魔窟-3

 三階層からは上層と異なる雰囲気が漂っていた。

 魔素が一番濃くなっている場所だからか、リアナは息苦しさを感じている。


「……ここが、三階層で、最深部」

「おぉー、なかなかに濃い魔素だなー」

「……お兄ちゃんは、普通なんだね」

「これくらいならな」

「……これくらいって」


 呼吸するだけでも辛くなっていたリアナとは違いブレイドはいつもと変わらない足取りで進んで行く。

 ブレイドについて行くだけでもさらに呼吸が苦しくなって来たリアナだったが――


「……あ、あれ? 苦しさがなくなった?」


 息苦しさがなくなり、まるで外にいる時と同じように呼吸をすることができる。

 魔素が薄くなったわけではなく何が起こったのかと周囲を見渡していたリアナだったが、その視線はブレイドで止まった。


「……お兄ちゃん、何かしたの?」

「ん? 少しだけ魔素の流れを遮断したんだ」

「魔素の流れを遮断って、そんなことできるの?」

「魔窟攻略には必須のスキルだからな、習得はしているよ」


 魔素というのはMSOにおいて毒と似た性質を持っている。

 人族の体内に魔素が大量に取り込まれてしまうと徐々に体調が崩れていき、対処するのが遅れてしまうと最悪死んでしまうこともある。

 魔素が溢れている魔窟攻略には魔素遮断スキルが必須だった。


「そんなもの、どうやって習得するのよ」

「それは……あー、どうやるんだ?」

「私が聞いてるのよ!」


 ここに来て初めてスキルをどうやって習得するのかという疑問にぶつかった。

 今まではMSOのブレイドが習得していたスキルで全てが上手くいっているが、新しいスキルを習得したいと思った時にはどうしたらいいのだろうか。


「いや、このスキルじゃなくて、新しいスキルを習得したいと思った時だよ」

「そんなもの、地道に努力するしかないじゃないのよ! でも、魔素遮断なんてスキルの習得方法なんて公開されていないわよ!」

「……公開? ……あぁ、なるほど、そういうことか」


 ブレイドの知識を掘り起こしていくと自分で答えを見つけることができた。

 この世界ではスキルの習得方法が各ギルドに報告されると、ギルドから国民に対して開示されている。

 これは国民がスキルを習得して仕事を効率よくできるようにと決められた法律だった。


「だから地道な努力って言ったのか」

「当然のことじゃないのよ! ……はぁ、もういいわ。お兄ちゃんが規格外になったことを理解しないと私の中の常識が壊れちゃうわ」

「あはは、規格外って」

「……」

「……えっと、まあ、そうだよねー」


 冗談めかして笑っていたブレイドだったが、リアナからジト目を向けられてしまい視線を逸らせてしまった。

 そこでブレイドはようやく三階層の異変に気がついた。


「あれ? ……どうして魔族が出てこないんだ?」

「そういえば、三階層に下りてきてから一匹も見てないわね」


 ブレイドとしてはこの展開は予想外だった。

 三階層、そして魔素が薄いということから上級魔族でも下位の魔族がいるだろうと踏んでいた――通常ならば。


「……そうか、これはマズったか?」

「ど、どうしたの、お兄ちゃん?」

「……すまん、ちょっと装備を整えるわ」


 真剣な表情を浮かべたブレイドは七星宝剣だけではなく、防具を全て装備することにした。

 どれも隠しストーリーで手に入れた一級品の防具であり、この世界では神の遺物アーティファクトと言われている逸品。

 銀龍鱗の軽鎧ジルバディオン大侍の籠手スサノオアーム天使の羽靴エンジェルブーツを全て装備したブレイドを見たリアナは口を開けたまま固まってしまった。


「……な、何よ、その装備」

「これか? これもアイテムボックスの中に入ってたんだよ。格好いいだろう?」

「そ、そういう問題じゃないわよ! こんなすごい装備を持っていたならなんで最初から装備していなかったのよ!」

「だって、目立つじゃん?」

「目立つけど装備しないとか意味がな……い……」


 最後の方だけ徐々に言葉が小さくなっていったリアナ。それはブレイドが防具を装備した理由に考えが行きついたからだ。


「……それって、この装備をしていないと勝てない相手かもしれないってこと?」

「……俺の予想外の状況が起こっていたらだけどな」


 魔窟に魔族が現れない現象には出会ったことがあった。

 もちろんMSOのイベント演出だったのだが、同様のことが現実で起きていると考えれば強敵が現れることは明白だった。


 ――魔族の威圧で魔族が死んでしまう。


 魔窟には本来いるはずの魔族から放たれる魔素に耐えられる魔族が生息しているのだが、それ以上の魔素を放つ存在が現れたとなれば耐えることができず黒い霧になって消えてしまう。


「さて、この奥には何がいるのか……楽しみだな」


 それでも楽しみだと言えるのがブレイドだ。

 自分のスキルや装備には自信を持っているのだが、それ以上の相手が本当にいるのか。そして、もしいたとなればどのように倒してやろうかと考えてしまう。

 リアナの不安が的中した形になったのだが、ブレイドは笑みを浮かべながら先へと進んで行った。

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