天才とは?

 ブレイドは普通に魔法を使ったつもりなのだが、リアナは口を開けたままその場で固まってしまっている。

 何事だろうと思いリアナの顔の前で手を振ってみたのだが動かない。


「……リアナ?」

「へっ? あ、あぁ、お兄ちゃん……そっか、今のもお兄ちゃんの魔法なんだよね」

「当然だろう。どうしたんだ?」


 疑問が解消されないままのブレイドの問い掛けに、リアナは溜息混じりに理由を口にした。


「私が天才魔法師だって言われていたのに、それすらもあっさり追い抜いていっちゃうんだもんね」

「どういうことだ?」

「……なんでもないわよーだ!」


 自分の立場を踏まえて、天狗になっていたのだとリアナは自分への戒めとした。

 ブレイドは本当の天才だと。それも魔法だけではなく剣技でもその才能を見せつけている。

 そして、ブレイドと一緒に冒険をしていれば自分は更に成長できるだろうとも考えていた。


「私もお兄ちゃんに負けないように頑張らなきゃね!」

「まあ、ほどほどにな」


 そんな会話をしながら休憩を終えた二人は一番近い大都市を目指すため立ち上がる。


「ここからだと、マンティスか」

「ねぇ、お兄ちゃん。今更なんだけど、普通は歩いて行こうとは思わない距離だよね?」

「……そうか? 走れば夜までには着くだろう」


 ブレイドの思考はMSOのままであり、ゲームでは走って向かうことが普通だった。

 夜までに間に合わなければキャンプをして、翌日に目的地へと向かう。

 だが、実際のこの世界では異なっていた。


「どれくらいの距離があると思っているのよ! 普通は途中の町で休んでから向かうのよ!」

「えぇー! 時間がもったいないよ! さっきの速度で走れば間違いなく間に合う──」

「私が死んじゃうから! あんなの絶対に無理だからね!」


 必死の形相で止められてしまったブレイドは渋々頷くことしかできなかった。


「今日の目的地はマンティスの手前の町、カルディフよ」

「カルディフかぁ……まあ、仕方ないな」

「これが普通なの! ふ、つ、う!」


 こうして二人はカルディフを目指し進み始めた。

 リアナが嫌がったので歩いての道中となり、ブレイドとしては退屈な時間だったのだが──


「あれ? これって……」

「どうしたのお兄ちゃん?」

「リアナ、これってもしかして──魔窟じゃないか?」


 ブレイドが見つけたのはできたばかりの魔窟、その入口だった。


「……嘘、本当に魔窟だわ」

「えっと、魔窟に関しては……うん、発見者がそのまま封印しても問題ないか」


 MSOとは異なり魔窟は何度でも攻略できるものではない。

 一度最深部に潜む魔族を討伐して封印してしまえば魔窟はなくなってしまう。

 魔窟の最深部からは強力なアイテムを手に入れることができるので、多くの場合が発見者がそのまま攻略に乗り出していく。


「でも、準備も何もできてないわよ?」


 リアナの言う通り、今の荷物ではマンティスに向かうまでの準備しかできておらず、魔窟攻略ができるほどのアイテムを持っていなかった。


「……いや、これなら問題ないだろう」


 しかし、ブレイドの意見は異なっていた。


「さすがのお兄ちゃんでもそれはないんじゃないの? 魔窟は魔族の巣窟、ビーラットみたいな弱い魔族ではなくて、もっと上位種がたくさん現れるのよ?」

「分かってるよ。ただ、この魔窟は階層も浅いみたいだし、何より魔素も薄いから──」

「ちょ! ちょっと、ストーップ!」

「……今日はストップが多いなぁ」


 少しだけ呆れたように口にしたブレイドなのだが、リアナはというと目を見開いたままわなわなと震えている。

 いったいなんなのだと言わんばかりに大きく首を傾げたブレイドめがけて一気に捲し立ててきた。


「な、なんで魔窟の階層が浅いだなんて分かるのよ! それと魔素が薄い? そんなもの感じられるわけないじゃないの! それに階層が浅かったとしても、魔素が薄かったとしても、上位種の魔族がいたら危ないに決まってるんだからね!」

「……そ、そんなに怒るなよ。それと顔が近いからな?」

「……はっ!」


 捲し立てながら一歩ずつ詰め寄っていたリアナは、ブレイドの鼻と自分の鼻が触れるのではないかというところまで近づいていた。

 あまりの恥ずかしさに慌てて距離を取ったリアナだったが、それでも驚きが消えることはなかった。


「……それで、なんで分かるのよ?」

「なんでって言われてもなぁ。これもスキルとしか言えないんだよなぁ」

「そんなスキル聞いたことないわよ!」


 ブレイドの持つスキルは魔素判定スカウター

 魔素の流れを感じ取ることができ、その範囲はレベルによって広がっていく。

 魔窟を安全に攻略するには必須のスキルだったこともあり、ブレイドは魔素判定のレベルも最大まで上げている。

 ブレイドが感じ取れる範囲内で魔素の流れが滞っていたことから魔窟の階層が浅く、さらに最深部に溜まっている魔素の量も少ないことから濃度も薄いと判断した。


「……本当に、おかしなスキルがいきなり現れたのね」

「おかしなスキルとは酷いな。便利なスキルじゃないか」

「はぁ。……それで、お兄ちゃんはこの魔窟に潜るつもりなの?」


 リアナの問い掛けに対して、ブレイドはニヤリと笑って当然のように告げた。


「もちろんだろ! これぞ冒険、そしてレアアイテムを手に入れるチャンスだからな!」

「……もう、分かったわよ! お兄ちゃんを信じるからね!」


 こうなったら一蓮托生、死ぬまで付き合ってやるという気持ちでリアナも頷くと、二人は魔窟へと潜っていった。

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