マンティス-4

 奥の部屋にはミアサ用の机と椅子、その後ろの壁際には様々な書類が納められた棚が置かれている。

 左側には小さな机があり、その上の窓からは日の光が射しこんできている。

 そして右側の壁際には姿見が一つ置かれているのだが、他には何も置かれていない。

 基本的に物が少ない印象を受けたブレイドだったが、なぜだか右側にある姿見だけがどうも気になっていた。


「それではこちらの書類に必要事項を記載してください」

「分かりました」

「……」

「どうしましたか、ブレイドさん?」

「あっ、えっと、すみません」


 視線を姿見から机の上に置かれた書類に移して必要事項を記載していく。

 名前から得意な武器や基本の戦い方など、冒険者ということで魔族との戦いを想定した必要事項が多くなっている。

 リアナは魔法師ということですぐに書き終わったのだが、ブレイドは腕を組みながら考え込んでいた。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「いや、戦い方のところでどう書こうかって思ってたんだ」

「どうって、剣を使うんだからそのことを書けばいいんじゃないの?」

「そうなんだけど、時と場合によって戦い方なんて変わるだろう? 基本は七星宝剣を使うけど、魔法を使うこともあれば今日みたいに徒手空拳で戦うことだってあるんだ。いったいどうしたら――」

「ちょっと待ってもらっていいですか!」


 ブレイドがリアナと話しているところにミアサから驚きを含んだ声が飛んできた。


「どうしたんですか?」

「その、今の話の中で魔族と徒手空拳で戦ったと聞こえたのですが?」

「聞こえたも何も、そう言いましたけど?」

「……五、五人が倒せなかった魔族を、徒手空拳で倒したのですか?」

「今回の相手は挑発に乗ってくる相手だったので、同じ戦い方で上回った方が後々戦いやすいと思ったんですよね」

「……思っても、普通はその通りに行動できないものなんですよ?」


 最終的には呆れ声になってしまったミアサだったが、いまだに悩んでいるブレイドには的確なアドバイスを送っていた。


「た、戦い方が複数ある人は結構いますから、基本の戦い方を書いてもらい、空いているところに他の戦い方について明記してもらえると助かります」

「他の戦い方ですか……魔法に格闘術、槍術もやってましたし、後は弓術もできますし、それから――」

「ま、魔法と格闘術だけで構いません! まだあるなら、その他複数あり、とだけ書いてください!」

「……それでいいんですか?」

「構いません! ギルドマスターの私が保証しますから!」


 戦い方が複数あるといっても限度があるらしい。

 ミアサが言う通り、ギルドマスターが大丈夫と言うなら無駄に時間を使うのももったいないので言われた通りに書いていく。

 書類を書き終えた二人はミアサに手渡すと、それを受け取ったミアサは立ち上がりブレイドが気にしていた姿見の隣に立って振り返った。


「次に、この鏡の前に立ってくれますか?」

「ミアサさん、それは?」

「この鏡は内見鏡スキルミラーと言います。鏡の前に立っていただき、10秒間姿を映していただくと表面が白くなり、スキルが黒文字で浮き出てくるのです」

「へぇ、こんな鏡があるんですね」


 興味深く見つめているリアナとは異なり、ブレイドはどうしたものかと思案していた。

 それは、習得している様々なスキルが全て浮き出てきた場合の説明をどうしたらいいかと考えてのことだ。

 リアナに魔素判定スカウターと魔素遮断のことを口にした時には公開されていないと驚かれたのだから、それ以外のスキルについても同様だろう。


「私からやってもいいかな!」

「おう、構わんぞ」


 リアナが弾んだ声で言ってきたのでブレイドも気にすることなく先を譲る。

 その間にでもよい方法を考えようと思っていた――のだが。


「——えっ? 嘘、リアナさんも?」

「ミアサさん、どうしたんですか? 私のスキルに変なものでもありました?」


 驚きの声を上げたミアサに首を傾げているリアナ。

 その様子に気づいたブレイドも顔を上げてミアサに視線を向ける。


「……ブレイドさんだけが規格外だと思っていたら、リアナさんもだったんですね」

「えっ? 私は普通の魔法師ですよ? 村では天才だなんて言われていましたけど、お兄ちゃんに比べたらまだまだですし」

「……あっ! もしかして、スキルレベルが上がってませんか?」


 もしかしたらとブレイドはミアサに質問を口にすると、的を射ていたようでミアサ

 は大きく頷いた。


「その通りです。ですが……気づいたということは、こちらにもブレイドさんが関わっているのですか?」


 次いでジト目を向けられてしまう。


「えっと、マンティスに到着する途中で魔窟を見つけて封印したんです。その時にリアナには中級魔族を一掃してもらっていたので、その時にスキルレベルが上がったんじゃないかと」

「……えぇ、もう驚きませんとも。簡単に魔窟を封印と言ったことなんて、私はもう驚きませんよ?」


 ジト目から遠い目に変わってしまったミアサを不憫に思ったのか、リアナが優しく背中をさすっていた。


「えっと、俺のせいじゃないですよ?」

「お兄ちゃんのせいだよ! 私一人だったら絶対に魔窟に入ろうなんて思わないもの! それも封印までやっちゃうんだから規格外過ぎるんだからね!」

「……仰る通りで」

「……いえ、魔窟を封印、ですか」


 二人のやり取りを聞いて意識が戻ってきたミアサは、リアナのスキルを見つめながら思案顔を浮かべていた。

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