国家騎士-3

 宿屋の前では数人の国家騎士が言い争いをしている。

 住民との問題ではなかったかと安堵したブレイドだったが、次に聞こえてきた内容に驚きを隠せなかった。


「――ま、魔窟が封印されていただと!」


 副団長のダルリアンが驚きの声をあげていた。

 魔窟封印のために用意された騎士の数は総勢三〇名。それだけの数が無駄足を踏んだとなれば怒鳴りたくなる気持ちもわかる。


「……こ、これではいい笑いものだぞ」

「落ち着きましょう、ダルリアン」


 頭を抱えているダルリアンの隣ではエリーザが顎に手を当てながら思案顔だ。

 魔窟にはレアアイテムが眠っているので発見者がそのまま封印することも少なくないが、それは魔窟を封印できるだけの実力を持っているものだけだ。

 多少腕に自身がある程度では魔窟に飲み込まれてしまうだろう。

 カルディフはどちらかといえば辺境に位置している。魔窟が見つかった南に行けば行くほど王都から離れてしまうのだから有力な冒険者いる可能性も少ない。

 思案顔のエリーザがふと顔を上げると、視線の先にはブレイドが人混みからひょっこりと顔だけ覗かせていた。


「……あっ!」

「へっ? あー、はははー……それじゃあ!」


 軽く右手を上げたブレイドは、颯爽とその場を離れてしまう。

 一瞬で目の前からいなくなってしまったブレイドに口を開けたまま固まってしまったエリーザだったが、すぐに持ち直すとダルリアンに声を掛けてすぐに駆け出した。


「お、お待ち下さい、隊長! 隊長!」


 ダルリアンの静止の声を振り切り、エリーザはブレイドを追いかけ始めた。


 ※※※※


 カーラの家に戻ってきたブレイドは、すぐにリアナに声を掛けた。


「リアナ! すぐに出発するぞ!」

「ど、どうしたのよお兄ちゃん。まさか、国家騎士に喧嘩を売ったんじゃないでしょうね!」

「喧嘩を売られそうなんだよ! 来る途中で封印した魔窟があっただろう、国家騎士たちはその魔窟を目指していたんだ!」

「魔窟を封印? あんたたち二人で?」


 何かの冗談だと思っているカーラだったが、リアナが急ぎ立ち上がり準備を始めたのを見ると嘘ではないのかと思い始めた。


「……あんたたち、まさか本当に魔窟を封印したのかい?」

「はい。ごめんなさい、カーラさん。ご迷惑は掛けないようにしますから」

「……はぁ。なんだかすごい子たちを拾っちまったもんだね」


 そんな簡単に言っていいものなのかと内心で思ったブレイドは苦笑するだけだ。


「お兄ちゃん、準備できたわ!」

「よし、行くぞ! カーラさん、本当にありがとう!」

「お世話になりました!」

「気をつけて行ってきな!」


 家を飛び出したブレイドはあえて宿屋方面へ向かう。


「お、お兄ちゃん、どうしてそっちに行くの?」

「昨日カーラさんの家に来た国家騎士が追いかけてきたからな。あっちに行って迷惑にならないよう、一度姿を晒しておきたいんだ」

「なるほど……あっ、あの人じゃない?」


 リアナが示した先に姿を見せたのは、間違いなくエリーザだった。


「ブレイド! なぜ逃げる! まさか、お前が封印したのか!」

「俺が封印できるわけないだろー!」

「ならばなぜ逃げる!」

「そっちが追いかけるからだよ!」

「きゃあ! ちょっと、おおおおお兄ちゃん!」


 そこまで口したブレイドはあろうことかリアナを抱き上げると――お姫様抱っこのままカルディフの入口まで駆け出した。


「ま、待て!」

「隊長! 彼らがどうかしたのですか!」

「おそらく魔窟封印の件を知っている! 捕まえるんだ!」

「わ、分かりました! 行くぞお前たち!」


 エリーザを追いかけてきたダルリアンと数人の騎士たちも加わり、ブレイドを追いかけ始めた。

 ただ、ブレイドは速度上昇で一気に離れるようなことはせずに付かず離れずの距離を保ちながら逃げている。

 首がもげそうになる思いをしなくて済むのでリアナとしては助かったのだが、なぜ一気に逃げないのかと質問してみた。


「これもカルディフのためだな。俺たちが完全に逃げてしまったら、住民に難癖をつけて迷惑を掛けそうだったからな」

「そっか……そうだね。それにしても、魔窟を封印したんだからお礼を言われても文句を言われる筋合いはないと思うんだけどなー」

「……まあ、たしかにそうだな」


 魔窟は長い間封印されないと溜まった魔素が漏れ出して地上に影響を及ぼすことがある。

 近くにいる動物が魔族に変貌したり、人族が影響を受けることもある。

 レアアイテムが目的だったとしても、国お抱えの国家騎士に魔窟封印の文句を言われるのはおかしな話だった。


「……ちょっと話を聞いてみるか」

「だ、大丈夫なの?」

「隊長のエリーザは話の分かる人だったからな。他の騎士は知らんけど」

「……なんだかものすごく不安なんだけど?」

「いざとなったらまた逃げるさ。今度は全力で」


 全力、という言葉にリアナはごくりと唾を飲み込む。


「……な、何もないことを祈ってるわ」

「そうしてくれ」


 ブレイドは昨日エリーザと話をした草原地帯までやって来ると足を止めた。

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