マンティス-6
その後、二人の冒険者登録も無事に終わりギルドカードが発行された。
表にはしっかりとFランクの文字が入っており、ブレイドはここから駆け上がるのだとワクワクしている。
そんなブレイドの姿にリアナは苦笑しながらも、置いていかれないようにしなければならないと自分に言い聞かせていた。
「それでは、通常の依頼を受けていただけるのも待っていますね」
「明日か、魔窟を封印してからなので明後日以降か。どちらにしても、早いうちにまた来ますね」
「その時はよろしくお願いします」
ミアサの言葉にブレイドとリアナが返事をして部屋を出る。
二階の待合室ではミリエラが待っていてくれた。
「すみません、遅くなってしまって」
「いや、勝手に待っていたのは私だからな。それに、宿屋の場所も伝え忘れていたわけだし」
「あっ! そうでしたね、私が先に聞いていたらよかったですね」
他の面々は姿が見えなかったのでミリエラから話を聞くと、打ち上げの材料を買いに出掛けたのだとか。
「打ち上げになったんですね」
「まあ、そうなるだろうとは思っていたがな」
「あの、今さらなんですけど、宿屋で打ち上げなんてよかったんですか? 本当なら酒場とかでやることじゃないんですか?」
心配そうにミリエラへ声を掛けたのはリアナである。
ブレイドも宿屋でドンチャン騒ぎをするなんてことをMSOでも見たことがなかったので心配になってきてしまった。
「宿屋の多くには食堂も付いているし、そこで酒を飲むこともできる。実家の宿屋も同じだから安心しろ」
そんなリアナの心配をミリエラは笑顔で一蹴すると、冒険者ギルドを出て宿屋に向けて歩き出す。
どうせならとブレイドは道中で魔窟封印をミリエラに提案することにした。
「ミアサから?」
「はい。魔窟の探索も問題ないと思うので、経験するためにもどうかなって思いまして」
「……魔窟攻略を軽く提案するブレイドもどうかと思うんだがな」
苦笑するミリエラだったが、その表情はすぐに真剣なものへと変わる。
ダーラグロロアと対峙したミリエラにとって、魔窟へ向かうということはさらなる強敵と戦うことを意味しているからだ。
普通の冒険者なら拒否するだろう。自分の命は大事だし、魔窟を封印するという危険な真似をしなくても生活は成り立つのだから。
だが、ミリエラなら一緒に来てくれるだろうとブレイドは思っていた。
「……分かった、行こう。他には誰を誘う予定なのだ?」
「行くのは俺とリアナとミリエラさんの三人だよ」
「そうなのか?」
そこでブレイドはミアサにもした説明をミリエラにも行った。
「……そうか。確かに、アドゥニスには少しばかり休息が必要かもしれないな」
「あの、ミリエラさんは大丈夫なんですか?」
「私か?」
「お兄ちゃんが勝手に大丈夫だって判断しちゃって、無理してないか心配になったんです」
「リアナは心配性だな」
「だって! ……私、お兄ちゃんがバルバラッドって魔族と戦っていた時、本当に怖かったんだからね?」
「あー……すまん」
リアナからバルバラッドと戦った時のことを出されると弱いブレイドは頭を掻きながら謝罪の言葉を口にする。
その姿に兄妹愛を見たミリエラは笑みを浮かべ、そして自然とリアナの頭に手を置きながらはっきりと答えた。
「私は大丈夫だ。これでも、マンティスではトップクラスの冒険者だし、上位の魔族ともパーティではあるが対峙したこともあるからな」
「もしかして、光属性の魔法を使えばダーラグロロアを倒すこともできたんじゃないですか?」
「ダーラグロロアとは……ブレイドが倒してくれた魔族のことか?」
「そうです。魔族についての知識は多少あるので」
「……名前を知っていること自体が凄いことなのだがな。だがまあ、どうだろうか。私の魔法は時と場所を選ぶからな」
腕を組みながら空を見上げるミリエラ。
ブレイドとリアナもなんとなく見上げてみた。
「私の魔法は太陽の光が射していればいる程、その効果が高くなるのだ。ダーラグロロアは森の中にいただろう? おそらく、木々に光が遮られてしまえば効果も薄まってしまう」
「だったら、出てくるのを待つしかなかったってことですか?」
「どうだろうな。相手が私たちのことを知っていたなら、森から出てこないだろう。そして、夜になるのを待ってから出てくるということも考えられる。まあ、そういったこともあって、正直に言うと魔窟に入ったことはないんだ」
「そうだったんですね。うーん、魔族の情報網ってどうなってるんだろうな」
「バルバラッドはお兄ちゃんのことを知ってたよね」
「……まあ、分からないことを悩んでいても仕方がないだろう。それにしても、魔窟の封印が控えているなら我々の場合は打ち上げにはならないかもしれないな」
真剣な表情で最後は呟いていたミリエラだったが、ブレイドはそこまで重く受け止めてはいなかった。
「前夜祭ですか? でも、明日行くとは決まってないから……普通の飲み会?」
「お兄ちゃんは飲まないよね?」
「そうだけど、何か良い言い方が思いつかないんだよなぁ」
「……お前たちは、魔窟の封印を前に緊張しないのだな」
二人のやり取りを見たミリエラは自分だけが緊張していたことに溜息をつき、そして気持ちを切り替えることができた。
「さて、着いたぞ」
ミリエラの言葉を受けて、ブレイドとリアナは考え事を置いておき顔を上げる。
そこには、予想していたよりもとても大きな建物が見えた。
「あ、あれが、ミリエラさんの実家ですか?」
「すごく大きいですね!」
「まあ、マンティスでは一、二を争う宿屋だからな」
「……そんなところに、タダで泊まれるなんて」
「……お兄ちゃん、ありがとう!」
ブレイドとリアナが握手を交わしているのを見たミリエラは苦笑しながらも、二人を宿屋へ案内した。
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