マンティス-5
ミアサはブレイドとリアナを交互に見つめながら、意を決したように口を開いた。
「……早速で申し訳ないのですが、ブレイドさん。マンティスの近くにできたと思われる魔窟の封印に力を貸していただけませんか?」
「魔窟の封印? それは構いませんけど……思われるってことは、はっきりとは分かってないんですか?」
言い回しに違和感を覚えたブレイドはミアサへ質問を口にする。
「はい。デュアルホーンに話に出てきた魔族。これらから推測するに、魔窟が近くに出現しているのは確実だと思われるのですが、その場所までは分かっていません。ミリエラさんたちが集まっていたのも、本来なら魔窟の調査をお願いする予定だったのです」
「そうだったんですね。まあ、調査も含めて俺で良ければ力を貸しますよ」
「ありがとうございます。それと……リアナさん」
「わ、私ですか?」
突然名前を呼ばれたリアナは驚きの声をあげる。
「リアナさんにもブレイドさんと同行していただきたいのです」
「えっ! ……でも、私なんかが役に立てるかな?」
バルバラッドがいた魔窟を封印できたことをブレイドのおかげだと思っているリアナは、改めて魔窟封印に力を貸してほしいと言われて及び腰になっている。
しかし、ミアサははっきりと口にした。
「リアナさんの実力なら、必ずブレイドさんの力になれると思いますよ」
「私が、お兄ちゃんの力に?」
「まあ、あれだけの魔法を使えたら大丈夫だろう。俺もリアナがいた方が楽ができるから助かるんだけどな」
ブレイドからも後押しをされ、リアナはミアサを見つめながら大きく頷いた。
「お二人で魔窟を封印したということでしたが、念のために他にもどなたかを同行させることもできますが……ここにいる冒険者では、一緒にいらっしゃったミリエラさんかアドゥニスさんくらいでしょうか」
「他の三人はダメなんですか? ……まあ、ヴァニラさんには遠慮してもらいたいですけど」
ヴァニラに関してだけは嫌そうに口にしたリアナ。
ブレイドから後押しをもらったものの、やはり不安はある。仲間は多い方がいいと思ってしまうのは仕方がないだろう。
「ダメではないのですが、二人に比べると経験が少ないのです。デュアルホーンだけなら五人にお願いしてもよかったのですが、さらに上位の魔族が現れたということであれば、荷が重いかと」
「それを言うなら、アドゥニスさんもきついかもしれないな」
そこに否定的な意見を口にしたのはブレイドだ。
しかし、ミアサはブレイドの意見に疑問顔である。
「アドゥニスさんがですか? ……だいぶはっきりと言いますが、何か理由でも?」
「ダーラグロロアと会う前……それも、瀕死に追い込まれる前だったら経験を積む意味でも連れて行ってよかったかもしれないが、今はダメだ」
「例の、ハイポーションを使って助けていただいた件ですね?」
「あぁ。自覚症状は出ていないが、同等の魔族が現れた場合に恐怖で動けなくなる可能性もある。そうなってしまうと、最悪の場合を考えると助けられないかもしれない」
助けられないかもしれない、という言葉を重く見たミアサはそれ以上言葉を尽くすことはなかった。
「でしたら、ミリエラさんはどうでしょうか?」
「ミリエラさんなら問題ないと思います。恐怖はあるでしょうがアドゥニスさん程ではないですし、ミアサさんが言ったみたいに経験を積めば今以上に強くなれるはずですから」
「お兄ちゃんがそんなこと言っていいの?」
口を挟んできたリアナに対して、ブレイドは笑顔で頷いた。
「大丈夫だ。光剣って異名を持っているってことは、光属性の魔法を使えるんじゃないかな。それを持っているってだけでも、魔族に対してアドバンテージがあるみたいなもんだからな」
「ミリエラさんも公言していることなので言いますが、その通りです」
「やっぱりな! 鍛えようによっては、単独で魔窟の封印もできるようになるんじゃないか?」
「さ、さすがに単独は無理なのでは?」
ブレイドの意見にミアサは顔を引きつらせながら答えている。
リアナもそれはないだろうとミアサの意見に大きく頷いていた。
「リアナだって階層の浅い魔窟ならもう行けるだろ?」
「無理だから! 何も根拠にそんなことを言ってるのよ!」
「ブレイドさん? そのような無理強いはいけませんよ? お兄さんなのですから、妹さんをしっかりと守ってあげないと」
「……あれ、なんで俺、いきなり怒られてるの?」
何気ない発言が二人の気に障ったことに気づいたブレイドは口を噤み、最終的にはミアサとリアナが意見を出し合って同行者を決定していく。
とは言っても、ブレイドの意見が大きく影響を及ぼしていたことに変わりはなくミリエラにだけ打診を掛けてみることになった。
「ミリエラさんにはこちらから声を掛けておきますか?」
「いや、俺から聞いてみるよ。この後、ミリエラさんの実家の宿屋に行くことになっているんです」
「私も一緒に行くからね! お兄ちゃんだけだと変なことを言いそうで怖いんだもの」
「変なことってなんだよ、変なことって」
頭を掻きながら溜息をついているブレイドを見て、リアナとミアサは顔を見合せて笑みを浮かべるのだった。
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