第17話:学院の補給線
バーナードさんの店に盾を預けてから一週間、今日は改造の完了予定日だったので向かっているところだ。
隣には、目を輝かせながら街並みを見ているクロエと、少し後ろをついて来ているアリエッタさんの姿がある。
以前購入したクロエの装備も、サイズ調整が終わっている頃合いなので、一緒に出掛けていると言う訳だ。残念ながらデートではない。
「やはり、街に出るのは、胸が躍りますわ!」
満面の笑顔を浮かべたクロエは、後ろ手に組んで楽しそうにステップを踏んでいる。
若草色のブラウスに、緑のロングスカートを揺らめかせる姿は、少女を幾分か大人に見せ、街行く人々を振り返らせる。
しかし、声をかけようと近づく不逞の輩は、背後に控えるメイドの殺気を込めた視線に悉く撃墜されるのだった。
バーナードさんの店に到着すると、早速クロエが装備を装着して登録を始めた。
登録と言うのは、武器に付与されている効果を発動させる為のキーワードを持ち主が登録する事だ。
これを済ませると、持ち主の掛け声一つで効果が発揮する様になる。ちなみに他の者が同じワードを言っても発動しない、音声認識機能付きの優れものだった。
クロエが嬉しそうに発動させている光景を横目に、僕は出来上がっていたクロスボウの試射をする事にした。
道具屋の奥にある試射室に行くと、盾を構える。フロントとリアに
「すごい! これ、調整いりませんよ」
試しに撃つと、狙ったところに違わず矢が刺さった。
「一応調整はしといたからな。装填できる矢は三発までじゃ。そのまま戦闘や移動する時は、そこの安全ピンをはめておけば、暴発防止になる」
「ほほう。あと、これ……」
僕のカイトシールドには改造が施されいて、前方のエッジ部分に刃が仕込まれているのだが、それが新しく交換されていた。
「ああ、それか。お前さんには稼がしてもらったからのぅ。おまけで替えといてやったわい」
「有難うございまっす!」
僕は頭をブンブン振り回しながら何度もお辞儀した。有難うバーナードさん、有難うクロエ!
一方学院では授業が無かったので、エリシアがミリスの手伝いをしていた。
「今日は人が少ないので、簡単にサンドイッチを作ってみました~」
ミリスはいつもの様にふわふわと話すと、厨房から皿に乗せたサンドイッチを両手に食堂へ現れる。
「わー美味しそう! ミリスちゃんは本当に手際がいいよねぇ」
テーブルの上に食器を用意しつつ、エリシアが答える。
「これしか取り柄がないですからねぇ~」
残りのサンドイッチと、スープの入ったボウルを持ってくると、スープ皿に分けていく。
「そんな事ないよ、掃除も洗濯もすごいし」
エリシアは、スープの入った皿をミリスから受け取ると、各々の場所に配膳していった。
「兄さんなんて、ミリスちゃんのご飯大好物だからね。私も教えてもらおうかなぁ」
「そうなんですかぁ、自分のご飯が喜んでもらえるのは嬉しいですねぇ」
ニコニコと微笑みながら答えるミリスは、突如、何か考える様な仕草で動きが止まった。
「ミリスちゃん、どうしたの?」
木製の大きなスプーンを掴んだまま動きの止まったミリスを、エリシアは不思議そうに覗き込む。
「誰かの為にご飯を作ると言うのは、生きる意味になるんでしょうかねぇ」
ミリスは、遠くを見つめたままぽつりと呟いた。
「どどっ、どどどどうしたの? まさか、お兄ちゃんのおよよよ」
エリシアはミリスの突然の告白? に動揺していた。
「おやおや、何やら楽しそうですね」
二人のやり取りを楽しそうに眺めながら、サイモンが食堂に現れる。
「サイモンさん、お食事の用意、できてますよ~」
「いつも美味しいお食事を、有難うございます」
ミリスが声をかけると、サイモンはにこやかにお礼を言いつつ、手を洗いに厨房へ入っていった。
スープを置き終わると、ミリスも自分の席に付いてサイモンを待つ。
エリシアの方はいまだに、
「およ、およよよ、おおよ」
と言いつつ、スープ皿をスプーンでぐるぐる回していた。
サイモンが戻り、三人がテーブルに揃うと、食事を始める。
今日のサンドイッチは、細長いパンに切れ込みを入れ、ベーコンとチーズ、ローストオニオンを挟んだものである。
スープは、シンプルにオニオンスープだ。
「びっくりさせないでよー」
「んー、なんとなく思っただけで、特に深い意味はありませんよぅ」
ミリスに今のところその気は無いと聞いて、我に戻ったエリシアも食事を始めていた。
「やっぱり、アリエッタさんの紅茶じゃないと、ちょっと物足りませんねぇ」
皆の食事が終わると、ミリスが食後の一杯(サイモンはワイン、ミリスとエリシアはミルク)を用意して戻ってくる。
「私からすれば、皆さんと一緒にこうしてゆっくり一杯頂けることが、なによりでございます」
サイモンはミリスに感謝を述べると、ワイングラスを受け取り、香りを楽しむ。
エリシアはアーバインの力で、ホットミルクにしようとしていた。
ミリスはそんな二人の様子をニコニコと眺めながら、ミルクを飲んでいる。
外まだまだ厳しい日差しが続いているが、風は穏やかなものに変わり始めていた。
三人は、ゆったりとした時間を堪能すると、各々午後の仕事へと戻って行く。
「有難うございました。では、私は午後の仕事に戻ります」
食後の休憩が終わり三人分の食器を厨房へ持っていくと、サイモンは仕事に戻る。
「私はアーバインと、あそ……、特訓してくる!」
エリシアは、練習場の方へ向かった。
「はい、ごくろぅさまです~。わたしは町へ買い出しに行ってきますねぇ」
ミリスは、二人を見送ると、洗い物を済ませ街へ出かけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます