第3話 ゲームマスター
目の前のGMから個人間のチャットが入る。
「こんばんは。ミツハル様」
俺も普通に返答するが、正直どうでもいい。
「こんばんは。どうかされましたか?GMの方ですよね?」
「はい。私、ゲームマスターのユリウスと申します。実は先程、数名のプレイヤーよりミツハル様が多数のキャラクターに対し、暴言・セクハラ言動があったとの通報があり、事実確認のため参りました」
ゲームマスターにも名前があるのには驚く。
「このエリアでの会話は他のプレイヤーの目につきますので、場所を変えさせていただきます」
返答を待たずに画面が切り替わる。
移動したのは薄暗い何処かの地下マップのようだ。外部と遮断された通称“お仕置き部屋”である。
「このような陰気臭いマップにお連れした上にお茶も出せませんが、ご理解下さい」
意外とお茶目である。
「さて、先程の続きとなりますが通報の通り暴言やセクハラ言動などの事実はありましたでしょうか?」
「VCでしょうか?それともチャットでしょうか?」
「その両方と聞いております」
汚名を着せられたまま引退に追い込まれるのは悔しいので、悪足掻きをしてみる。
「いえ、相手側にも暴言・セクハラと捉えられるような発言は一切しておりません。むしろ私に対しての暴言があったと思います」
「そうですか。こちらとしても、この素晴らしいゲームに風紀を乱すようなプレイヤーがいるとは思いたくありません。しかしながら、規定として過去のログをチェックし問題があれば、プレイ規則第2条3項:他プレイヤーへの執拗な迷惑行為としてアカウントの停止又は削除を実行しなければなりません」
「はい。分かっています」
「ログを確認するのに2日ほどお日にちをいただきます。その間はログインはできませんのでご理解下さい。結果については登録されているメールアドレスに送らせていただきます。なお、この会話が終了して間もなく強制ログアウトとなりますので、予めご了承ください。願わくばあなた様の疑いが晴れ、また別の世界で素晴らしい冒険ができるようにお祈りいたします」
「はい。ありがとうございます」
「それでは、おやすみなさい」
デフォルトの会話なのかもしれないが、妙に人間臭いと思った。
GMが消え、モニターに数字が現れる。1分……意外に長い。
カウントダウンが始まる。結果がどうであれ、もうログインする事はないだろう。今頃は某掲示板で討伐と俺に対する誹謗中傷盛り上がっているはずだ。
薄暗い画面のせいかカウントが減るたびに睡魔が襲ってくる。
30……
29……
このゲームに費やした8年は何だったのか……
20……
19……
素晴らしい冒険ね……
10……
9……
また別の世界?
5……
4……
あ、だめだ……眠い
1……
『ゲームマスター権限による強制ログアウトが実行されました』
システムメッセージが表示されるが、俺の意識はすでに落ちていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます