介入-1

 魔族がエボルカリウスの名前を出したことで、頭を抱えている人物が一人いた。


「――あちゃー、俺のせいっぽいなぁ」

「どうしたのお兄ちゃん?」


 聴力強化で冒険者と魔族の声を遠くから聞いていたブレイドにしか聞こえていないやり取りに、リアナは首を傾げている。

 相手が冒険者だけで事足りる相手であれば見ているだけにしようと思っていたのだが、現れた魔族を見てそうはいかないと溜息をつく。


「あー、ちょっと俺もあっちに行ってくるわ」

「えっ! でも、あの人たちも強いんでしょう? デュアルホーンもあっという間に倒しちゃったし」

「それなりには強いだろうな。だが、上級魔族と戦うにはまだまだ足りない」

「それって……あの出てきた小さな魔族が上級魔族ってこと?」


 無言のまま頷いたブレイドは魔族のいる方へ歩き出す。


「お兄ちゃん、大丈夫だよね?」


 その背中に心配そうな声を掛けるリアナ。

 ブレイドは振り返るとニカッと笑い答えた。


「大丈夫だよ!」


 そして速度上昇を発動させたブレイドの姿は一瞬ではるか遠くに行ってしまった。


「……信じてるよ、お兄ちゃん」


 リアナはその場から動くことなく、ブレイドの背中を見つめ続けるのだった。


 ※※※※


 魔族に睨まれながらなんとか戦意を保っていたアドゥニスとミリエラ。


「あなたたち、逃げなさい!」

「うおおおおおおおおっ!」


 ミリエラの怒声にアドゥニスに雄叫び。

 それが戦意喪失していた三人に逃げるだけの力を与えてくれた。

 駆け出すヴァニラ、ヒューズ、グレイズの三人。

 ミリエラが剣を抜き三人をかばうように立ち、アドゥニスは玉砕覚悟で突っ込んでいく。

 魔族の興味は突っ込んできたアドゥニスに向き、ゾッとするような満面の笑みを浮かべて右腕を振り向いた。


 ――ゴキンッ!


 鈍い音がミリエラの鼓膜を震わせた。

 アドゥニスは両腕を交差させて耐久上昇を発動させていたにもかかわらず、両腕は完全に骨を粉々に砕かれ、さらに首の骨まで折られてしまう。

 体からは力が抜けてしまい、まるで人形のように後方へと吹き飛ばされてしまった。

 何度も地面に弾み、逃げ出した三人を追い越して、何かにぶつかってようやく止まった。

 ミリエラは一瞬で殺されてしまったアドゥニスを振り返ることができない。なぜなら、目の前にはアドゥニスを殺した張本人がいるからだ。

 光剣という異名を持つ実力者だからこそ、相手との実力差がはっきりと分かってしまう。

 背中を見せたら、その時点で終わりだと。


「……くだらん」


 そう呟いた魔族は地面を蹴りつけて一瞬のうちにミリエラの懐に潜り込むと、アドゥニスを殺した時と同じで右腕を振り向く。


 ――ガンッ!


 だが、今回はアドゥニスの時と同じことにはならなかった。


「――! ……誰だ?」

「はあ、はあ、はあ、はあ……な、何が、起きているの?」


 ミリエラと魔族との距離は歩幅一歩分しかない。だが、その間には七色に輝く謎の壁が発生していた。


「――お前、俺を探しているんだろう?」


 そこに響いてきたのは聞き覚えのない謎の声。

 七色の壁があったからだろう、ミリエラは声の方へ振り返ると、そこには謎の少年と死んだと思っていたアドゥニスが困惑顔で砕かれたはずの両手を見つめながら立っていた。


「ア、アドゥニス!」

「……ミリエラ、俺はいったい?」

「はい。まだ全快ってわけじゃないから、これも全部飲み干してね」

「これは、ポーション? ……いや、まさか、ハイポーションか?」


 100本もの在庫を抱えているブレイドにとっては気にすることではないので軽く笑みを浮かべるに止め、すぐに魔族へ向き直る。


「エボルカリウスを倒したのは俺だ」

「貴様が? こんなガキが? ……キャーハハハハハッ!」


 ブレイドを見た魔族はあからさまに呆れ、そして嘲笑した。


「エボルカリウスも落ちたもんだなあ! こんなガキに殺されたとか、あり得ねえだろ!」

「だったらやってみるか? 見たところ、お前よりもエボルカリウスの方が強いはずだがな。そうだろう――ダーラグロロア」

「……貴様、どうして俺の名前を知っている?」


 上級魔族の名前が人族に伝わることはあまりない。それは、出会ったら最後殺されてしまうからだ。

 ダーラグロロアも例にもれず、過去遭遇してきた人族は全て殺してきているので、自分の名前が知られていることに疑問を感じていた。


「殺し漏れたか? いやいや、貴様の顔なんぞ覚えていないが? まあ、どちらにしても殺すがなあ!」


 そして、ダーラグロロアはミリエラを無視してブレイドに襲い掛かった。

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