国家騎士-2

 カーラの家に戻ってきたブレイドは、二人からとても心配されてしまった。


「あんた! 国家騎士に何をしたんだい?」

「お兄ちゃん、変なことされなかった? 大丈夫?」

「大丈夫だよ。ほら、どこにも怪我なんてないだろ」


 ブレイドは言いながら両手を上げてその場で一回転してみせる。

 前に戻ってくるとニカッと笑い、カーラは苦笑を浮かべてリアナはなぜか怒り顔だ。


「もう! お兄ちゃんは一人で無茶ばかりするんだから、こっちのことも考えてよね!」

「すまんすまん。だって、相手は国家騎士だろ? いきなり襲い掛かったりとか、普通はしないだろ」


 ブレイドの言葉を聞いた二人は突然暗い顔をしてしまう。

 予想外の反応にブレイドは困惑してしまった。


「えっと、どうしたんだ?」

「お兄ちゃんは世間知らずなの?」

「そうだねぇ。国家騎士の悪名は誰もが知っているところじゃないのかい?」

「……へっ?」


 まさかの悪名という言葉にブレイドは驚きの声を漏らした。

 エリーザの対応は殺気を放ったこと以外はとても丁寧に対応してくれていた。悪名高い国家騎士、ということであれば七星宝剣が神の遺物アーティファクトだと知った時点で無理やり奪われてもおかしくはなかったはずだ。


「うーん……まあ、人によるってことか」

「そ、そんな簡単に話を終わらせていいの?」

「っていうか、なんでいきなり呼び出されたんだい?」

「あぁ。この剣が珍しいから見せてほしいって言われました」


 剣を渡せと言われたり殺気を放たれたことに関しては伏せているが、ブレイドとしては嘘をついているつもりはない。だいぶ噛み砕いての答えだが。


「へぇー、きれいなもんだねぇ」

「俺のお気に入りなんですよ」

「それにしても、剣だけ立派で服装は質素だね。そんなんで冒険者をやって大丈夫なのかい?」


 今の装備は皮の洋服一枚にロイドから貰った古い軽鎧のみ。

 リアナが立派なローブを身に着けていることを考えれば、装備の差が大きかった。


「俺は父さんのお下がりで十分ですから。これも立派な軽鎧なんですよ?」


 ひどく傷ついているものの、ブレイドの軽鎧は大亀ボアタートルの甲羅から作られた一級品。名前を大亀の軽鎧タートルライドと言った。


「そうなのかい? 素人には見分けがつかないよ。まあ、あんたが無事で良かったよ」

「ご心配をおかけしました」

「もう夜も遅いんだ。ゆっくり休んで明日に備えな」

「「はーい!」」


 すでに月が一番高くまで昇っている。

 二人はカーラが整えてくれた部屋に向かうとふかふかのベッドの中で眠りについた。


 ※※※※


 翌朝、何やら家の外が騒がしくなっていることに気づいたブレイドは日が顔を出す少し前に目を覚ました。

 窓から外を見てみると、多くの人が宿屋の方へ向かい走っている。

 不審に思い部屋を出てみるとすでにカーラが起きていたのだが、その表情はあまり冴えない様子だ。


「おはようございます。何かあったんですか?」

「昨日の今日で、国家騎士が問題を起こしたんだよ」

「えっ! ……ということは、隊長のエリーザも現場にいるのか?」


 カルディフの中で問題を起こしたということは、住民と問題になっているということだと思ったブレイドはすぐに支度を始めた。


「あんた、また問題に頭を突っ込むつもりかい?」

「またって、昨日のは特に問題にはなってないですよ」


 苦笑しながら話をしていると、リアナがまぶたをこすりながら部屋から出てきた。


「……あれ? ……お兄ちゃん、どうしたの? 早起きだね?」

「ちょっと出てくる。カーラさん、リアナのことよろしくお願いします」

「なんだか昨日も言われたね、そのセリフ」

「……確かに」


 お互いに笑い合いながら、何が起こっているのか分からないリアナはぼーっとしている。


「あんな剣を持っているんだ。腕っぷしには自信があるのかもしれないけど、国家騎士に喧嘩なんて売るんじゃないよ」

「どうだろうね。それじゃあいってきます」

「……腕っぷし? 国家騎士? ……えっ、ちょっとお兄ちゃん! また何をしに行くつもりなのよ!」

「やべっ」


 リアナの思考が寝起きから動き始めたのを確認したブレイドは慌てて家を飛び出した。


「ちょっと待ちなさいよ! お兄ちゃああああああああん!」


 リアナの絶叫を背にしながら、ブレイドは宿屋へと急いだのだった。

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