国家騎士-4

 すぐ後ろまで迫っていたこともあり、足を止めると二人はすぐに包囲されてしまう。

 エリーザとダルリアン、他にも男女三人の国家騎士。

 リアナを下ろしたブレイドはエリーザへ話し掛けた。


「追い掛けてきた理由を教えてもらってもいいかな?」

「あ、あなたが逃げるからでしょう!」

「そっちが追い掛けてきたんだろ?」

「ぐぬぬっ!」

「……あ、あの、隊長? この子供たちが本当に魔窟の封印について知っているのですか?」


 疑問の声を投げ掛けるダルリアン。そして他の騎士たちも困惑顔を浮かべている。


「私は昨日の夜、彼と話をしました。彼らは南からこちらに来たようです」

「南から……ですが、それだけでは確証は得られませんよ?」

「もちろん、私もそれだけで判断はしません。彼が腰に差している剣をご覧なさい」

「彼の剣?」


 ダルリアンはブレイドの差している剣――七星宝剣へ視線を向ける。


「……確かに良い剣だとは思いますが?」

「あれは神の遺物アーティファクトです」

「なあっ! ま、まさか、そのようなことが?」


 驚きのあまりダルリアンはブレイドと七星宝剣を何度も見比べている。

 子供が持っているとは思えないのだろう、ブレイドは肩をすくめながら口を開く。


「これが神の遺物である証拠はどこにもないだろう?」

「昨日はそう言ってくれたじゃないですか」

「嘘かもしれない」

「私にはそうは思えませんでしたけど?」


 ここまで会話を繰り返していたのだが、しびれを切らしたのか一人の男性騎士が抜剣する。


「モーリス!」

「本当にその剣が神の遺物なら、奪ってしまえばいいんですよ!」

「止めなさい! あなた、これ以上国家騎士の名を汚すつもりですか!」

「もう十分汚れてるだろう! こいつを殺したら、この剣は俺のものだからな!」


 ブレイドの右側から飛び込んできたモーリスと呼ばれた国家騎士は銀色に輝く刀身を振り上げて一気に振り下ろす。

 工夫も何もない一振りに、ブレイドは嘆息しながら抜剣することなく右手で剣の払いのけると、体勢を崩したモーリスの顎に左の掌打を当てた。


「あが……」

「モーリス!」


 脳を揺らされたモーリスはそのまま前のめりに倒れてしまった。

 直後には残り二人の国家騎士も抜剣をしたのだが、そこはエリーザとダルリアンが静止してくれた。


「止めなさい! あなたたち、死にたいのですか!」

「死ぬのはこのガキだ!」

「そうよ! 私たちが殺してやるわよ!」

「黙らんかああああっ!」

「「――!」」


 エリーザの声では止まらない。そう判断したダルリアンは仕方なく自らが声を荒げて静止を呼び掛けた。


「……貴様ら、隊長の命令が聞けんというのか?」

「で、ですが、ダルリアン様、このガキは――」

「聞けんというのか!」

「「す、すみません!」」


 エリーザよりも年上で、さらに尊敬を得ているダルリアンの言葉だからこそ効き目があった。

 一方のエリーザはというと、そのことについて嫉妬するということもなく素直に受け入れている。


「……それで、魔窟の封印はブレイドが行ったのですか?」

「こいつはいいのか?」

「……そうでしたね。ダルリアン、お願いできますか?」

「かしこまりました」


 ダルリアンが前に進み出るのと合わせてブレイドは二歩後ろに下がる。

 地面に転がっているモーリスを肩に担ぎ上げると、ブレイドを見ながら声を掛けてきた。


「すまなかったな」

「そっちも大変そうだなってことは理解していますから、気にしてませんよ」


 ブレイドの答えが意外だったのか、ダルリアンは一瞬だけ驚いた表情をしたもののすぐに苦笑へと変わり元の位置に戻っていく。


「……それで、魔窟の封印は――」

「お、お兄ちゃんがやったわ!」


 今まで黙って成り行きを見守っていたリアナだったが、突然大声でそう口にした。

 驚いたのはブレイドで、まさかこうもあっさりバラされるとは思っていなかったのだ。


「ちょっとリアナ! いきなり何を――」

「さっきも言ったじゃないのよ! 魔窟を封印したんだから、褒められはしても恨まれる覚えなんてないんだからね!」

「「……恨む?」」

「「……えっ、違うの?」」

「……こ、これは、一度しっかりと話し合う必要があるかもしれませんね」

「……そう、だな。だけど、これは渡せないぞ?」


 ここでようやくお互いの思い違いについて気づくことができたブレイドとエリーザ。

 話し合いに応じたい気持ちもあるがモーリスのように七星宝剣を奪おうとブレイドを狙ってくる輩がいては話し合いも何もあったものではない。


「当然だ、それは君のものだからな」

「ダルリアン様!」

「隊長も言っていたが、お前たちはこれ以上国家騎士の名を汚すつもりなのか? 国家騎士なら何を奪い取っても許されるわけではないぞ!」

「「は、はい! すみません!」」


 口ではそう言っているものの実際はどうなのだろう。

 男女二人の国家騎士は、返事とは裏腹にブレイドを睨みつけているのだから。

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