魔窟-2

 キンググリズリーとダークウルフの群れを倒した二人は、その後も魔族との遭遇が頻発していた。

 その全てが中級魔族であり、遭遇する最初の頃は驚いたり後退っていたリアナだったのだが、ブレイドの指示で倒すことに成功したりブレイドが容易く討伐していく姿を見ているとだんだんと慣れてしまう。

 そうして進んだ先で二階層へと下りる階段を見つけた時には、リアナは中級魔族を目にしても驚くことはなくなってしまった。


「さて、下に行くと魔素が薄いとは言っても一階層よりはどんどんと濃くなっていく。おのずと魔族も強くなるから注意しろよ」

「それはお兄ちゃんが苦戦する程なの?」

「俺がか? まさか」

「……だよね。だったら安心して行けるわよ」


 リアナの肝も据わってきたことでブレイドはニヤリと笑った。


「それでこそ俺の妹だな」

「昔は私が守ってあげてたのにー!」

「あはは。本当に助かっていたよ、ありがとう」


 MSOの能力が宿る――久木が転生する――までは何もできないブレイドだった。

 リアナの存在はブレイドにとって、ブレイドの心にとってはとても大きな存在になっている。

 ブレイドの言葉は本心から出たものだった。


「さて、行こうか」

「うん!」


 そして下りていった二階層では、肝の据わったリアナが大活躍することになった。


 ※※※※


 魔窟の二階層は通路が広く造られていた。

 この通路の造りは大勢の魔族に襲い掛かられると数の暴力をもって蹂躙される可能性が高くなる。

 だが、それは広範囲を攻撃できる手段を持たない場合だ。


爆炎の嵐フレアストーム!」

「ゲギャアアアアァァッ!」

地脈返しリバースアース!」

「ブギュルルルルゥゥッ!」

雷撃の弾幕サンダーボム!」

「ピギュララララァァッ!」


 通路の造り通りに魔族が押し寄せてきたものの、リアナが嬉々として上級魔法を放ち一掃してしまう。

 天才魔法師と言われていた実力を見せつけるように、一匹の魔族すら逃がさない弾幕にブレイドも舌を巻いていた。


「リアナを怒らせたら俺でもタダでは済まないな!」

「笑ってないでお兄ちゃんも手伝ってよ!」

「いやいや、ここはリアナに任せるよ!」

「んもうっ!」


 怒りながらも魔法を放ち続けているリアナ。

 ブレイドは冗談のように言っていたが、実のところ力を温存しておきたいという本音もあった。

 エボルカリウスよりも弱いだろうと思っている最深部にいる魔族だが、それでも魔窟にいる魔族というのは上級魔族であることに変わりはない。

 魔法を得意とする魔族もいれば、接近戦を得意とする魔族も存在する。

 魔族の種類によっては苦戦を強いられることも考えられるので、なるべき力を残しておきたかった。


 そしてもう一つの理由、それはリアナに自信を持ってもらうことだった。

 肝が据わったとはいえ中級魔族と上級魔族には大きな隔たりが存在する。

 中級魔族である程度慣れておき、上級魔族を目の前にしても普段に近い動きができるようにしておきたい。

 エボルカリウスとも対峙したことのあるリアナとはいえど、上級魔族は何度対峙しても慣れないものなのだ。


「……もう、いないかしら?」

「そうだなぁ……おぉ、すごいな、全滅だよ」

「本当? はああああぁぁ、よかったぁ」

「なんだ、緊張しているようには見えなかったけど?」

「あれだけの魔族を目の前にしたのは初めてだったんだよ? 緊張するに決まってるじゃないのよ」


 その割には嬉々として魔法を使っていたように見えていたブレイドなのだが、そのことを口にするとまた怒られると思い黙っていることにした。

 その変わりではないが、すぐに先へ進もうと声を掛けて歩き出す。

 道中に単発で出てくる魔族はブレイドが一振りで仕留めていき、二階層は呆気なく三階層へ下りる階段を見つけることができた。


「……本当に次が最深部になるの?」

「……あぁ、念のため魔素判定スカウターを使ってみたが、三階層より下に魔素が溜まっていることはなさそうだな」

「そっか……ここから先に行ったら、上級魔族がいるんだよね」


 ここに来て初めてリアナから弱々しい声が発せられた。


「上級魔族ってことは、エボルカリウスと同じってことなんだよね。キンググリズリーやさっきまで出てきた魔族とは違って、強敵ってことだよね」

「まあな。……だがまあ、俺がいるんだから大丈夫だろう」

「……それは、確信を持って言わないんだね」


 魔窟の階層や魔素の濃さに関しては断定したうえで口にしていたブレイドも、最深部にいるだろう上級魔族との戦いに関しては、大丈夫と断定したことを口にしてくれない。


「上級魔族はどいつもこいつもややこしい能力を持っていることが多いからな。それでも大丈夫だと思うけどね」

「断定はしないのに強気なんだね」

「俺の武器はこれだけじゃないからな」


 そういって七星宝剣の柄に手を振れる。

 リアナは目にしていないが、ブレイドには七星宝剣以外にも防具がアイテムボックス入っている。

 最終的には防具を装備することも視野に入れていた。


「……さて、行くか」

「……うん」


 リアナは一抹の不安を抱きながら、ブレイドと一緒に三階層へと下りていった。

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