魔窟-7
バルが消えたのを確認したリアナは――怒声を響かせた。
「お兄ちゃん! なんであんなことをしたのよ!」
「いや、ああするしか方法がなかったじゃんよ」
「魔族と話し合いなんて、普通は考えないんだよ!」
「でも上手くいったじゃん」
「それはそうだけど、危険過ぎるわよ!」
これは全てを吐き出さないと止まらないなと判断したブレイドは何も言わずにリアナの言葉を聞くことにした。
だが、その言葉もすぐに止みブレイドは恐る恐るリアナの顔を覗き込んだ。
「……なんで泣いてるんだ?」
「う、うるさいわね! お兄ちゃんが死ぬかもしれないって思ったのよ!」
「そっか、そうだよな。心配してくれたありがとう」
「……今度は無茶しないでね」
「おう。ちゃんと許可を貰ってから――」
「絶対にしないでね! 許可なんて与えないから!」
「……ぜ、善処します」
あはは、と笑いながら答えているブレイドにリアナは大きな溜息を漏らす。
生きた心地はしなかったものの、実際には生きているのだから今回の件は水に流すことにした。
ここから先に魔族がいないと判断したブレイドは目立つ防具類をアイテムボックスに戻していると、リアナが声を掛けてきた。
「アイテムを取りに行くのに装備を外すの?」
「この先に魔族はいないからな。それにしても……あぁー、楽しみだなぁー! バルの魔素を浴びたってことは、レア度も跳ね上がってるはずだからなぁー!」
「そういうものなの?」
知らなかったという感じでリアナが聞いてきた。
MSOの知識とこの世界の知識にずれがあるのか、それとも知られていないだけなのかは分からないが、ブレイドはリアナの質問に答えることにした。
「俺の知識が確かなら、魔窟で手に入るアイテムは魔素の量によって変化していくんだ。その量が多ければ多いほど、レアアイテムを手に入れることができる」
「本当かしら、聞いたことないんだけど」
「まあ、魔窟から出てくるアイテムは全部がレアアイテムみたいなものだし、強い魔族がいる魔窟からは自ずと強力なレアアイテムが手に入れるから分かりにくいかもしれないな」
「それは、強い魔族から放たれる魔素が濃いからってこと?」
「その通り。だから、今回みたいに浅い階層でもバルが現れたことで濃い魔素を浴びたってことは、強力なレアアイテムに変化している可能性が高いってことだな」
「ふーん……まあ、アイテムを見てから信じるかどうかは判断するわ」
半信半疑のままリアナはブレイドに続いて奥の方へと進んでいく。
すると、壁に一人がようやく通れるくらいの隙間を見つけると、ブレイドから抜けると続いてリアナ。
ゴツゴツの岩肌が続いていた魔窟なのだが、隙間を抜けた先には全く別の空間が広がっていた。
「……こ、ここって?」
「ここがレアアイテムが安置されている場所だよ」
天井から地面にかけてデコボコのないツルッとした手触りの造りに変わっており、ここだけが別の空間のように感じられる。
若干の躊躇いを見せているリアナだが、ブレイドがさっさと先に進んでしまうので仕方なく追いかけていく。
少し進んだ先で階段状の段差を見つけた二人は、その一番上にアイテムを見つけた。
顔を見合わせた二人は一緒に駆け出すとそのアイテムの前まで移動する。
「……これが、今回のレアアイテム!」
「……見てるだけでもそのすごさが伝わってくるよ」
金色の錫杖、その先端には三つの宝玉が赤、青、緑で煌めいている。
宝玉の色にはそれぞれの属性が関係しており、赤は火属性、青は水属性、緑は風属性。
属性強化に加えてレアアイテムの場合だとアイテム固有の魔法が使えるようになることから、魔法師以外でも杖は貴重なアイテムになる。
「これはリアナが使ってくれよ」
「えぇ、私がこのレアアイテムを使うなんてあり得ない……ん?」
「俺には七星宝剣があるし、杖が出てくれてよかったー!」
「……いやいやいやいや、ちょっと待ってよ!」
安堵の声を漏らすブレイドとは違ってリアナは慌てたように顔を横に振っている。
「こんなすごいアイテム使えないわよ!」
「なんで、リアナは魔法師だろ?」
「そうだけど、見習いペーペーの魔法師にこんな恐ろしい杖を使わせないでよね!」
「えぇー、リアナは天才魔法師だろ? 中級魔族も難なく倒せるんだから絶対大丈夫だって!」
「気持ちの問題です!」
頑なに受け取ってくれないリアナにブーブー言っていたブレイドだが、この場に留まっているのも時間の無駄だと思い仕方なくアイテムボックスに突っ込んだ。
「後で家族会議な」
「絶対に使えないから! 怖いから! ……って、何、揺れてる?」
リアナが感じた揺れは、最初は小刻みだったのだが徐々に大きくなると、立っていられないほどの揺れに変わった。
「お、おおおお、お兄ちゃん、これって、何なのー!」
「魔窟は主である魔族が殺されると崩壊していくからな。さっさと出ないと埋もれて死んじゃうんだよ」
「……そういう大事なことは最初に言ってよ!」
「安心しろ。地上に移動する魔法陣が……おっ、あったあった」
ブレイドは階段状の段差を入ってきた向きとは逆側に下りていくと、そこには白い光を放つ魔法陣が存在していた。
「……こ、こんな精緻な魔法陣、見たことがないわ」
「そこは置いといて、とりあえず脱出するぞ」
「ちょっと待ってよ! 一人の魔法師としてはこの魔方陣の解読を試みたい――」
「死ぬぞー」
「……な、何かに複写できれば!」
「時間がないから。さっさと行くぞ、ほらほら」
「ちょっとお兄ちゃん、押さないでよ!」
ブレイドは魔法陣にしか興味がなくなってしまったリアナの背中を押して魔法陣の中に移動させると、自分も入って起動させる。
「いーやー! せめて複写を、ふく――」
魔力に反応した魔法陣は二人を飲み込むと、その場から姿を消してしまった。
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