帰還

「――うわ、眩しいな」


 二人は魔窟に潜る前の場所に立っていた。

 日は傾きもうすぐ姿を隠してしまいそうになっている。

 相当な時間を要したのだとリアナは理解し、すぐに移動を開始するべきだとブレイドに提案した。


「野宿は嫌だわ! 速くカルディフに移動しましょう! 魔法陣の複写もできなかったし、これで野宿なんて考えられない!」

「うーん……それもそうだな。家族会議はその後にでもするか」


 とは言ったものの、次の村まで普通に歩くと二時間以上掛かってしまう。急いだとしても日は確実に暮れてしまうので危険が伴ってくる。

 ならばどうするべきかを考えた結果――


「――やっぱりこうなるのねええええええぇぇっ!」


 ブレイドがリアナをおんぶしての激走。

 大絶叫を響かせながら、二人はカルディフに到着したのだった。


 ※※※※


 ブレイドの激走のおかげもあり、カルディフには日が沈んですぐの時間に到着することができた。

 リアナはぐったりしているものの、野宿するよりかはマシだと自分に言い聞かせてフラフラしながら歩いている。


「ポーションでも飲むか?」

「そんな貴重なもの飲めないわよ!」

「……ポーションって、貴重なんだ」


 そのポーションと上位のハイポーションを100本持っているとは言い出せず、ブレイドは乾いた笑いを漏らしながら宿屋へと向かう。

 小さい町だということもあり宿屋は一軒だけなのだが――なぜだか甲冑を身にまとった騎士が入口を塞いでいた。

 顔を見合わせた二人は、近くにいた恰幅のよいおばさんに話を聞いてみた。


「あの、すいません」

「おや、こんな時間に子供だけでどうしたんだい?」

「俺たち、ソリダ村から冒険者になるためにマンティスへ向かってる途中なんです。それで、宿屋に泊まろうと思ったんですけどあの状態で……」

「あぁ、あれかい。……あんたたち、今日は宿屋に泊まれないと思うよ」

「「えっ!」」


 まさかの答えに二人は声を上げてしまった。


「あの集団は国家騎士さね」

「国家騎士がなんでここに?」

「なんでも、この近くに魔窟が現れたとかでその封印に来たんだとさ」

「「……魔窟の封印?」」


 そして今度は声を揃えて繰り返してしまう。

 魔窟といえば先ほど二人が封印したものしか見当たらなかったのだが、それ以外にも魔窟があったのだろうか。


「それってどこに現れたか分かりますか?」

「さあ、そこまではねぇ。あたいらは知らないけど、魔窟ってのは貴重なアイテムが手に入るんだろう? それも狙っているんじゃないのかねぇ」


 もし二人が封印した魔窟だった場合、彼らは無駄足を踏むことになる。

 それと同時に誰が先に封印したのかを探し始めるかもしれない。

 もし国家騎士の誰かが先に発見していたなら、二人が魔窟を横取りした可能性もあるからだ。


「……まあ、大丈夫か」


 魔窟を見つけた時点で攻略に乗り出さなかったのだから、横取りされても文句は言われないだろうと自分の中で完結させる。

 そして、ブレイドは一番の問題について考えることにした。


「せっかくカルディフまで来たのに、結局野宿かよ」

「あ、あの地獄のような風圧に耐えたのに」


 二人して溜息を漏らしながらとぼとぼとカルディフの外へ歩いていく。


「ちょっと、ちょっと! あんたたち、野宿するつもりかい?」

「泊まれないんじゃあ仕方ないですよ」

「うぅぅ、せめてベッドの上で眠りたかったよー」

「……狭い家だけど、よかったらうちに来るかい?」

「「い、いいんですか!?」」


 たまたま声を掛けたおばちゃんにそう言ってもらい、二人は驚きの声で確認する。


「こんな子供に野宿をさせるのはかわいそうだからね。ベッドじゃないけどいいかい?」

「もちろんです! あ、ありがとうございます!」

「あっ! だったらお代は払わせてください!」

「いいよそんなもん。あたいの家はこっちだよ」


 笑いながら歩き出したので、二人も隣に並んでついて行く。


「あたいの名前はカーラさ」


 二人もカーラに自己紹介すると、カーラが買い物の途中だったことを知り荷物持ちを買って出た。

 さらにブレイドはこっそりとアイテムボックスからゴルドを取り出して支払いを済ませてしまう。


「あっ! あんた、子供が何をしてるのさ!」

「宿屋代がいらないなら、これくらいは出させてください。これでもお金には困ってないんだ」

「……全く、本当なのかねぇ」


 心配そうに口にするカーラは、その後の買い物はすぐに支払いまでしてしまうのでブレイドがゴルドを出す隙がなかった。

 結局、最初の一回しか支払いをさせてもらえず、そのままカーラの家に到着した。

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