黄金のファフニール

とっぴんぱらりのぷ〜

第1話 エンシェントドラゴン

  戦闘が始まって3時間が経とうとしている。開始前には口数も多かったメンバーも、今は俺の指示に簡単な返事を返すだけになっている。この状況はマズイと思いつつも、チャンスとなる終盤まではたえなければならない。


「ブレスくるよ!前衛は横に移動して!」


  俺の指示に数名のメンバーが移動をし始めるが、集中力が無くなってきているのか、5人の内2人が間に合わず、ブレスを喰らってしまう。盾役である俺は耐えれるが、純粋なアタッカージョブではひとたまりもない。


  案の定、まともに喰らった2人は1撃で戦闘不能になる。今、戦闘しているモンスターは現段階では最強なのだ。“全ザーバー”でも討伐情報はない。モンスター1匹相手に数時間も戦闘を続けるというのは、ネットゲームとして壊れていると思うが、誰よりも早く攻略したいというのはネットゲーマーの悲しき性である。


「トキさん、さっきもブレスで死んでたよ?。ニャンさん、回復もうちょっと早く。アイラさん、状態異常かかってるから、アイコンしっかり確認して!」


「ん?わりぃわりぃ」


 トキと呼ばれた前衛が笑いながら応える。


「りょうかーい。でもMPカツカツなのよー」


 ニャンと呼ばれた後衛は軽い感じで応える。


「はい」


 アイラと呼ばれた後衛は“聴き専”なので、チャットで応える。


 FPSではVC《ボイスチャット》を使用しながらプレイするが、MMORPGでは攻略クランでもなければ、基本はチャットのみだ。俺のクランは攻略クランなのでVCを使用している。


「トキ怒られてやんの〜」


「また、エロゲーしながらでない?」


「てか、半分くらい寝てるでしょ?」


 メンバーがトキを茶化すが、当の本人は無言だ。おそらく、死亡ペナルティの数分を利用してトイレか一服に行ったのだろう……勝手なヤツだ。死んだのもワザとかもしれない。


 ブレスは何度も使用しているから、集中してれば避けれるはずだし、MPはエーテルをガブ飲みすれば枯渇することはないはずだ。状態異常や回復は、盾役に常にターゲットを合わせてれば速攻で治療出来るはずだし……ダメだしすればキリがないな。VC中なのに小さく舌打ちをしてしまう。


「雑魚が沸いたら、HP一割らしいから、雑魚もまとめて範囲魔法で焼いちゃって!召喚の硬直に入ったら指示するよ!」


「ただいまー」


 と、悪びれもなくトキが戻ってきた。離席するなら一声かけろよ……


「あ、リーダー。後衛のパーティの編成するからリーダー権限もらってもいい?盾だと忙しいでしょ?」


 正直、後ろの状況が見えない盾役はリーダーを兼務するのが難しい。助かったと思いつつ、リーダーを戻ってきたトキに譲渡する。寝オチが心配ではあるが……


「わかった。じゃぁ、後衛パーティの編成よろー。寝オチすんなよ?」


「大丈夫、大丈夫。さっき寝たから〜」


 VCから一斉に笑いが起きる。憎めないヤツだ。


 俺にとっては最初で最後のチャンスだ。長かった学生生活も終わり、あと数日で研修医としての生活が始まる。そうなれば、ネットゲームをしている余裕はないだろう。このドラゴンに挑むには数週間かけて何十という下位と上位のドラゴンを討伐し、トリガーアイテムを集めなければならない。


 しばらくすると、目の前のドラゴンから召喚魔法詠唱のグラフィックが見える。他クランの動画から詠唱時間は5秒だ。雑魚が召喚されると盾役が集中砲火を浴びて一気に崩れる。どこのクランもこの終盤でつまづいていた。原因は魔術士の詠唱時間のズレだ。


 今日この時のために5人いる魔術士の装備とスキルを調整し詠唱時間を同じにしている。


 こちらの詠唱時間は着弾まで4秒。雑魚のPOPから占有できるタイムラグが1秒あるため、ドラゴンの詠唱開始2秒でこちらの詠唱も開始だ。


 1……


 2……「詠唱開始!」


 VCから指示を出すと同時に後ろから聞こえる詠唱音を確認する。うまくいけよと念じる。


 動画通りに5秒で雑魚がPOPする。モニター上では表示されるが、ここで着弾してもダメージにはならないのがネットゲームの罠だ。


 POPし動き出す瞬間に5人分の高位範囲

 魔法が着弾する。


 一瞬にして雑魚が消滅するが、油断はしてられない。今までのパターンからしてあと数分後には再召喚し、敵のLvも上がるはずだ。


「出し惜しみなしでアビ全開!」


 1日に1度しか使えないSPアビリティを全員で叩き込む。


 今までの3時間は何だったのかと思うほどにドラゴンのHPバーが減っていく。


 そして、SPアビリティの効果時間1分が終わる直前にドラゴンのHPバーは完全に0になった。


『小さき者たちよ……。見事であった……。いずれ彼の地で……』


 ボスキャラのお決まりの文句がヘッドホンから聞こえてくるが、そんなのは関係ないとばかりにメンバーによって掻き消される。いくらボスとはいえモンスターが話すというのは初めてのことなのだが……そんな事はどうでもいいらしい。


「やったー!」


「よっしゃー!」


「ちゃんと動画撮ってる!?」


 MMORPGには全クリなんてないのだが、取り敢えずの目標は達成された。


 一呼吸置いて、ドロップアイテムを確認するために戦利品欄をクリックする。


 が、何も表示されない。


「ん?まさかのノードロップ?」


 VCで発言するが、誰からも返事がない。


 どういうことだ?状況を理解できない。


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