第2話 後に残るのは虚しさ
「戦利品見れないんだけど、なんだこれ?」
やはりVCでは誰からも返事がない。
「VC聞こえてる?」
今度はキーボード入力でチャットを試みるが、エラーが出てしまう。
「リーダー。おつーwwwwww」
クランチャットでもPT《パーティ》チャットでもなく、周囲にのみ確認できるささやきチャットでトキが発言する。
なんだこれ?と思いつつ俺もささやきで返す。
「なんか……パーティから抜けちゃってるんだけど誘ってくんない?」
しばらくの沈黙の後……
「ぷっくくくくくくwwwwwwww」
「腹いてーwww」
「マジウケるw」
「wwwwwwwwwwwwwww」
「マジ乙w」
みんなチャットで笑い出した。
何が可笑しいのか。
「なんか、抜けちゃってるから誘って」
再度希望を出すが、パーティには誘われない。
「2回目キタコレw」
「もう……やめてあげてwリーダー死んじゃうwその前に腹筋崩壊で俺が死ぬかもwww」
みんなが不快な「www」を連呼する中、再びトキが発言する。
「リーダーさ。状況判ってる?」
「状況?いや、PT抜けててロットできないってことだけど……」
「それはそうなんだけど、なんでPT抜けてるかさ」
「間違って離脱クリックしちゃったのかなぁ?」
「俺がキックしました!意図的に!w」
「は?なんで?」
「言わなきゃわかんないの?じゃぁ、言うけどさぁ……お前、生意気なんだよw偉そうにリーダー気取ってさwクランのみんながお前の事大っ嫌いなのよwだからキックしました!以上!」
また、笑いがおきる。VCはすでに切断されている。
「ちなみにドロップアイテムは神性能w」
「リーダー。泣かないでねw」
「動画アップする時はボカシ入れるから安心してねw」
「キャ〜wリーダーがまたエロいこといってるぅ」
ちょっと待て、俺は何も言ってないじゃないか……
「通報しました!」
「俺もw」
「しますたw」
「リーダー偉いからこれどういう事か分かるよね?あ、偉いじゃなくてエロいだw。じゃ!これから大変だろうけど、頑張ってね!強くイキロ!w」
と、トキが言い転移アイテムを使用した。
ようやく状況を理解した時には、その他のメンバーも転移アイテムで飛んでいた。
裏切られたのだ。討伐からキックされるのも一瞬だったようだ。討伐前のキックなら討伐フラグすら立っていない可能性もある。リーダーの譲渡も計画していたのか……ネットゲームではよくある事だが、自分がやられるとは思ってもみなかった。
「くそっ……。くそっ、くそったれめ!」
誰も聞いていないマイクに向かってありとあらゆる悪口雑言を口走る。
さらなる怒りが湧いてくるが、ぶつける相手はいない。チャットを飛ばすにしても、おそらくBL《ブラックリスト》に入れられて届かないだろう。GMに報告しても、個人間のトラブルには干渉してくれない。
やり場のない怒りが湧く中、ささやきで話しかけられる。
「あの……ミツハル君?」
まだ馬鹿にしたりないヤツがいるのか。周りを確認すると、神官衣に身を包んだ小柄なエルフのキャラクターが一人だけ残っていた。
「なに?アイラさんも何かあるの?どうせすぐ逃げちゃうんでしょ?もういいよ。さっさと消えろよ!」
もはや、周りも気にせずささやきチャットで言った。
誰かに見られても関係ない。どうせ終わりだ。
「あの……声……聞こえるから」
アイラさんからチャットで返答があった。
声?
VCを確認してみると、アイラさんだけ通話状態のままだった。さっきの悪口雑言を聞かれたと思うと追い討ちをかけて虚しい気持ちになってくる。
「な、なんで残ってるの?ここにいると巻き添え喰らうよ?」
今度はVCで話すが、多少声が裏返ってたかもしれない。恥ずかしい……
「私はあの人達と一緒じゃないよ?ミツハル君と一緒にいたいから残ってるだけ……」
「アイラさんは、この事知ってた?」
恐る恐る聞いてみる。
「ううん。知らなかった……」
そうだ。この人は聞き専な上に「はい」と「いいえ」しか打ち込まない。仲間ハズレにされたのだろうか。
考えてみるとアイラさんと会話するのは初めてかもしれない。
「そういえば、アイラさんと話すのってほとんど初めてな気がするね」
「そう……かな?私はいつもミツハル君の声を聞いてたし、見てたよ?」
嬉しいけど、ちょっと怖い……。
「ありがとう。さっきも言ったけど、ここにいると面倒くさい事になるから、早く離脱したほうがいいよ。俺は、今日でプレイ出来なくなるから……このまま引退する」
「私も、今日で終わりなの……ファフニールの声が聴こえたから……」
「ファフニール?何それ?」
ファフニール?神話に出てくる龍の事か?ファブニールとかファフナーとかファブリーズ?それは違うな……さっきのエンシェントドラゴンのことか?
あくまで、表示もエンシェントドラゴンという名称だったはずだし、カン違いか?ボスを倒したから引退するってことかな……
「あー、声ね。珍しいよね。このゲームでボイス出るなんて……ま、あいつらの声で聞き取れなかったけどさ」
せっかくのボスセリフが、馬鹿どもの声で聞き取れなかった事を思い出す。くそっ……またイライラしてきた。
「声が聴こえたの!?ミツハル君も!?じゃぁ、ミツハル君は……」
ささやきチャットではなく、ヘッドフォンから声が聞こえる。可愛いらしい女の子の声だ。なんだ……ネカマだと思ってたのに。
モニター上で自分のキャラクターの前の空間が歪み、一人のキャラクターが現れる。GMだ。やはり通報したのはホントらしい。これから先が外部との接触は制限される。VCも運営側が用意している物を使っているから切断されるだろう。
「あ、ごめん。お迎えきたわ。多分VCも切れるからここまでだね。最後に話せて少し気持ちが楽になったよ。あと、声可愛いね。じゃぁねー」
「待って!私はっ……私とミツハル君は……」
何かを言おうとしていたが、無情にもVCはブツッという音を残して切断される。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます