カーラ
カーラの家は平屋になっており、台所とリビング、そして部屋が三つある。
一つはカーラの部屋だろうが、残り二つは旦那と子供の部屋だろうか。
そんなことをブレイドが考えていると、カーラは自分の部屋から二つの布団を持ってリビングに出てきた。
「二つとも部屋は空いているから一人ずつ使いなね」
「えっ? ここはカーラさん一人で暮らしているんですか?」
驚きの声を上げたのはリアナで、ブレイドと同じことを考えていた。
「夫には先立たれてねぇ。それに一人息子も今は独り立ちして町を出ているのよ」
「そうだったんですね」
少し寂しそうな表情を浮かべるリアナ。
ブレイドも今の話を聞いてロイドとリリーのことを思い出していた。
ソリダ村を出て一日も経っていないにもかかわらず、二人は両親のことが心配になってしまう。
「まあ、年に数回は戻ってきてくれるからね。あんたたちも冒険者になってもたまには戻ってやりなさいよ」
快活に笑うカーラはそのまま晩ご飯の準備に取り掛かった。
「あっ! 手伝います!」
「俺も何かできることはありますか?」
「そうさねぇ……それじゃあ、これとこれを一口大に切ってちょうだい」
カーラは少し考えたあとで二人に指示を出すと、その表情はとても嬉しそうだった。
「賑やかな食事は久しぶりだねぇ」
「俺たちは逆に静かな食事に慣れていく必要があるな」
「えぇー、二人いるんだから賑やかに食事をしてもいいんじゃないの?」
「そういえば、二人はソリダ村から来たんだろう? そうなると……出発して三日目くらいかい?」
「いえ、今日の朝に出ましたよ」
「……えっ?」
手際よく料理を作っていたカーラの手が止まり、二人をまじまじと見つめている。
それもそうだろう。先ほどカーラが口にした通り、本来なら三日は掛かる道程を一日も掛からずに踏破したと言っているのだから。
「……面白い冗談だね!」
「あは、あはは、やっぱり冗談に聞こえますよね!」
「そりゃそうだよ! 馬を使っても二日は掛かるんだ。子供が二人、それも徒歩でってなれば酷い冗談もいいところだよ!」
から笑いを漏らすブレイドの背中をバンバンと叩きながら料理に戻ったカーラを見て、二人はホッと胸をなでおろす。
ここで変な子供だと思われて家を追い出されでもしたら、今度こそ野宿をするしかなくなってしまう。
変なことは言わないようにと、カーラに隠れてリアナの鋭い視線がブレイドに向いていた。
「二人は明日すぐに出発するのかい?」
「はい。長居をするわけにもいきませんから」
「それじゃあ、今日は腕によりをかけて美味しい料理を作らなきゃね!」
そこからは三人で料理を作り、そして賑やかな晩ご飯となった。
※※※※
――宿屋の一室。
今回の魔窟封印を一任された国家騎士、エリーザは気になるものを目撃していた。
それは道中ではなく、カルディフに到着してから。
「あの少年が帯剣していたのは……」
ベッドに横になり見知らぬ天井の木目を見つめながらエリーザは独り言を漏らしていく。
「まさか、そんな馬鹿なことはないだろう。……だが、もし
エリーザが目撃した少年というのは、ブレイドのことだった。
防具は全てアイテムボックスに入れいているのだが、七星宝剣だけは腰に差したままになっている。
見るものが見れば分かる神の遺物。その物が放つ気配は普通の装備品からは絶対に現れないものだった。
「……一度、確かめてみるべきかもしれないわね」
立ち上がったエリーザは部屋を出ると一階へと下りていく。
「エリーザ隊長、どちらに向かわれるのですか?」
声を掛けてきたのはエリーザよりも年上で初老の男性騎士、今回の遠征部隊の副隊長でもあるダルリアンである。
「少し気になるものを見つけたのでな、それを確かめに行ってくる」
「あまり遅くならないでくださいね」
「明日は早いからな、了解した」
ダルリアンはとても優秀な騎士だ。多くの騎士から尊敬され、若手騎士からは指導を頼まれるほどに優秀だ。
人間としても素晴らしく、年下のエリーザの下に就くことも受け入れている。
だが、他の騎士たちも同じかと言われるとそうではなかった。
「おーおー、こんな夜遅くに隊長様はお出かけですよ」
「いったいどこに遊びに行くのやら」
「男じゃねえのか?」
中堅騎士が小声ではあるけれどエリーザに聞こえる声量で口にする。
ここでエリーザ一喝することもできるのだが、それで収まるような連中でないことは理解している。
「……」
結局、エリーザは何も言わないまま宿屋を後にした。
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