#2 いざ入学試験!?
あちこちでワーワー雄叫びを上げる会場でひとり、目を見開いて口は半開き…みんな拳を天に向かって挙げている中、地面に向かってダランと降ろしている少年がいた。
「ちょっと!なにボーッとしてるのよ!?」
「うおっ!?」
ずい、といきなり正面に現れた猫耳に思わず後ずさる。
しかし猫耳少女は負けじと目の端を吊り上げて声を上げた。
「さっさと移動するわよ!」
「は?移動?」
周りを見ればなるほど、皆ゾロゾロとどこかへ集団移動を始めている。
「今年はどんな試験なんだろうな?」
「去年と内容は被らないからトーナメントじゃないことだけは確かだ」
横を通り過ぎていく受験者たちの会話が聞こえた。
トーナメント?というか試験の内容ってまだ決まってないのか?
「…なあ、試験…って、基本何するんだ?」
そう問えば目を見開き、尻尾をピーンと伸ばして驚く猫耳女子。
…あ、尻尾あったんだ。
「はああ!?嘘でしょ冗談でしょバカなの!?」
「嘘じゃないし冗談でもない。それとバカは余計だ猫耳」
ムカっときて言い返せば…
「猫耳じゃないもん!私はユーリってちゃ〜んと名前があるのよ!!」
簡単に挑発に乗った。
「俺だって “バカ” じゃなくて蓮炭呴也って名前があんだよアホ!」
「アホ!?何よ!?ハスミコーヤって長すぎなのよ!!」
「名前に長いも短いもあるか!!」
「そこの2人!早く移動したまえ、不合格にされたいのか?」
ヒートアップしていた言い合いは、その一言で落ち着いた。
よく見ればもう俺たち以外の受験者はいない。
「あーもう!アンタのせいだからね!?」
「はあ!?お前が先にバカって言ってきたんだろうが!!」
最早なんで自分が試験を受けてるかなんて考えてなかった。
とにかく子どもみたいな言い合いをしながら走って、なんとか受験者たちに追いつく。
着いた場所はさっきの会場とは違い、森のような木々が生い茂っている所だった。
「ようこそ受験者諸君!!」
男の声が聞こえて前を向けば、マントを付けた真っ白い服を着てる…なんかある意味痛い人が空中に浮かんで…いや、飛んでいる?
「私が最初の試験官、アレックスだ!時間もないのでさっそく一次試験の内容を説明しよう!諸君らにはこれからこの森でサバイバルゲームをしてもらう!!」
「サバイバルゲーム?」
「その通りルールは簡単!諸君らもよく知ってるサバイバルゲームと一緒だよ…」
___なんだ、サバゲーなら全然余裕…
「殺さなければ何やってもよし!!」
___……ん?
「行動不能になるまでエンドレス!!」
___……えんどれす??
「合格基準として、こちらが決めた人数まで減れば、その時点で残った者が一次試験通過だ!」
ちょっと待て。色々と突っ込みたいことが出てきたぞこの数秒で。
気のせいか…周りの受験者たちの目がギラつき始めてるような……いや気のせいであって欲しい。
「諸注意としてひとつ!この森はただの森じゃない…魔法のトラップがそこら中にしかけてあるので、それらも躱しながらライバルを打ち倒してくれたまえ!!魔法に満ちた森の厳しさをとくと味わってもらうよ受験生諸く……ぐほぉ!?」
「!?」
声高らかに俺たちに話していた最中、何か飛んできた塊に腹部を強打されたらしく…空中でうずくまっている。
飛んできた塊は小動物のようで、試験官のマントにしがみつくとガジガジとマントを噛み始めた…。
「…っな!?やめたまえ!!特注品なんだぞ!?」
(アレ特注なんだ…)
コントみたいな茶番を見させられること数分、ようやく小動物を追い払った試験官。
「はぁ、はぁ……とんだトラブルが起きたがまあいい…」
(いいのかよ)
「とにかく諸君らは死に物狂いで生き残るがいい!!第一次試験…開始!!!」
その言葉を合図に、瞬間的にその場は一瞬にして戦場になった。
とりあえず隣同士で戦いが始まり、火の玉や水…風の魔法が入り乱れて大混乱。阿鼻叫喚。
「っ…おい猫耳!どうすんだよ!?」
「ユーリよ!!…どうするって言っても…どうにかして生き残るしかないでしょう!?」
俺たちは最後の方に来たので周りにあまり受験者がおらず、最初の激闘は免れた。
とりあえず作戦を立てなければと近くの茂みにそそくさと隠れ込む2人。
「…アンタ、何魔法使えるの?」
「えっ!?あ〜…えーっと…」
「私は風魔法と治癒魔法が使えるわ」
「風と治癒?」
「ええ、防御力は自信あるけど攻撃系はさっぱりなのよ…だからアンタの魔法が勝つために重要なのよ!」
この猫耳女子は本気で合格する気だ。
初めから本気で……
だからこそ、俺は言わなくては…
「…っ俺…本当は……」
「見つけたぞコラァ!!」
「!?」
真上からの声に顔を上げると、いかにもヤバそうな2人組が木の上から俺たちを見下ろしていた。
「コソコソ隠れやがって…かくれんぼは終いだぜお2人さんよ?」
(…ヤバイ…挟まれた!?)
目の前に降りてきた男のペアらしいもうひとりの男が、俺たちの背後に現れる。
「別にオレらはお前らに恨みはねえが…お前らが恨むんなら、オレらじゃなくてこの試験を恨むんだな…!」
言って、最初に俺たちに叫んできた男が近くの木の幹を素手で掴み、そのまま握力だけで木一本を握り倒した。
そしてそのまま倒した木を担ぐと、ユーリ達に向かって力任せに振りかぶる。
「きゃあ!!」
「ぐっ…!」
咄嗟に避けて2人とも助かったが、逃げた方向が真逆だったため、図らずとも2人は分断されてしまった。
(猫耳…!!)
ハッと彼女の方を見ると、男のもうひとりの仲間が、刃物の武器を両手に近づいていく。
「(アイツが使えるのは確か風と治癒だけ…)…っ逃げろユーリ!!」
「え…」
気付けば体は勝手に動いていた。
ここへくる前、友だちを突き飛ばした時みたいに、ユーリの前に走り出る。
…つくづく俺はバカだ。
猫耳の言ってた通り…
「……っアッツ!!!」
「?」
飛び出した俺の耳に届いたのは切られる音でも悲鳴でもなく、敵の男の声だった。
何が起きているのか…とにかく自分に痛みもないので、恐る恐る目を開ける。
すると……
「あっつ!!?ンだよコレ!?火!?」
服に火がまとわりつき、男は俺たちから離れぐるぐると回って自分に付いた火を振り払っていた。
「アンタ…それ…」
猫耳の声に軽い放心状態から現実に引き戻される。
彼女に指差されている自分の右腕を見てみると、右手の周りに渦を巻くようにして男の服に付いている火と同じようなものが俺に付いていた。
ただ不思議なことに…
「…熱く…ない?」
そう。
目の前のは火であるはずなのに、火の熱さというものを全くと言っていいほど感じない。
少し、腕まわりに風が吹いているような感覚なのだ。
___もしかして…
「これって…まほ___」
「やれば出来るじゃない!!」
「…はぇ?」
声が裏返ったのもお構いなしに、猫耳は俺の…火が付いてない方の腕を掴んでブンブンと振る。
「炎魔法なんて強い魔法…!ここじゃ大活躍よ!!」
そう言われると確かに…
今ここは “森” だ。
ここには燃える材料に制限はない。
加えて今は何でもアリのサバイバルゲーム中…
これだけ舞台が整っていて、ゲーム好きな人間が高揚しないはずない。
「一か八か…試してみるか!」
不思議と、さっきまで感じてた恐怖心はどこにもなかった。
「猫耳!あぶねーから後ろ下がってろ!!」
「えっ!?う、うん!?」
いきなり叫んだ俺にびっくりしながらも、猫耳は言う通りに数メートル後ろにある木の裏に隠れてくれた。
___ブワッ、と右腕に纏う炎が揺らぐ。
これだけ離れていればアイツまで巻き込むような事はないはず…
ならば……
「悪ぃけど…魔法なんて産まれて初めて使うもんだから加減できないぜ…?」
「あぁ?」
顔を顰める男に俺はこの時、ひどい悪人面をしていたに違いない。
だって、初めて使った魔法が炎で、それが自分の思い通りに操れて、自分自身の力で戦えるのだから…
___炎の火力が上がり、一回り大きく舞い上がる。
口元がにやけるのも、無理はないと言いたい。
___そして…
___俺は、男に向かって右手を突き出し、思い切り炎を放った。
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