第2話 これがわしの付き人じゃ!

「うわぁあああ!!?」


 突然、目の前が暗転した。そう思った瞬間、急に目の前の視点が切り替わり、俺は地面へと落ちていた。


「いちちっち」


 お決まりのように尻餅をつき、俺はお尻をなでていた。


「ふん、どうやら無事に転送できたか」


「えっ?」


 そして前からの声に俺は反応した。そして俺はふと、正面に視点を向けた。


「って、な、な、なんだぁ!?」


 なんとそこにいたのは、王座のように豪華な椅子に座る角の生えた幼女であった。


「えっだれ!?」


 よく見るとその幼女を囲うように三人の女性たちが立ち並んでいる。しかし肌の色、耳の形、格好が明らかに俺が知っている世界のものではないと分かる。


「うぅん? さっき名乗ってやってではないか!? そうかまた名乗りを聞きたいのだな。贅沢者めぇ」


 ふてぶてしさを漂わせていたその幼女は俺の言葉でよりいっそうテンションが上ったのか、にやりと口を歪ませると、その場で立ち上がった。


「わしは異世界をいずれすべるであろう王の中の王『メルル』。今し方そなたを助けた大恩人よ。ふはははは、我を讃えよ、この王称えるのじゃ!!!!!!!」


「メルル様!!! カッコいい!!!!」


「まぁまぁメルル様、よく言えましたね。今日はハンバーグですよぉ!!」


「あ、やべログインボーナスの時間だ」




「な、なにこいつら……」


 そのメルルの名乗りと一緒にまわりの女性たちも騒ぎ始めた。彼女を称賛し、なにやら喜んでいた。いや、一人変なのいたけどさ。俺はますます動揺し、困惑した。



「お主ら、まてまてそう騒ぎ立てるでない。こやつが困っておるじゃろう。のお?」


「ふえ!?」


「す、すいません」


「はしゃぎすぎちゃったわね」


「くそ、時間逃した!?」


 しかしそこは鶴の一声。メルルという幼女が周りを落ち着かせる。そしてその後にゆっくりとこちらに目を向けてくる。すると周りの女性達(一人を除いて)もこちらを見つめ始めた。



「な、なんなんだよ。あんたらここは、ってどこなんだ!?」


 彼女たちの正体に迫ろうとした瞬間。周りの風景にも違和感を覚える。


 目の前の幼女が座っている豪華な古風の王座。しかしそれに似つかわしくないような空間だ。


 なかなか広く、部屋全体が白い。見える限りでは、彼女たちの後ろにはSF漫画に出てきそうな大きなモニターとキーボードが配置されている。しかも何箇所かに自動ドアらしきものも見えて、他の部屋もあるようだ。なんというか、研究施設のように感じるのである。


「まぁ、驚くのは無理もないか。1から説明してやろうではないか、少年よ」


「あ、あぁ」


 呆気にとられていた俺に幼女は近づき、話しかけてくる。


「まずなんとなく感づいておると思うが、ここはお主が住んでいる世界ではない。つまり異世界じゃ」


「正確には異空間だけどね」


 メルルという幼女に合わせて、後ろでログインとか言っていた女性がぼそっと口を挟む。


「い、異世界? 異空間?」


 聞き慣れた単語であるが、いざその状況に陥ると理解が追いつかない。


「そうじゃ、異世界じゃ。お主らがゲームや漫画などで作り出す文明や人の力が違うと言われるまた別の世界。それがここじゃ。後ろのやつが言ったとおり、ここは異空間だが」


「え、何言ってるか?」


 そんなもの本当にあるとは思っているわけもないので全然頭に入ってこない。俺はただただ焦るだけ。


「たわけ者!! もうすでに貴様にはお主の常識を超えたことが起こっておろう。混乱してばかりではなく、もっと受け入れよ」


「がふぅぅ!!! ぐおぉおお、いってぇぇ!!!」


 その瞬間、脳天チョップ。めちゃくちゃ威力が凄まじく、俺は痛みにのたうち回った。


「とにかくじゃ、事実を受け入れよ。貴様は異なる世界にいるとな」


「は、はい……、いちち」


 凄まじくスパルタだ。こんな状況を受け入れられるかと思ってしまうが、従うしかないらしい。


「で、ここが異世界ってことは受け入れるが、あんたたちは何者なんだ」


「そうじゃな、じゃあ次は自己紹介といこうか」


 俺の質問に幼女は指をパチンとならし、後ろの女性たちに視線を向ける。


「まずはこやつじゃ。魔騎士シフィルじゃ!!」


 初めに指を刺されたのは、黒肌の背が高い、白髪のポニーテールの女性であった。耳の形は人間とは完全に違う。なんというかダークエルフみたいだ。


「貴様に名乗るのは腑に落ちんが、メルル様の命だ。私の名前はシフィル。メルル様をお守りする騎士だ。メルル様の盾であり、剣だ。彼女に無礼な振る舞いは許さんぞ」


「は、はぁ」


 なかなか気が強うそうな女性だ。騎士を名乗るだけあって、服装も戦闘向けの鎧を身に着けているし、身体もガッチリしている。だけどお胸はなかなかエロい。


「なんか、エロ漫画で、即堕ち、アヘ顔さらしそう」


「な!!?」


「あ、やべ!?」


 思わず本音が漏れてしまった。そう言われた彼女はふるふると震えている、怒っているのではないか?


「ふふ、ふじゃけるでない、この私をお、堕とすだと、あふぅ、なんという下劣なやつだ、私がぜったいにくっちないぞぉ❤」


 顔がめちゃくちゃにやけ始め、なんか別の意味合いでふるふるし始めた。ふぅふぅと吐息を放っている。


(あ、やべえこいつ)


 俺はすぐさま視線をそらした。


「んじゃ次はこちらじゃ!!」


 幼女はいまのを全く無視して別の女性に指を指した。


「シスターアミィじゃ!!」


「は~い、アミィで~す!!」


 指された女性は、隣の女性。アミィという女性らしい。シスターと呼ばれているだけあり、格好もそのまま協会にいる人みたいだ。


(で、でか)


 はじめに思ったのがそれだった。なんというかでかい。それに集約される。銀髪ロングのきれいな髪をしており、そしてでかい。


 話し方もおっとりしており、ゆったりしており、初対面なのに本当に聖母みたいに感じる、そしてでかい。


「私はメルル様の付き人のその一人。主に家事手伝いをしております。実はこんな格好ですが、信仰のしの字も知らないんですがね」


「ないのかよ」


「この格好はわしの趣味じゃ」


「ぅう~~~~~」


 さっきから緊張感がないのは気のせいだろうか。


「どちらかというとメイドじゃな。しかしながらこやつは自ら能力で対象を癒やすことができる。どんな傷を負ってもじゃ」


「どんな傷も……」


 確かにあれは男子、いや全人類を癒やす力があるかもしれない。


「お主が思っていることはよく分かるぞ」


「えっ!?」


 その目は見透かされている。いや、これは俺を理解してくれている。


「そうじゃ、こやつの魅力。それはこの豊満なお胸じゃ!!!」


「メ、メルル様、恥ずかしいですよぉ」


「何を恥ずかしがる!! おっぱいはみんなの癒やし。どんな生物であろうとその前には逆らえない。このわしですら屈してしまう魅惑の存在。森羅万象のあらゆるものを超越するのじゃ」


 なんというだ。このメルル様という幼女の言葉が初めて理解できるぞ。異世界、謎の空間、奇妙な人種たち。そんな垣根さえおっぱいはこえるのか。


「ほぉら、この張りと弾力を見よ!! このぷるぷるを」


「うぁ、や、やめてください、メルル様ぁぁ!? そこはきゃうはずかしいですから」


「よいではないかよいではないか」


 メルル様にはげしくもみほぐされてあえぐシスターアミィ。やばいなんだこれは、本当にここは天国ではないのか


「あぁ、そこ、ちょっと敏感に」


「ほほぉお、ここか、ここかぁ!!」


 セリフだけ聞いていると完全なR18だ。いいぞもっとやれ。


「うっさい!!」


「へぶ!!?」


 しかし、その神の所業は終わってしまった。もうひとり残った女性のまたまた脳天チョップで。


「何するのじゃ、Drアトリー!!」


「あぁ、すんません。ゲームに集中できなかったので」


 どついたのは、この幼女にDrアトリーと呼ばれた女性であった。気だるそうで、サイズが合わなくてヨレヨレの白衣を纏っている。青い短髪の女性でどことなく気だるさを感じる。


 さっきからログインとか言ってたやつだ。白衣の袖からは手が出ておらず、服の下からスマホのような物を持っている。


「全く、わしを無下に扱いよって。まぁよい。ラストじゃ。こやつが3人目の付き人。Drアトリーじゃ」


「うん」


 紹介された瞬間、彼女は一瞬答えるとすぐさま、持っているものに視線を向けた。


「や、やる気ねぇ」


「こやつの凄さは圧倒的頭脳。あとで詳しく説明するが、この施設を作り上げたのもこやつじゃ、のぉDrアトリー」


「あぁ、うん」


「めっちゃ無関心」


「これまた混乱するから後で説明するがわしらがいるこの施設自体、ある異空間にさまよっておるのじゃが、その維持や位置情報なども管理しておる。のぉDrアトリー」


「あの、話しかけてもらうと気が散るので、あとで」


 さっきからめっちゃ辛辣だよ、この子。


「くくく、くぅ!!  うわ~~~~~ん!!!! アミィ!!! Drアトリーがいじめるよぉぉ」


 そしてとうとうメルル様は泣き出してしまった。そしてシスターアミィのお胸に抱きつく。


「あらあら、よしよし。大丈夫ですよぉ、メルル様」


 そしてシスターアミィは泣きじゃくるメルル様をぎょっと抱きしめて頭をなでてあやし始めた。


「アトリー!! メルル様への数々の無礼!! 仲間といえどその狼藉は万死に値するぞ!!」


 一方でそんなDrアトリーの失礼な立ち振舞いにシフィルが怒りを向ける。今にも剣を引き抜きそうだ。


「うっさいな、この肉○器!!」


「はおぉおおお❤❤」


 しかし放たれる18禁ワード。そんな言葉に彼女は膝をついた。


「わ、私が肉○器だと……、そんな下品で卑劣な扱い」


「そうです、そうです。抵抗するも男どもに服を剥ぎ取られて、手足拘束されて」


「な、なんということだ。わ、私はそれでも屈しない、屈しないぞ、うふ、あふ」


 彼女はそのままびくびくと震えながらその場に倒れた。




「うぅ、シスターアミィはわしの癒やしじゃ。心の安らぎじゃあ、あぁ」


「あらあら、うふふ」


「うぅん、なかなか当たらんな、確率どうなってんだ!?」


「そんな、あぁ❤ ヤメロォ、ワタシハクッシナイゾォ」




 そして目の前にはカオスが展開された。


「なにこれ」



 そんな言葉しか出なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

参上メルル団!! 異世界転生させません! フィオネ @kuon-yuto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ