職業勇者?お断りします。
猫風呂
#1 さよなら平凡
下校チャイムが鳴る夕方。
俺の通っている高校の向かい側に小学校があるのでよく聞こえ、そのチャイムは俺たちにとっても “ある事” の合図だった。
「なあなあ、今日はどれ使う?」
「んー?俺はいつものでいいや」
「いつものって…お前ソレから全然変えねーじゃん!」
「いいだろ使い慣れてんだから…お、アイス当たり〜!もう一本もらってくるからちょっと待ってて!」
「はやくしろよー?」
友だちの声を背中に聞きながら、近くにあったコンビニへと入る。
アイスのコーナーからさっき食べてたものと同じやつを一個取ってレジ待ちの列に並んだ。
そこでふと、天井に吊るされている広告に目が止まった。
『次は君が英雄だ!!さあ共に世界を救おう!!』
…なんて、ありきたりなフレーズと一緒に印刷されている絵は最近、俺たちがハマっているロボット対戦のゲーム。これから行くゲーセンも実もなにもこれが目当て。
数あるロボットの中から自分が使うものを選び、全国オンラインで戦うという…なんともシンプルな内容だが、アバター育成や溜まった経験値で手に入るレアアイテムなど…やり込み要素が多くてとにかく楽しい。
…まあ俺が使うロボットはいつも決まっている一体だけなんだけど。
こだわりとか…そういうのじゃなくて、ただ一番最初に使ったやつで…なんとなくそのままずっと使っているだけだ。
きっとこのまま、飽きがこない限り同じやつを使い続けるんだろうなと思いながらレジを済ませてコンビニを出る。
「やっと来た、早く行こーぜ!」
「おう待てって、そんな急がなくてもあそこのゲーセン混まないから取られたり…しな……」
「? どうした?」
固まった俺に不思議がって顔を見てくる友だちの後ろから、トラックのライトが痛いくらいに俺の目に飛び込んできた。
一瞬見えた運転手はハンドルに倒れ込んでいる。
「っ…どけ!!」
短く、端的に…ただこのままでは危険だと感じて、俺を見てる友だちを力の限り突き飛ばした。
直後、耳が驚くほどの衝撃音と俺に襲う激痛。
最期に見たのは友だちが目を見開いて何か叫んでいる光景だった_____。
*
___体が重い…
___俺は…死んだのか?
ドンッと、何か体に当たった瞬間に嫌な音も聞こえた。
これで生きてましたでも当分はベッドの上だな…。
___アイツ…無事だったかな
突き飛ばした友だちが頭を過ぎる。
俺が突き飛ばしたせいで尻もちをつき、俺の方を見てたからきっと負っててもかすり傷くらいだろう。
他にも、今日やるはずだったゲームや期末テストが迫ってたこと、家族に何も言えてない事など…色々思い出したが、何かもういいや。
このまま流れに任せて眠るのもアリ……
「……!…………!!」
そこで誰かの声が聞こえた気が…いや、確かに聞こえた。
なんだ、やっぱり生きてたんだな。
___アイツかな…いや、それとも母さん?
父さんだったら嫌だなぁ…なんて思春期みたいに思いながら思いまぶたを開ける。
眩しい光に消毒液の匂い………
___…じゃない?
起きて最初に目に飛び込んできたのは…
「やーーっと起きた!!」
ピンと真上に立つ猫耳が頭のてっぺんについてる女の子。
「………はあ?」
俺は裏声でそう言う。
いやほんと、本気でこの声が出た。
「まったく…2人1組じゃないと試験受けられないとか最悪ー!って思ってて仕方なく帰ろうとしたら私と同じペアが居ない奴いてラッキー!と思ったのに全然起きないし…ほんとに帰るとこだったんだからね!?」
「………え?」
絵に書いたようなマシンガントークでべらべらと一方的に俺が悪いみたな言い方をされた挙句、猫耳の女子は呆気にとられている俺の服を引っ張って歩き出す。
___いやいや待て!?
「お、おい!?なんだよ急に訳わかんねーこと喋りやがって……って、あれ?俺ケガは?つーかここは…」
トラックに轢かれたはずなのに体のどこも痛くない。ケガもない。
そもそも病院じゃないし…てか制服じゃなくてなんか変な服着てるし、周り見ても見覚えない街だし…
「なにブツブツ言ってるのよ、ほら早く歩いてよ!あと数分で受付終わっちゃうわよ!!」
「は?受付?」
「今年の入学試験は今日限りで、今回逃したらまた来年まで待たなくちゃいけないのよ!?わかってるでしょ!?」
___すいません。何もわかってないです。
俺が何を言って止めても聞く耳もたず…猫耳女子は本当に女子か?と思えるくらいの勢いで俺を引っ張っていく。
そろそろ本格的に首が締まるぞ?と思った矢先、開放感がきて俺は地面に転んだ。
「いってぇ…乱暴すぎだろ」
打った腰をさすりながら起き上がると…
「エントリーします!!」
「滑り込みセーフだな、じゃあこれに名前書いて」
「はい!!」
___え?
なんか…4コマ劇場を見せられてるような感覚でどんどん話が勝手に進んでいくこの現状。
「ほら、アンタも書いて!」
「え…」
無理やり渡された紙には、たぶん猫耳女子の名前だろう “ユーリ・フェスタ” と…カタカナで書かれていた。
___外人?それにしては日本語ペラペラだな。
とりあえず、猫耳女子じゃなくて受付担当らしい人の目が怖いので大人しく名前を書く。
普通ならこんな状況で自分の名前を書くなんて馬鹿げてると思うが「名前だけなら同姓同名もいるし大丈夫か」…と謎の解釈をしておく。
「よし、これが受験番号だ。無くすなよ?紛失、破損したら即退場。もちろん不合格だからな」
「はいっ!ほら行こう!」
受付の人から番号札のバッジをもらうと猫耳女子は当たり前のように俺の服を掴む。
___なにこれデジャヴ?
___また連行されていくんだけど…女子に。
なんて思いつつ、もう諦めて連れて行かれると…
「わあ…!今年はやっぱり人数凄いねぇ!」
猫耳女子の声に振り向けば、そこはまるでゲームに出てくる異世界そのものだった。
コイツみたいになんか獣の耳生えてる奴や角が生えてる奴…明らかに人間のサイズじゃない奴も、皆広いこのホールみたいな場所に集まっている。
「……なあ、これ…何なんだよ?」
堪えきれずに猫耳女子に聞くと、不思議そうな顔をして答えた。
「何って……毎年恒例の魔学高校の入学試験でしょ?いつも中継で見ててはやく私もここに来たかったんだー!一時はどうなることかと思ったけど、アンタも無事にエントリーできて良かったね!!」
___高校の入学試験?中継?…一体なにを…
「…規定時刻になったので、今この瞬間より受付終了とする!!」
ガヤガヤしていたところに響く大声に、会場は一瞬にして静まり返った。
「今年も数多くの受験者が我が校に応募してくれたこと、心嬉しく思う!だがしかし!!エントリー出来たからといって気を抜くなよ!?ここからがお前たちの本番だ!!」
若そうな女の人の声が力強く響いてくる。
そして会場は女の人の言葉とともにピリついた空気に変わっていく。
そして…
「ここに!!第202期生による魔法魔学学校高等部の入学試験の開始を宣言する!!!」
「「うおおぉぉぉぉおお!!」」
一斉に会場にいるほとんどの人が叫び出したので耳が壊れるかと思った。
「……なん…だよコレ…」
そして俺… “蓮炭呴也(はすみこうや)” の第二の人生が幕を開けた。
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