ブレイドの選択-1
翌朝、ブレイドは朝日が顔を覗かせる前に目を覚ましていた。
窓からは薄っすらと輝く地平線が見えており、ブレイドの選択を歓迎しているように感じられた。
リアナに起こされる前にと着替えを済ませてから部屋を出て一階に向かう。
すると、そこにはすでに全員が顔を揃えてこちらを見ていた。
「おはよう、ブレイド」
「おはよう、父さん。母さんにリアナも」
「おはようお兄ちゃん! 今日は早かったんだねー」
リアナは無邪気に笑顔を向けてくれたのだが、ロイドとリリーは少し寂しげな表情を浮かべている。
おそらくリアナだけが知らないのだろう、ブレイドの選択を。
「……昨日の今日なんだがな」
「行動は早い方がいいかなって。時間は有限だからね」
「……それもそうか」
「何? なんの話なの?」
ブレイドとロイドのやり取りを聞き、リアナは一人だけ首を傾げている。
そして、二人の表情を見たリアナは何か良からぬことが起こると思い慌てて立ち上がるとブレイドに詰め寄った。
「お兄ちゃん、何をする気? どういうことなの?」
「……今から説明するよ」
「その前に、まずはご飯にしましょう。ブレイド、お腹いっぱい食べるのよ」
「……ありがとう、母さん」
ブレイドはリアナの頭を軽く撫でてから椅子に腰掛ける。
それを見たリアナは納得していないものの、今すぐに聞き出すことはできないと分かったのか渋々椅子に戻っていく。
この日の朝食は無言のまま過ぎていき、そして全員が食べ終わるといよいとブレイドの選択を口にする時がやってきた。
「父さん、母さん、リアナ。今日まで何もできなかった俺を支えてくれてありがとう」
「……えっ、今日までって?」
悲しげな表情のまま、リアナはブレイドからロイド、リリーと視線を移していく。
「……みんなは知っているの?」
「いいえ、私も直接は聞いていないわ」
「お父さんは?」
「昨晩な」
「……そんな」
リアナの視線は再びブレイドに注がれる。
その視線を真正面から受け止めると、心の通った声で告げた。
「俺は――冒険者になって世界を見て回ろうと思う」
ブレイドの選択は、ロイドやリリーと同じく冒険者になること。
冒険者になって世界各地を渡り歩き、現在も数を増やしている魔窟を封印していく。
この世界にMSOと同じく魔窟が存在するのか否か。それはブレイドの記憶があると証明してくれている。
ブレイドとして転生した久木がやるべきこと、それが魔窟を封印することなのだと心の声が呼びかけてくるのだ。
「……お兄ちゃん、一人で行くの?」
「あぁ」
「……私も行く」
「ダメだ」
「嫌だ、私も行くの!」
「ダメだ!」
「どうしてよ!」
リアナの同行を頑なに認めないブレイド。
「……私は、お兄ちゃんが、心配なの」
大声をあげて、ついには泣き出してしまったリアナ。
魔窟を封印するということは、常に命の危険がつきまとうことになる。ブレイドの勝手な行動にリアナを巻き込むわけいかない。
そう考えてもう一度はっきりと断りを入れようと口を開こうとしたのだが――
「リアナの好きにしたらいいじゃないか」
「……父さん」
ロイドからの助け舟はリアナに出された。
「ブレイドが連れて行かないと言うのなら、リアナは勝手について行けばいい」
「ちょっと、それはさすがに……」
「俺はブレイドだけではなく、リアナにも自由に生きろと言ってある。だったら決めるのはリアナだ」
「そんなばかな。母さんからも何か言って――」
「頑張りなさいよ、リアナ!」
「はい!」
「ちょっとそこ応援するんですか!」
まさかの展開にブレイドは慌てふためいてしまう。
ロイドには冒険者になることと同時に魔窟の封印に挑戦することも伝えている。その危険性は元冒険者である二人なら知っているはずだ。
「リアナは俺とリリーが認めた天才魔法師だぞ? そう簡単に魔族に殺されるものかよ!」
「うふふ、リアナちゃんなら単身でも大丈夫じゃないかしら?」
「嫌です! 私はお兄ちゃんと行くんですからね!」
「……いや、その、魔窟の封印って、その程度のことなの?」
困惑気味のブレイドにリアナが振り返る。その瞳には絶対に諦めないという決意がはっきりと見て取れた。
「お兄ちゃんがなんて言おうと、私はついて行くからね」
「……追いつけないくらい速く走ってもいいんだぞ?」
「それでも追いかけるわ。もし私が途中で野垂れ死んだら、それはお兄ちゃんのせいだからね」
「寝覚め悪くなるよ! ……はぁ、分かった、連れて行けばいいんだろ?」
「その通り! もう、変に意地を張らなくていいんだからね」
「……意地を張ってたのは誰だよ」
溜息混じりにそう口にしたブレイドだったが、すでにリアナは聞いておらずバタバタと足音を立てて階段を駆け上がっていった。
ブレイドは残されたロイドとリリーを睨みつけたのだが、二人は苦笑するだけでやはりリアナを止めるつもりはないようだ。
「すまんな、ブレイド。ああなったらリアナは本当に飛び出して行ってしまうから、お前と一緒にいてもらった方が安全なんだよ」
「……まあ、そういうことならいいんだけど」
「リアナだけじゃないわ。私もロイドも、ブレイドのことを頼りにしているんだからね」
「……はい」
そう言われてしまい、何も言い返せなくなってしまったブレイドは渋々リアナの同行を許すことにした。
「俺がいても絶対に守れるって保証はないよ?」
「構わん。親としては冷たいと思われるかもしれんが、それがリアナやお前が選んだ道だからな」
「いつか、無事に帰ってきてね。私たちはそれだけを願っているわ」
リリーはゆっくりと近づくと、優しくブレイドを抱きしめた。
「……分かった、ありがとう」
この温もりはずっと側に寄り添ってくれていた。
離れたくない、そう思ってしまうのは仕方のないことかもしれない。
それでも自分の意思でリリーから離れたブレイドは、おじぎをしてから準備のために部屋へ戻っていった。
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