#4 とりあえず第一関門突破ですか?



受験者たちを避けつつ移動すること数分…



「…なあ」


「なに?」


「俺ら結構離れちまったんじゃないのか?」



言って、周りを見渡すと、彼ら以外の受験者……いや、人の姿が見えない。

風に揺れる木々や草の涼しい音以外、なにも聞こえない。

さっきまでガヤガヤしていたはずなのに、今となっては何で此処にいるのかすらあやふやになる程…



「確かに…ここまで他の受験者たちがいないと状況も何も分からないわね」


「来た道なら大体覚えてるし、戻るか」


「初めてアンタと意見が一致したわ。さ、道案内頼んだわよ」


「帰り道まで全部俺かよ……」


「…どうしたの?」



歩き出したと思ったらすぐ止まってしまった彼に首を傾げる。

少し怒らせてしまったのか?と、若干思いながら声をかけるが、返ってきたのは予想してなかった答えだった。



「……いや、そういえば…俺ここからどうやって帰ればいいんだろうって思って…」


「え?道覚えてるんじゃなかったの?」


「いや、さっきの場所までは戻れるよ。そうじゃなくて…この世界に来る前の、元の世界に……」



流石の俺でもここが、元いた自分の世界じゃないことくらいは理解した。

しかし、問題はどうやってこの世界から抜け出すか…だ。

それに万が一戻れたとしてあの事故の後、俺は生きてるのかすら分からない。

帰り方も、生きているのかすら分からないこの現状に、今更ながら不安が込み上げてくる。



___もしこのまま元の世界に帰れなかったら?


___帰れたとしても俺は生きてるのか?


___もしかしたらあのまま俺は…



「みみっちいわね!!」


「…え」



いきなり響いた声に振り返れば、猫耳が目を見開いていた。

ていうか「みみっちい」なんて久しぶりに聞いたぞ。



「そんなこと今ぐたぐた考えても仕方ないでしょう!?」


「そんなことって…あのなあ!俺にとっては元の世界に帰れるかがどれだけ重要な…」


「分かってるわよ!でもアンタが今やるべき事は帰れるかどうか分からないことぐだぐだ考えるより、今!さっきまでいた場所に戻る事でしょう!?元の世界の帰り方だって、分からないなら調べるしかないじゃない!入学すれば、この世界の資料だって山のようにある!もしかしたら他の空間に行ける魔法もあるかも知れないでしょ!?」


「!!」



矢継ぎ早に言われたが、猫耳の言葉で俺はさっきまで不安に押しつぶされそうになっていた胸が軽くなった気がした。



「理由はよく分からないけど、アンタは魔法がいくつも使える!ならその力で帰る方法見つけてみなさいよ!!」


「…」


「っな、なによ…文句があるなら…!」


「ありがとな、ユーリ」



猫耳少女は固まる。



「少し考えすぎた…サンキュー、落ち着いたわ」



ニカッ、と笑ってお礼を言えば…



「…っべ、別にアンタにお礼言われる為に言ったんじゃないからね!?勘違いしないでよ!?」


「あぁ、わかってるよ」


「〜っ!!そ、それに!この私のペアである以上、そんな心持ちでいられても困るのよ…私は…この学校で一番にならなきゃいけないんだから……」


「? それってどういう…」




ジリリリリリリリリリリリ!!!!!




「うおっ!?いきなりなんだ!?」



言葉尻にかぶせるようにして鳴り響いたベルの音に、俺たちはビクッと肩を震わせた。

そして次に聞こえたのは試験官の声。



「そこまでだ!!受験者の皆よく戦い抜いた!!今この瞬間をもって第一次試験終了とする!!!」


「……え…ってことは…」


「今その場に立っている者に合格を言い渡す!!迎えを遣すためしばしその場で待機するように!!」



俺は猫耳を振り返る。

猫耳も俺の顔を見て目を丸くしていた。



「俺ら…」


「ええ…合格…みたいね」


「ははっ…」



だんだんと口角が上がってくるのがわかる。



「よしっ!やった!これで合格…これで俺は…」


「まだ試験は終わってないぞい」


「は?」



横を見るとスライムみたいな変な塊が喋っている。



「お前らが3組目だな。よし…転送魔法…」


「ちょ、ちょっと待っ…」


「いけぇぇええええいい!!!」



刹那、俺たちは真っ白…いや、真緑の光に包まれた。









眩しい光に目を瞑り、再び開けると、そこは全く違う場所だった。



「…ここって…」



周りはレンガで出来たような大きな建物、そして目の前には数人の、俺たちと同じように辺りを見回している人たち。



「なあユーリ、これは…」


「これがあの魔学高等学校!!」


「え?」



ユーリもきっと自分と同じように困惑しているのだと思っていたが…

いま彼女は、目をキラキラと輝かせて、周りをキョロキョロと…遊園地に来た子どもみたいにはしゃいでいる。

まさかと他の人たちを見ても、やはりというか…皆ユーリと同じように歓喜しているように見えた。



「なぁユーリ、ここがその…」


「ええ!!私たちが一番になる場所!魔法魔学高等学校!!」



___いや一番とは言ってないけど。



「待たせたな諸君」


「!!」



そこでまた声が響いて、声の方を向くとそこには若い女の人が立っていた。

長い黒髪とキリッとした顔立ちで身長が高い…モデルのような綺麗な人だなと、正直にそう思った。

その人は俺らを見渡すとニコリと笑う。



「よく頑張ったな、まだ試験は続いているが…もう体は疲れているだろう?今日はゆっくり休むといい。君らにはペアで部屋を割り当てさせてもらった。正式入学した訳じゃないからな、そこは勘弁してほしい。

場所はいま見えている目の前の寮、食事は朝晩2回。着替えも部屋のクローゼットに数着用意してあるからそれを使うといい。ただし!受験者同士での揉め事は一切禁止、破った者は即失格…まあ、それ以外は自由だから好きに使うといい。明日は朝10時に今この場所に集合とする!解散!」



解散の合図で受験者たちはワラワラと寮へと向かっていく。

やっぱり皆、ワクワクしているとはいえ疲れたんだな…。



「俺たちも部屋行こうぜ」


「ええ!」



___こいつは疲れてないみたいだが…








食堂で軽く腹ごしらえをした後、部屋に案内された。

部屋の割り当ては渡された資料に書かれていて、俺とユーリの部屋は5階建ての3階…一番奥の部屋。



「わぁ…!これで旧宿舎!?」



部屋に入るなり、ユーリはまた目をキラキラさせて部屋中を走り回る。

この建物は古くなってしまったので、今は受験者用としてしか使われていないらしい。

古いと言っても目立ってボロいという訳ではないので、ほんと老舗の旅館みたいだ。



「あんまり走り回るなよ?下の階にだって居るんだから…お、これが着替えだな」



2つあるクローゼットのうち、1つを開けると着替えが用意されていた。

シンプルなデザインに動きやすそうな造りなので、おそらく制服みたいなものだろう。

部屋も広く、2人で共有といっても区切られているため入り口付近しか共有スペースはない。

まあ俺にとっては幸いだ。

風呂、トイレは全員共有で風呂は1階、トイレは2階に男女別にある。



「ふかふか〜!!こんな質のいいベッドで眠れるなんて…もう最高…!!」



猫耳はまさに猫の如く、ベッドにダイブしてゴロゴロと転がっている。



「(マジで猫と暮らしてるみたいだ……)明日の朝食は8時に食堂だとよ」



部屋に用意されていた資料を読むと「う〜ん」と、聞いてるのか聞いてないのかわからない返事が返ってきた。



「言っとくけど起こさねえからな?自力で起きろよー」


「う〜ん」



また同じ返事が返ってきたので、もう寝ることにした。



流石に試験の最中なのだから大丈夫だろう。



…と、思っていた俺はこの後、甘い思考を考え直すことになる。



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