移動手段

 ブレイドとリアナは村を出てからしばらくは普通に歩いていた。

 ただ、このままでは目的地へ着くまでに日が落ちてしまうということで――


「ぎゃー! お、お兄ちゃん、ストーップ!」

「えっー? 聞こえなーい!」


 ブレイドはリアナをおんぶした状態で全力疾走をしている。

 振り落とされないようブレイドの背中に必死でしがみついているリアナだったが、あまりの風圧に首がもげるのではないかと恐怖を感じていた。

 静止を呼び掛けても『聞こえない』の一点張りで止まろうとしないのだが、これは本当に聞こえていなかったので仕方がない。

 それでもリアナからすると関係のないことだったので、休憩がてら降ろされた木陰でブレイドに怒鳴り散らしていた。


「お兄ちゃん! 私は何度もストップって言ったのにどうして止まってくれなかったのよ!」

「いや、風の音で聞こえなくて……」

「聞こえていなくても察してよ!」

「……ごめん」


 文句を言い続けていたリアナは、五分くらいしてようやく満足したのか肩を落としているブレイドの隣に座って手を伸ばす。


「……何?」

「お母さんからの弁当、食べようよ」


 家を出る前、リリーが急いで作ってくれた弁当がアイテムボックスの中に入っている。

 太陽もすでに頭の上まで登ってきているので昼ご飯にはちょうどよい時間帯だ。

 ブレイドがアイテムボックスの中に手を入れて弁当を取り出すと、リアナの表情は引きつっていた。


「ど、どうしたんだ?」

「大丈夫だってのは分かっているんだけど、腕が途中で無くなるのが気持ち悪いなって」

「こういうものだから仕方ないだろう。ほら、食べないのか?」

「……食べる」


 見た目に気持ちが悪いのと空腹は別問題なので、リアナは弁当を受取ると包みを解いていく。

 朝ご飯の残り物――と言っていたのだが、中には朝出てきたおかず以外の料理が詰められていた。


「うわー! 美味しそう!」

「あの短い時間で……すごいな、母さんは」


 二人は神に祈りを捧げると、リリーの手作り弁当を堪能した。


 ※※※※


 食事を終えた二人は改めてこれからの行動を確認することにした。


「まずは冒険者ギルドがある大都市に向かう、そこで登録を済ませてから魔窟の情報を集める」

「魔窟を封印するのが目的なら、冒険者登録する必要はないんじゃないの?」

「いや、絶対に必要だ」

「どうして?」

「どうしてって、そりゃあ……なりたいから?」


 ブレイドの単純過ぎる答えにリアナは明らかな嫌悪感を見せている。


「いや、そこまで嫌がることないだろう!」

「お兄ちゃんも変わったとはいえ子供なのねー。もっと、お父さんとお母さんが冒険者だったから! とか言えないの?」

「そっちの方が子供じゃね?」

「そ、そんなことないわよ!」


 結局、再びの言い合いになってしまった二人なのだが――突然ブレイドが立ち上がった。


「この感じ……ビーラットだな」


 習得しているスキルの一つである

 討伐したことのある魔獣の気配を感じ取ることができるスキルで、MSOでは不意打ちを防ぐためにも必要なスキルだった。


「ビーラット? そんなのどこにも――えっ?」


 リアナの言葉を遮るようにして、茂みの中からガサガサという音とほぼ同時にウサギに似た魔族、ビーラットが飛び出してきた。


「――ふっ!」

「ビギャ!」


 額の角でリアナを狙ってきたビーラットだったが、七星宝剣を抜いていたブレイドの袈裟斬りによって角から頭、胴体へ掛けて両断されていた。

 黒い霧になって消えていくビーラット。

 その様子を口を開けたまま固まって見ていたリアナ。

 ブレイドはふぅ、と息を吐きながら振り返りリアナへ声を掛けた。


「大丈夫か?」

「……」

「リアナ?」

「……へっ? あ、あぁ、大丈夫」


 ブレイドの呼び掛けにすぐには反応できなかったリアナだったが、黒い霧の中からドロップアイテムが転がり出てきたことで今の出来事が現実だったのだと理解することになった。

 そして一つの疑問を口にする。


「……お兄ちゃんは、どうしてビーラットが襲ってくるって分かったの?」

「気配察知が発動したからな。ちなみに、右の茂みの中にも様子を伺ってるビーラットが三匹いるぞ」

「えっ!」


 リアナが慌てて振り返ると、ビーラットは気づかれていたことを察知してすぐに逃げ出してしまう。


「に、逃さないわよ!」


 先ほどはブレイドに助けられた負い目があったリアナはすぐさま魔法を発動させる。


「下級魔法――風の刃ウインドカッター!」


 草を切り裂きながらビーラットへと迫る風の刃は一瞬のうちに首を刈り取ることに成功したが一匹のみ。

 残る二匹はそのまま逃げ出そうとしていた――その時である。


「――氷柱林アイスニードル


 地面から伸びた一〇以上の氷柱が二匹のビーラットを突き刺すと、そのまま黒い霧へと変わっていった。

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