれた面をいつもサイコロの「1」にしていた。


 小さな手で握って、小さな目を閉じて、お願いします、と小さな声で語り掛ける。犬にお手をするような感じの手の動かし方をして、机の上に転がせば、鉛筆は答えを教えてくれた。

 それが正しいとは限らないなんてわかっていて、私はただ、答えを教えてもらうことで安心したかった。輝かしい「1」から始まる、天の上の神様に。

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