第26話:事件の真相
翌日、授業が終わり教室を出るとジェラールが待っていた。
「ランドルフ商会?」
「ああ。今回の洞窟の件は奴等の仕業だ」
「何で?」
ランドルフ商会を、商売敵だが路頭に迷う人々の面倒を見てくれる良いところ、程度にしか思っていなかった僕は、突然の事に話が見えなかった。
「洞窟のゴブリンを焚きつけて、街を襲わせる算段だったようだ」
「何の為に?」
「奴らは商会の名前を売ろうとしてるんだよ」
「そんな事の為に街に魔物を放つの?」
「目的の為なら手段を択ばない。ましてや、奴らはセドリック派と繋がりがある」
セドリック派、学院にいる時に何度も聞いた名前だ。虐めてくる貴族は大概その派閥に入っていたし、父への嫌がらせもその貴族達が多かった
ランドルフ商会がそのセドリック派と繋がりがあると言う事は……
「まさか、父さんは……」
「そうだ、おやっさんを殺したのもランドルフの一味だ」
頭の中に、理解しがたい感情が渦を巻いて襲ってくる。
政争などと言う血生臭い世界に縁のなかった僕は、目の前が暗くなるような感覚と共に、その理不尽さに納得出来なかった。
「セドリックは、いまだ王位を狙っている。それにはルイス国王と繋がりの深いおやっさんが邪魔だったんだ」
「邪魔だからって……」
「ランドルフ商会ってのは、元は野盗の一味だ。己の欲望の為には、人の命など何とも思わん。当然、潰すはずだった学院は残ったままだから、次に狙われるのはデュラン、お前だ」
「?」
僕が、狙われる?
父に関してだけでも理不尽極まりないと思っていたが、その上僕まで狙うとは。自分の身が危険に晒されていると分かっても、もはや恐怖を通り越し怒りがこみ上げて来ていた。
「僕は……どうすれば?」
「選択肢は二つ。学院を明け渡して何処かへ逃げるか、おやっさんの仇を取るか、だ」
怒りに任せて仇を取りたい一心の僕がいる。
しかし、その前に僕は学院の院長であり、クロエ達の先生でもある。まず重要視しなければならないのは彼女たちの安全だ。
しかし、学院を明け渡せばどうなる?
クロエや他の皆の命も安全は保障されるのだろうか?
手段の為に父の命を奪った奴らが大人しく言う事を聞くのだろうか。
逆に、敵を討つとして、皆に危害が及ばないだろうか?
気が付くと僕は、様々な問題やリスクが頭の中で渦巻いて抜け出せなくなっていた。
「デュラン」
そんな僕に、ジェラールは真剣な目で語り掛けてくる。
「お前はどうしたいんだ?」
「!」
悶々としていた僕の考えを見透かしたように、ジェラールがもう一度聞いてくる。
「僕は……」
頭に渦巻いている物を全て消し去っていき、最後に残った思いを口に出した。
「僕は、戦う」
「よく言った。流石は俺の弟だ」
そう言ってジェラールは、いつもの人懐っこい笑みで僕の肩を叩いた。やはりいつもながら加減を知らない一撃だ。しかし、この一撃はいつも僕に勇気をくれる。
「お取込み中に、失礼いたします」
サイモンさんが書類を小脇に抱えて入ってくる。僕とジェラールの話が終わるタイミングを見計らっていたかの様だ。いや、サイモンさんの事だ、実際に見計らっていたのだろう。
「魔術大会?」
書類を僕に渡すと説明を始めた。
「左様です。毎年執り行われる収穫祭で、新たに開催すると王城よりお触れがありまして、優勝すれば『国選』を得られるそうです」
「国選って何です?」
聞き慣れない言葉を耳にして、サイモンさんに尋ねる。
「国選とは文字通り『国王が選びしもの』、国家公認になる。という事でございます。そして選ばれた者は様々な優遇を国から受ける事になります」
「じゃあ、この魔術大会に勝てば、ランドルフの思惑は潰せるって事? でも相手は無茶してこないかな?」
「流石に人目の多いところじゃ、手は出してこねぇだろう。まぁ今後は一人での外出は控えた方が良いがな。どうしてもって時は俺が護衛についてやる」
「有難うジェラール、戦うって言ったけど、皆には極力危険が及ばない様にしたいから」
「そこは承知してるつもりだ」
勢いで言ってしまったとはいえ、やはり皆の安全は最優先だ。相手も邪魔になれば容赦は無いだろう。最終的には命のやり取りになると思う。
僕は引き続き書類を捲って魔術大会の参加要項を確認する。登録数に制限は無く、個人戦と五人以上で戦う団体戦がある様だ。
「個人と団体、両方参加しよう」
「そう思いまして、既に申込書はこちらに。後は出場者の名前を書くだけでございます」
「流石、サイモンさんですね」
「お褒めにあずかり、光栄です」
早速申込書に必要事項を記入すると、サイモンさんに手渡す。
その日の夜、学院の食堂に全員を集めると、魔術大会に向けて作戦会議を開いた。
「ただ今より、緊急作戦会議を始めます」
メンバーは、クロエ、アリエッタさん、エリシア、ミリス、ヒューイの五人と、サイモンさん、あと、今日から護衛で泊まり込みのジェラールだ。
ちなみにヒューイは、僕の傷が回復した翌日に、ジョアンナさんの薬屋へ赴いてスカウトして来たのだ。学費免除と薬草採取は学院の授業で行い、薬屋に格安で納入する条件で、学院内で薬を作成してもらう事になっている。
「魔術大会、でございますか?」
クロエは問いかけると、アリエッタが入れた紅茶を優雅に口元に運ぶ。
「そうです。収穫祭で行われる催し物として、魔術を競う大会が開かれるとの事ですので、我々も参加をする事に決めました」
「すごーい! クロエさん強からね」
エリシアは完全に他人事のように言うと、テーブルに置いてあるスコーンを頬張った。
「個人戦には、クロエさんに出ていただきます。エリシアさん、あなたもね」
「ぶえっ? ごほっごほっ」
エリシアは、飲みかけの紅茶とスコーンをぶちまけると、激しく咽た。
「あらあら」
ミリスが厨房に入ると、布巾を持ってきてエリシアの前の惨状を拭き始める。
「魔術なんて、使えないよ」
「大丈夫、大丈夫」
咽すぎて涙目になりながら訴えるエリシアに、自信たっぷりに答える。
「何か、良いですね。こういうの」
一連のやり取りをニコニコと眺めていたヒューイが、ほのぼのと呟く。
「はい、そこで他人事と思ってニコニコしているヒューイさん、あなたも団体戦に出ていただきますよ」
「ええ~!」
それだけでは無い。団体戦は五人なのだから残るミリスとアリエッタさんにも出場して貰う為、話を続ける。
結局、この日は戦術の話も含め、夜遅くまで魔術大会の作戦が練られた。
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