第6話 昏倒

 今のはなんだ?見間違いだろうか……


 もう一度開けてみるが、同じ光景が広がっている。建ち並ぶ家と思わしき木造の建物や、整備されてない道……実家のある東北はかなりの田舎だが、さすがに今見ているような景色はありえないはずだ。道を歩く人の中に明らかに人間ではない種族が混じっている。


 そっと扉を閉め、老人に尋ねる。


「あのー。ここは何処ですか?」


 老人はニコニコしながらこたえる。


「ムルステ村じゃが?」


 ムルステ村……ムルステ村……聞いたことないぞ?


「ちなみに、ムルステ村って日本ですかね?」


「はて?にほん?とはなんじゃ?儂は一本しか持っとらんがのぉ」


 と、自分の股間に視線を移す。下ネタかよ!頭いてぇ……


「一本、二本のにほんじゃなくて、国の名前だよ!」


 金髪少女がジト目で俺と老人を見る。俺は関係ないだろう。


「おぉ。そうであったか!それは失礼したのぉ。ここはアルステン王国じゃ」


 アルステン王国……聞いたことないな。とすると、これは夢だということになるのか。さっきぶつけたせいなのか頭が痛い。夢とは思えない痛みだ。


「あなた何処かも知らないで旅してたんですか?呆れますね」


 金髪少女が心底呆れたと言わんばかりに俺をみる。


「旅?なんの事だ?」


「あなたの格好です。鎧を着て剣を持ってました。騎士というわけでもなさそうですし、迷宮街に向かって旅の途中に行き倒れたと思っていました」


 鎧と剣?迷宮街?


「なんの事かわからない。俺は旅なんてしてなかったし、家で寝て起きただけだったんだ」


 頭痛がする……、わけがわからない。


「ふむ。どうやら倒れたショックで混乱しておるのであろう。どうじゃ?ここで少し休んでいくというのは」


 夢だ……これは夢だろう。すぐに醒めるはずだ。


「司祭様!素性の怪しい旅人の面倒をみるのですか!?私は嫌ですよ」


「アーシェ……そうは言っても死んでもいない人間が棺桶に入れられて埋められるところじゃったのじゃぞ?混乱するのも無理はなかろうて」


「うっ……それは……」


「ほれ、謝って許してもらうのじゃ。それで、裸で一緒に風呂に入ってもてなすのじゃ」


「何をおっしゃるんですか!冗談が過ぎます!」


 あー。五月蝿い……いい加減にしてくれ。


 俺は激しい頭痛に耐えきれずにフラフラする。


「うぬぅ。冗談の通じないやつじゃ。頭堅いのぉ。じゃが、冗談ではなく謝らねばならんぞ?ほれ」


 もう、どーでもいいよ。そろそろ夢から醒めそうだ。


「くっ……こ、この度は私の勘違いでご迷惑をおかけしましたっ!ご、ごめんなさいっ!」


 と、金髪少女が頭下げるのを見ていたが、俺はとうとう頭痛に耐えられなくなり、そのまま少女にもたれるように倒れた。


「ちょっ、ちょっと!何してるんですか!」


「うむぅ。頭でも打ったのかのぉ」


「ザロモン司祭!見てないで、助けてください!」

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