ブレイドの選択-2
ブレイドが最初に確認したのは七星宝剣を取り出した空間――アイテムボックスについてだ。
無限にアイテムを保管することのできるMSOにおけるシステムの一つ。
自由に出し入れをすることも可能で、ブレイドが今までに手に入れてきたアイテムが全て残っているのかどうか、それを確認しておきたかった。
「……うーん、全部が引き継がれているわけじゃないみたいだな」
結果、アイテムボックスから出てきたのは全損した時にブレイドが装備していたアイテムのみ。
七星宝剣、
その他には短縮使用アイテムに設定していたポーションとハイポーションが100本ずつにマジックポーションが50本。
そして一発の威力が攻撃アイテムの中で最高クラスだった
「……まあ、これだけあれば問題ないだろう。後は――」
最後に確認したかったのがお金――ゴルドである。
MSOを始めた最初の頃はゴルドが足りず困っていた時期もあったが、最終的には装備品は全てストーリーで手に入れた物を使い、購入するものといえば消耗品のポーション類のみ。結果としてゴルドは貯まっていく一方だった。
「……うわー、全部残ってるわ」
金額にして約1000万ゴルド。
MSOではアバターの家を購入することもできたのだが、平均販売価格は200万ゴルドから300万ゴルド。
「……めっちゃお金持ちじゃん」
ゴルドもアイテムボックスに入っていたので今は全額が部屋の床に並べられている。
こんなところを見られてしまったら何を言われるか分からない。ブレイドはゴルドをアイテムボックスに戻そうとしたのだが――
「お兄ちゃんまだー?」
リアナがノックもせずにドアを開けて入ってきた。
当然ながら、大量のゴルドを見て固まってしまう。
「……お、お兄ちゃん?」
「……なんでしょうか?」
「……ど、どこから盗んできたのよ!」
「盗んでないよ! これは俺のゴルドなの!」
「こ、こここ、こんな大量のゴルド、見たことないわよ!」
大声で怒鳴り散らしていたので一階からロイドとリリーが上がってくる足音が聞こえてきた。
ブレイドは慌ててアイテムボックスにゴルドを戻したのだが、その光景もリアナからするとあり得ないことだった。
「……ゴ、ゴルドが、消えたああああああぁぁっ!」
「何事だ!」
「どうしたのリアナ?」
結局ブレイドの部屋に全員が集まってしまった。
説明をシなければリアナが納得しないだろうと思ったブレイドは、まずはアイテムボックスについて説明することにした。
「アイテムボックスだと? ブレイド、お前いつからそんな物を持っていたんだ?」
「昨日、これも突然かな」
「……はぁ、本当に色々なことが起きるものね」
「な、なんでお父さんもお母さんも冷静でいられるのよ! ゴルドが消えたのよ? 大量のゴルドが!」
「……大量の?」
そこについても説明をしなければならない。
ただ、ブレイドはこれが久木の持ち物だと上手く説明できる自信がなかったので見たままを伝えることにした。
「アイテムボックスの中に入ってたんだ。こんな大金は必要ないと思うから、父さんと母さんに分けたいんだけど」
「大金って、いくら入ってたんだ?」
「たぶんだけど、1000万ゴルドくらいかな」
「「「…………い、1000万ゴルドオオオオオオォォッ!」」」
今度は三人揃って驚きの声を上げてしまった。
「ちょっと待てブレイド! 1000万ゴルドって、俺がここで一生かかっても稼ぐことができないくらいの金額だぞ!」
「この家だって、だいぶ値切ってもらって50万ゴルドでしたからね」
「この家が50万ゴルド! ……だいぶ値切ったね」
「そうでしょう? ロイドがとても頑張ってくれたから」
「ふふん、俺の手にかかれば値切ることくらい――」
「ちょっとちょっと! 話が脱線してるわよ!」
リアナが怒鳴り声を上げて三人を睨みつけてきた。
あまりの迫力にブレイドだけではなく、ロイドやリリーも顔をひきつらせている。
「……これだけのゴルドがあったら冒険者になる必要もないじゃないの?」
リアナから呟かれた言葉にブレイドは慌てて声を掛けた。
「いや! 冒険者になるのは俺の夢だったんだ! だから冒険者になる必要はある!」
「……そうなの? 初めて聞いたんだけど」
「まあ、今までは言っても信じてもらえなかっただろう」
「どうして?」
「どうしてって……まあいいや。とにかく、俺が冒険者になるっていうことは決定事項だから!」
今のブレイドならまだしも、今までのブレイドはいじめにあうくらいに弱い人間だったのだから、冒険者になると言って認められるとは思ってもいなかった。
「というわけで、このゴルドなんだけど……半分いる?」
「は、半分も! いいのか!」
「俺はもう二人に恩返しできるか分からないからさ。これくらいしかできないけど」
ブレイドの言葉に喜んでいたロイドの表情は真剣なものに変わる。
リリーも悲しそうな表情でブレイドを見つめていた。
「恩返しならとっくにしてくれているさ」
「リアナもそう。二人が生まれてきてくれただけで、私たちは幸せだったんだからね」
最後は少しだけしんみりとした空気になってしまったが、全員一緒に一階へと降りていった。
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