冒険者の戦い-1
とにかく、まずは目の前に迫ってくる魔族への対処が必要だろう。
ブレイドが出ていって仕留めてもいいのだが、マンティスには冒険者ギルドもあり多くの冒険者がいるはずだ。
防衛面がどのようになっているのかも気になったブレイドはしばらく成り行きを見守ることにした。
「おっ! 誰か中から出てきたな。あれは……冒険者か?」
「そうじゃないかしら。衛兵ならみんな同じ格好をしていそうだもの」
マンティスの中から出てきたのは五人は全員がバラバラの装備を身に着けている。
ブレイドの見解では迫ってきている魔族は中級でも上位の実力を持つだろうと推測しているので、出てきた五人はこの世界では相当な実力者なのだろうと思っていた。
「おぉっ! 鉄拳のアドゥニスがいるぞ!」
「光剣のミリエラもだ!」
「……なんだか有名人みたいだね」
「他の三人の名前も呼ばれてるけど、アドゥニスとミリエラって人が一番有名っぽいな」
アドゥニスとミリエラ以外にも毒槍のヴァニラ、
「リアナ、名前の前についてる変な言い回し、あれって何?」
「知らないの? 等級が高くなってくるとギルドから異名を授けられるんだけど、それが鉄拳や光剣とかだね」
「へぇー、異名ねぇ」
ここでもMSOとは異なる内容が飛び出してきた。
MSOでは等級はあったものの異名というものは存在しなかった。
その代わりにプレイヤーランキングがあり、それを見て一喜一憂するプレイヤーもいたのだとか。
ブレイドはといえばほとんどのランキングで1位を獲得していたので途中からランキング自体に興味を持たなくなっていたのだが。
「……俺も欲しいなぁ」
「何を言ってるのよ。私たちはこれから冒険者に登録する新人なんだから、先の先になるわよ」
「……そうか。まあ、それもそうだな」
そんな場違いな会話をしていると、冒険者五人が中級魔族――デュアルホーンへ向かっていった。
牛の体躯に六本足、尻尾は二本生えているデュアルホーンの一番の特徴は額から雄々しく伸びている巨大な角だろう。
強靭な肉体から縦横無尽に振られる角は掠るだけでも人族を吹き飛ばし、その肉体を粉砕してしまう。
さらに硬質な角は傷を付けることも困難であり、不規則に伸びていることも回避を難しくしている要因の一つだった。
「攻撃主体の前衛が三人に後衛が二人か。バランス的にはまあまあだけど、これでデュアルホーンに対抗できるのか?」
「中級魔族なら大丈夫ね!」
「……そうなのか?」
「だって、私だって魔窟では中級魔族を倒せたんだもん。あの人たちは私よりも全然強い人たちなんだから大丈夫ってことでしょ?」
リアナの言葉にブレイドは何度もまばたきを繰り返しながら首をコテンと横に倒してしまう。
「……誰がリアナより強いって?」
「だから、あの五人の冒険者たちがよ! 異名まで持っているんだから相当な実力者なんだからね!」
「……そうか。そうなのか……?」
再び視線を冒険者とデュアルホーンへ戻したブレイドだったが、何度見ても首を傾げるばかりである。
「……まあ、実力を隠しているって人もいるだろうし、お手並み拝見だな」
疑問が解消されないまま、ブレイドは散らばってしまった人の列から前に進んでいくのだった。
※※※※
デュアルホーンと対峙する五人の冒険者。
今回そのリーダーをアドゥニスが務めていた。
「デュアルホーンって言やあ、前衛殺しで有名な魔族じゃねえか。なんでそんな面倒くせえやつがこんなところに現れたんだ?」
「おそらく、噂になっている魔族の巣――魔窟がマンティスの近くに現れたのかもしれませんね」
アドゥニスのボヤキに応えているのはミリエラだ。
筋骨隆々で荒々しい雰囲気を持つアドゥニスと、肩で切りそろえられた銀髪を揺らす細身のミリエラが並び立つとあまりに見た目が異なってくるので同じ人族とは思えない感覚に陥ってしまう。
ただ、二人はマンティスを拠点に活動する冒険者なのでよく知った間柄でもあった。
「まずはヒューズとグレイズで遠距離攻撃を叩き込んでくれ。それで仕留められれば良し、無理なら前衛三人で突っ込んでやるさ!」
「それを作戦とは言わない」
「全くですね」
「まあ、私は嫌いではないけれどねぇ」
ヒューズが眼鏡を押し上げながら否定すると、グレイズも大きく頷く。
ヴァニラだけは不敵に笑いながら否定しなかった。
「まあ、どういった方法でも最終的にデュアルホーンが死んでくれたら問題ないってことだ!」
「それもそうですね。まあ、私とアドゥニスがいるのですから間違いはおきませんよ」
「頼りにしている」
「全くですね」
「ふふふ、楽しみだわぁ」
それぞれが負けることを考えておらず、デュアルホーン討伐を疑わない。
徐々にその大きさがはっきりとしてくる中、アドゥニスの指示通りにヒューズとグレイズの魔法が発動された。
「
「
一直線に突っ込んできたデュアルホーンを灼熱の檻が閉じ込め、暴れようとしたところで大陥没が足元を抉り取る。
二つの上級魔法のよって動きを封じられたデュアルホーンだったが、その真っ赤な瞳はマンティスを見据えていた。
「……これだけじゃあ、倒しきれない!」
「……全く、強固な外皮よ!」
確実にダメージは与えているものの、デュアルホーンの戦意は衰えるどころか膨れ上がっている。
「仕方ねえ、俺たちも出るぞ!」
「ふふふ、興奮するわぁ!」
「ふぅ、行きましょうか」
前衛三人が飛び出した直後、デュアルホーンが二つの魔法を吹き飛ばして楔から解き放たれた。
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