冒険者の戦い-2
デュアルホーンの咆哮に怯むことなく駆け出した三人は、先手をアドゥニスが買って出た。
粉々に砕けている足場を物ともせずに接近したアドゥニスは、魔力を込めて硬質化させた拳をデュアルホーンの右前足に叩き込んだ。
表面に見える剛毛、その下に隠れている強靭な肉体が衝撃を吸収して生半可な攻撃では通じない。特に打撃系の攻撃は相性最悪である。
しかし、アドゥニスの一撃は剛毛を貫通して肉体へと届き、さらに内側の筋肉や骨にまでダメージを及ぼした。
『ゴオオオオオオオオォォッ!』
「――うるさい男はモテないわよぉ!」
淫美な笑みを浮かべながら穂先が毒々しい紫の長槍が振り抜かれる。
こちらも剛毛を切り裂き左前足の外皮を傷つけた。
傷は浅かったもののヴァニラが扱う長槍は毒を付与する効果を持っており、傷口から血がとめどなく溢れ出している。
「貴様ら、手ぬるいぞ」
落ち着いた声音であるにもかかわらず、離れた場所にいるヒューズとグレイズにもはっきりと聞こえたミリエラの声。
デュアルホーンはミリエラの声を聞いて寒気を覚えただろう。落ち着いた声音の中には莫大な量の殺気が込められていたのだから。
右手に持つ剣が振り抜かれた先はデュアルホーンの体の中で一番硬いとされている額の剛角。
良くて剣の刃が欠けるか、最悪の場合には折れてしまうだろう渾身の一振りは、剛角をいともたやすく両断してしまった。
『――! ブモオオオオオオッ!』
自分が攻撃をされるとは思っていなかったのだろう。デュアルホーンは剛角を失ったことでその身を武器として一気に加速を始めた。
そのままマンティスに突っ込まれれば外壁は砕かれ、都市の中に侵入されて多くの死傷者を出してしまう。
だが、そこに再び魔法が放たれた。
「──
先ほどと同じ地面が抉れる大陥没の効果によってバランスを崩したデュアルホーンは地面に横倒しとなったところで勝負あった。
ミリエラの剣が無防備になったデュアルホーンの首を一切の抵抗もなく斬り落とし、黒い霧が空に登っていった。
「……他愛のない」
「おいおい、ミリエラ! 簡単に殺し過ぎじゃねえか? もっと楽しんでもよかったと思うんだがな!」
「かわいい住民たちを不安にさせるわけにはいかないでしょう?」
「ヴァニラが言ってもぜんっぜん説得力がないな! がはは!」
前衛三人のところに後衛二人も集まり、周囲を警戒していく。
「……これ以上の魔獣はいなさそうですね」
「一応、偵察用の使い魔を放っておこう。アドゥニス、あちらでよろしいか?」
グレイズが示した先はデュアルホーンが出てきた方向、マンティスからは東の方角だ。
「頼むな! まあ、いたとしてもデュアルホーンよりも雑魚しかいないんじゃないのか?」
「油断は禁物だな。だが、この辺りに我々で倒せないような魔族はいないだろうがな」
「油断と自信は違うってのか?」
「気持ちの問題だな」
そんなことを話していると、使い魔を飛ばしたグレイズが首を傾げてもう一匹の使い魔を放つ。
「グレイズ、どうした?」
「いや、使い魔の反応がなくなったのだ」
ヒューズの問い掛けにグレイズは困惑しながら答えた。
その様子を見ていたミリエラは二匹目の使い魔が飛んでいった方向へ視線を向ける。
ゆったりと飛んでいく白い鳥の形をした使い魔はデュアルホーンが出てきた森の方へ飛んでいき、その姿が木々に隠れようとしたその時である。
――パンッ!
突如として使い魔が弾け飛んでしまった。
直後には先ほどまで感じられなかった禍々しい威圧感が五人へと襲い掛かる。
「……こ、これは、何なんだよ、ミリエラ!」
「……わ、私が、分かるわけない、だろう!」
アドゥニスの質問にミリエラはイライラした様子で答える。
他の三人は言葉すら発することができないほどに怯えてしまっていた。
「……な、何が来るんだ?」
「……全員構えろ! ヒューズとグレイズはあの一帯を吹きとばせ」
「……い、いいのか?」
「構うな! 早くしろ!」
「「お、おう!」」
珍しくミリエラが声を張り上げて来たことで事が深刻であると二人も判断すると、それぞれが使える中で威力が一番高い魔法を発動させた。
「
「
上級魔法の中でも広範囲を殲滅するのに適したそれぞれの魔法は森を炭化させ、抉り取り、いっそ更地だったのではないかという状況にしてしまう――はずだった。
――パンッ!
使い魔が弾け飛んだ時と同じように、魔法自体が消されてしまった。
さらに悪意を持って放たれた魔法だったからか、使い魔や魔法を打ち消した魔族がついにその姿を露にしたのだ。
「……な、なんだ、あいつは」
「……我らの、魔法では、勝てん」
ヒューズとグレイズは魔族から放たれる圧倒的な悪意に晒されてしまいその場で膝を折ってしまう。
同様にヴァニラも相対することなく恐怖で顎がカタカタと音を立ててしまっていた。
「……お前が、エボルカリウスを倒した人族か?」
アドゥニスとミリエラを見据えながら、魔族はそのようなことを口にした。
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