マンティス-2

 冒険者ギルドは屈強な冒険者が多く集まるということで周囲の建物と比べても一際大きく造られている。

 一階が一般の窓口であり冒険者だけではなく依頼主も多く行き交っている。

 二階には一般の依頼ではなく都市や国からの特別な依頼を取り扱った窓口が並んでいる。

 基本的には一階が賑わい、二階はがらんとしたものなのだが、ブレイドたちが案内されたのは二階の窓口だった。


「戻りました、ミアサ」

「あぁ! 皆様、ご無事で何よりです!」


 ミリエラが声を掛けた相手は緑のロングヘアーを首の後ろで纏めている妙齢な女性職員であるミアサ。

 誰一人として欠けていない冒険者たちの姿を見ると、受付から出てきて先頭にいたミリエラを優しく抱きしめた。


「本当に良かった。突然、禍々しい魔素を感じたので何か起こるのではないかと心配していたのです」

「まあ、何か起こったのは事実だな」

「……それは、どういうことなのですか? それに、その子たちは?」


 ミリエラから離れたミアサは五人以外にも人がいることに気がついて視線を向ける。


「この子たちは冒険者志望のブレイドとリアナ。我々は、ブレイドに助けられてここにいるのだ」

「ちょっと、ミリエラさん!」

「安心しろ、ミアサは信頼できる人物だ。何故なら――彼女はギルドマスターだからな」

「「……ギ、ギルドマスター!?」」


 予想外の事実にブレイドとリアナはミアサを凝視しながら驚きの声を上げてしまった。


「初めまして、小さな冒険者さん。ミリエラさんの言う通り、私はマンティス支部の冒険者ギルドマスターであるミアサです。ですがミリエラさん、この子たちに助けられたというのはどういうことですか?」

「説明、してもいいだろうか?」

「……まあ、ここまで話されたら隠すこともできないでしょうから」

「すまんな」


 首を傾げているミアサへの説明について許可を求めてきたミリエラ。

 ブレイドとしてもここまで話をしたギルドマスターに隠し事をして自分の立場を悪くする理由もないので渋々頷いた。


「私たちはデュアルホーンを倒した後、別の魔族に遭遇したんだ。そして、おそらくだがアドゥニスは一度死んでいます」

「……はい?」

「まあ、そうなるわな」


 目の前に立っているアドゥニスが死んだと聞かされて、ミアサは困惑を深めるばかり。

 そこでミリエラは一つの証拠をミアサに提示することにした。


「この小瓶に余っている液体がなんだか分かりますか?」

「これは……ポーションを入れる普通の子瓶ですねぇ」


 アドゥニスが飲み干したハイポーションが入っていた小瓶。

 全て飲み干しているものの、底の方にはほんのわずかだが液体が残っていた。


「……いえ、これはポーションではない? ……まさか……その、本当なのですか?」

「はい。アドゥニスはブレイドが持っていたこれがなければ確実に死んでいました。そして、我々も誰一人としてこの場に戻ってはこなかったでしょう」

「……そ、それ程の魔族を相手に、どうしたのですか?」


 小瓶に入っていた液体がハイポーションであることを理解したミアサだったが、ならば魔族は何処に行ったのだと次の疑問が頭の中を埋め尽くしている。


「その魔族を、ブレイドが一人で倒してくれたのだ」

「……ま、まさか、この子が一人で? 異名持ちが五人で倒せなかった魔族を?」


 ミアサの視線は小瓶からミリエラ、そして最後にブレイドへ向けられる。

 普通ならばすぐに信じられるような話ではない。それは目の前にハイポーションが入った小瓶を持ち出されてもそうだろう。

 見た目にもブレイドは子供であり、装備も全てアイテムボックスに入れているのだから丸腰だ。


「……そうでしたか。ブレイドさん――いえ、ブレイド様。五人の命を、そしてマンティスで暮らす全ての人々の命を守っていただき、本当にありがとうございました」


 しかし、ミアサはミリエラの言葉を信じて深々とブレイドへ頭を下げてきた。

 驚いたブレイドは両手を顔の前で振りながら顔を上げるよう口にする。


「そ、そんな! 頭を上げてください! 僕はただその場にいただけですし、たまたま魔族を倒すことができただけですから!」

「……お兄ちゃん、普通はたまたまで魔族を倒すことなんてできないんだよ?」

「リアナの言う通りだ。ブレイドは規格外なのだが、常識外れも規格外のようだな」

「……リアナもミリエラさんも酷いよ」


 肩を落として落ち込んでいるブレイドを見て、リアナとミリエラが顔を見合わせて苦笑する。

 その様子は頭を上げたミアサの表情を柔らかくし、そして気持ちを落ち着かせることもできた。


「ですが、ブレイド様はその、丸腰で魔族と戦ったのですか? それにハイポーションもどこから?」

「それはアイテムボックスから」

「……ア、アイテムボックスをお持ちなのですか!?」

「……それは私も初耳だな」

「いや、聞かれなかったので。わざわざ暴露することでもないでしょうし」


 ブレイドの言葉にミリエラは頷いていたが、ミアサは乾いた笑いを漏らすだけである。


「……ですが、報酬はどうしましょうか。本来なら正規に依頼を受けていた五人にお渡しする予定だったのですが、ブレイド様の分を用意するとなると金額が金額なだけにすぐには準備が……」

「あっ、僕には必要ありませんよ。お金には困ってないですし、倒した魔族から素材も手に入りましたから」

「いや、ブレイドよ。それはさすがに筋が通らない。ギルドの顔を立てる意味でも、報酬は受け取るべきだ」

「というか、俺たちは討伐に失敗しているわけだし報酬を受け取る権利なんてないんだよな」

「うむ。我らの報酬をブレイド殿に充てるのもありではないか?」

「ヒューズの意見の賛成」

「私もそれで良くってよぉ」

「いやいや、デュアルホーンを倒したのは皆さんですし、後から出てきた魔族はイレギュラーみたいなものですから。それにどうしても報酬の支払いが必要だというなら、後からでも問題ありませんからね?」


 ブレイドの言葉にミアサは感謝を示すように再び深々と頭を下げる。

 報酬の件が落ち着いたところで、ミリエラは次の要件を口にした。


「それでだ、ミアサ。ブレイドが冒険者になるにあたって――一気にSランクへ上げることは可能だろうか?」

「えっ!?」


 ミリエラの発言に、ブレイドは目を見開いて振り返った。

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