参上メルル団!! 異世界転生させません!

フィオネ

我らはメルル団

第1話 異世界転生!? ちょっとまてい!

「くっそぉぉぉ!!! 文が書けない出ない!!」


 机の前の回転椅子に座って、パソコンを前に俺は頭を唸らせていた。俺の名前は久遠明(くおんあきら)、高校二年生だ。身長はなかなか高く、かっこいい顔と髪型と自負しているが、いかんせん目つきがとてつもなく悪く、よくヤンキーと思われる。そんな見た目とは正反対で俺は趣味で小説を書いている。


 中学くらいのときにパソコンを親からもらい、その時は操作を規制されていた関係でよく一人でお話を書いていた。それを後々に、賞などに応募すると、ネットから評判のいい声が届くようになった。それからというものいつも執筆活動に明け暮れている。


 はっきりいって全くの無名ではあるが、そこは趣味の範疇だから全然いいのである。楽しくかければ。そう思っているのだが、やはり書くのであれば、リアリティは追求したい。


 たとえそれが非現実なものでも、なるべくリアルを追い求めたい。


 とはいえ非現実にリアルを求めるという矛盾はどうやっても解決できない。それが俺のスランプだ。


「くそぉ、どうすればいいんだ。この火炎の魔法は、どのくらいの感触で書けば、いい感じに映えるんだ!?」


 部屋の外まで唸り声を上げてしまう。そんな自分に嫌気が差す。だがそんなときだ。



「ちょっと、あきにぃ!!」


「うお!?」


 強い衝撃音で部屋の扉がごじ開けられて、後ろから大声が発せられる。その声は怒りに満ちたものである。俺は椅子をくるんと180°回転させ、後ろを振り返る。


「お、おい、びっくりするだろ。ちゃんとノックしろ、香菜!!」


 そこにいたのは、こじんまりとしたかわいい少女だった。きれいな黒髪のツインテールで、大人っぽいというかどことなくませた服装をしている。


 彼女の名前は久遠香菜(くおんかな)。俺の3つ下の中学二年生だ。誰に似たのか、すっごく目付きが悪い。


「うっさい!! さっきから風呂が空いたって言ってるでしょ。あきにぃが先に風呂はいらないと、私が堪能して入れないの!!」


「た、堪能ってなんだよ。風呂入る順番くらい決めさせろ」


「いやよ、あんたが入らないと私の日課ができないの!! それくらい察しなさいバカのあきにぃ!!」


 こいつは俺に対する態度がすこぶる悪い。あたりがきつく、暴言ばかり。ツインテ・低身長・ツリ目の三拍子が揃うど定番なツンデレキャラだ。デレたことはないけど。


 むしろ小さい頃はあんなになついていたのに。反抗期なのか、ともかく辛いものがある。


「口で言ってもわからないなら、くらえ!!」


「え、ちょちょ、うお!?」


 なんと妹はそのままズカズカと接近したかと思うと俺が座っていた椅子を押し出すように蹴り込んだのだ。俺が座っている椅子は可動式。なので妹がけった勢いで椅子が後ろに思い切り飛ばされた。そして後ろ向けに椅子ごとPCにダイブしてしまう。


「のぁぁぁあああ!!??」



 ガシャンと音が響き、机が散乱する。そしてPCはぶつかった衝撃で強制的にシャットダウンしてしまった。



「うおぁあああぁぁ!!!?? 俺の小説がァァァァ!!!??」


 せっかく書いていた小説はいまの衝撃で一気に吹っ飛んでしまった。ショックで嘆く中、そんなことなど意も返さず、妹は持っていたものを俺ベットに放り投げる。


「あとそれとあきにぃに届け物だって」


「お、おい!?」


 投げられたものは大きめの段ボール箱。なんだろうかこれは。


「受け取っただけだから中身は知らない!! そんなものはどうでもいいから早く来てよね!! バーカ!!」


 そして舌を出して思い切り馬鹿にしてから階段を降りていった。


「はぁ、まったく乱暴なやつだよ。まぁ、でもバックアップは取ってある、そこは問題なし。PCもずっと起動しっぱなしだったから、再起動タイミングにはちょうどよかったよ」


 データがぶっ飛んでたら間違いなく怒ってただろうが、そこは抜かりなしだ。最悪クラウドにもデータはあるから大丈夫。


 しかもだ、俺は妹喧嘩するなどという無駄な時間を過ごせるほど暇ではないからな。


 とそんなことを考えながら、やはり集中し過ぎで疲れてくる。気分転換にと俺は妹が投げた箱を取りに行った。


「なんだろな、これ?」


 雑に投げられたせいで箱が凹んでいる。しかし、中身には支障はないだろうかと心配したが、中には衝撃剤も入っている。なかなか厳重だ。


「なんだこりゃ!?」


 入っていたのは、目元を完全に覆ったシャープな形の青色多めのゴーグルと、ゲームソフトのパッケージだ。そして付属していた注文表のような紙にはVR機器と書かれていた。


「VR? なんで俺の家にそんなもんが」


 なぜこんなものがうちに届くのか。しかも箱を見ても差出人の名前も住所もない。一体誰がこんなものを。


「どうもあやしいな。しかもなんだこのゲーム? エンジェルズサーヴァント?」


 ゲームソフトのタイトルも聞いたことがない。新手の詐欺かなと勘ぐってしまう。


 パッケージのイラストも、スマホゲームでも見かけそうなリアルな描写で描かれた異世界ものだ。裏にはゲームのシステムやキャラのことが書かれている。そしてVR機器と連動しているらしく、PC接続で楽しめるそうだ。


「どうみてもうさんくさいが、………気晴らしにはなるかな?」


 絶対胡散臭いのはわかっていた。もしかして起動した瞬間、ウイルスに侵されるとか。でもなぜかやってみたい気持ちに駆られてしまったのである。


「やってみて判断するか。ウイルス警戒して予備のオフラインパソコンでやろっと。オンラインゲームだけど」


 俺はさっそくVR機器を頭に被る。


「これ、こわいな。どこぞのゲーム世界から出れない展開はごめんだぜ」


 軽く苦笑しながら、俺は起動スイッチを押した。






『なぁああ!!! 起動しよったぞ!! 早く止めるのじゃ』


『無茶です。今のタイミングじゃ遅いっす』


『じゃあどうするのじゃ!?』


『マスター、ここはもう直接飛ばされた先に出向くしか』






「うん? なんかよくわからん声が聞こえたぞ」


 不思議な声が聞こえた気がしたが、ノイズか何かと思ったので特に気にせず、俺はゲームの始まりをただ待った。


 その瞬間だった。





「うわ!!!???」






 突然、起動していたPCとVRゴーグルに電流が走り、全身がしびれる。それも強烈にだ。



「がああぉおおぉおおお!!!??」



 今までに感じたことのない。激しい痙攣と痛み。そして一気に視界がフラッシュバックした。
























 


「あっ」




 一体、どのくらいの間が空いたのだろうか。



 意識が戻った感覚があり、ふと目が開いた。


「あぁ、どこだここ?」



 薄い意識の中、あたりをきょろきょろと見渡す。するとそこはなにもない真っ白の空間であった。


「な、なななんだここ!?」


 その光景を目の当たりにした瞬間、一気に意識が復活した。


「俺、どうなったえぇ、さっきまで部屋だったのに!? い、椅子に座ってるなんだここは!!? ゲ、ゲームの世界!?」


 気がつくと俺は妙な装飾がされた木の椅子に座っていた。さっきまでVR機器で遊ぼうとしていたのに。混乱しまくりでパニックになった。


 そしてさらに驚くことが起こる。


「うわ!?」


 目の前に突然の閃光。思わず両腕で視界を塞いでしまった。


 だがその光はすぐに消え去った。それが分かると俺はそおっと手をどけて目の前を見た。


「え!?」


 するとそこには白い衣服を着こなした、金髪碧眼の女性が自分と同じ椅子に座っていたのだ。



「な、なんだ、お前!?」


 俺が慌てて、声をかけるとその女性はゆっくりと目を見開いた。


「ようこそ、転生の間へ。私は異世界への旅立ちを補佐する女神です」


 そしてわけのわからない自己紹介をしたのである。


「は、はぁ? 何を言ってんだお前」


 さらに慌てふためく俺。なんなんだ、この異世界転生で出てきそうなやつは。


「あれ?」


 その考えが頭に浮かんだ瞬間、この現状がまさにそのとおりではないかと疑い始めた。


「やはり初めての方にはこの状況は理解に苦しみますよね」


「あ、いや。なんか思い当たる節があるんだ」


 この嫌な予感。俺はすぐさま質問することにした。


「なぁ、俺ってもしかして今から異世界転生されてるの!?」


「まぁ、すばらしい。この状況を瞬時に理解されていたのですか? それは頼もしいです。そうです、改めて申し上げますが、ここは転生の間という失われた命を異世界へと新たに生まれ変わらせる場所なのです」


「ま、まじか!?」


 まさか異世界転生ものでテンプレになっている事がが俺に身に起こるなんて。しかもこれは俺が実体験だ。この体験は小説に活かせるぞ。


 俺は心躍らせた。しかしながら、女神の言葉がちらっと頭に浮かぶ。


「あれ? 転生の女神さん。俺死んだって言った?」


「はい、あなたは死んでおります」


 女神はあっさりそう言うと手を宙に差し伸べる。すると立体映像が浮かび上がり、俺の自室の映像が写り込んだ。


「なああああ!!?」


 そこにはVR機器を装着して、前のめりに倒れる俺がいた。しかもちょっと髪が焦げてやがる。これって感電死したのか?


 しかも異変に気がついたのか。なんと妹が部屋に入ってきた。


「あ、あきにぃ!? なにこれ!! あきにぃぃぃぃ!!?」


 変わり果てた俺を見た妹は大声で俺の名前を叫んでいた。


「な、香菜ぁぁぁ!!!?」



「おっと、余計なものを」


 その映像が流れた瞬間、女神はすぐさま映像を消した。


「わかりましたね。あなたは死んでいます」


「おい、いま余計なことって言いやがったな。俺の妹の心配している姿を!!?」


「それでは、あなたの命を別の世界に飛ばす準備を行います」


「お、おい無視すんなよ!!」


「ではこちらを御覧ください」


 女神は俺の問いかけに一切答えずに淡々と説明をしていく。あんなに優しそうな風貌なのに、狂気を感じ始めた。


 女神が再度映し出したのは、自然広がる豊かな風景。そして見慣れない生物や、中世ヨーロッパ風の町並みで見ることができた。


「ここは、異世界アルトリアンという世界です。一見のどかですが。ここには魔王が世界征服を目論んでいるのです。あなたにはここの世界の勇者として魔王を打倒してください」


「いや、俺行くって言ってないけど!!?」


「転生ボーナスとして、あなたには伝説の竜殺しの剣と、マグマのような灼熱にも耐え、象に踏まれても1ミリも曲がらない強固な鎧を授けます」


「だから、俺の話を聞けって!!!」


 全く意見が通らず、話が進んでいく。しかも気がつくと俺の体は光り輝いていた。


「こ、これって!? まさか飛ばされるのかぁぁぁ!!?」


 何となく分かる。これはやばい、俺このまま否応なしにあの世界へと連れて行かれる。


 普段は生意気な妹があんなに泣きながら心配していたのに、こんな理不尽女神に異世界とか分けのわからない所に送られるのか。


「い、いやだぁあああああ!!!!!!」


 俺は心の底から叫んだ。無駄だとわかりつつ、必死に女神を見つめた。


 しかしそこには不敵な笑みも浮かべる女神の姿があった。


「あ、悪魔……」


 これが異世界転生だと。ふざけるな。いやだ行きたくない!!!!


 俺は心からもそう否定した。





「よくぞ申した!!!!」





ばごぉおおおおおおおおぉおおおおぉぉおおおおおぉぉおぉおんんんん!!!!!!!!!!!




「ぎゃあああああああああ!!!!!!!」




 その瞬間だった。いきなり女神の真上から雷が降り注いだのであった。



「うおぉおおおおお!!!????」




 衝撃で俺はふっとばされる。椅子は後ろへと横転し、俺も地面に頭をぶつけた。


 だが雷は一瞬。少し立つと、焼き焦げる匂いが漂い、周囲の煙も引いてきた。


「いちちちち」


 俺は痛がりながら、なんとかそこから立ち上げる。そして俺は目の前の光景を見せつけられた。



「うぉおおおお!!!?」



 目の前は小さなクレーターができており、地面が丸焦げだ。


 そして女神自身はあの有名なポーズで倒れていた。。


「うわぁ、初めて見たよ!!! 『ヤ○チャしやがって』。すっげぇぇ!!!??」


 世代ではないのだが、ネットスラングになるほど有名なポーズだ。間近で見てものすごく興奮した。


「いやいや、そんな場合じゃない。何が起こったんだ?」


 そうだ。今は『ヤ○チャしやがって』について喜んでいる場合ではない。


 そうさっきまで機械のように作業をこなし、いやまるで嬉々と人を転生させようとしていた女神の上になぜ雷が落ちたのか。しかも気がつくと、体の発光も消えていた。


 現状が理解できないうちに、さらに理解が追いつかない事が俺の身に起こる。




「ぬあぁはっはっはっはっはっは!!!!!!!」



「うぇ!?」


 急に、高笑いする女の子の声が上から聞こえてきたのである。俺は奇妙な声を出しながら上を見る。もちろんその視線の先には何もなかった。だがその声は続く。



「危なかったな、青年よ。わしは異世界をいずれすべるであろう王の中の王『メルル』様だ。今し方、貴様の強い念を受け取り、異世界転生から救ってやったぞ!!! ありがたく思うがいい!!!!!」


「はぁ!?」



 俺はただただ呆然とするしかなかった。

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