大宴会-2

 宴会場に戻ったブレイドは同年代の子供たちと話をしていたのだが、少し離れたところから申し訳無さそうにやってくる集団を見つけた。

 今までブレイドのことをいじめていた子供たちだ。

 村から大草原まで駆け抜けた姿を目にしている先頭の少年――グリムは言い難そうにしながらも、勇気を出して口を開いた。


「ブ、ブレイド! 今まですまなかった! 俺を殴ってくれ!」

「……へっ?」


 謝られるのは分かる、ブレイドは今までいじめにあっていたのだから。

 ただ、最後の殴ってくれというのはどういうことだろうかと困惑してしまう。


「お、俺は、お前に酷いことをしてきたからな! 一発殴ってくれないと、気がすまん!」

「……えっと、遠慮します」

「なんでだよ! 許してくれないのかあっ!」

「許すも何も、怒ってないからなぁ」

「……ま、まさかだろ? 俺は、その、お前のことをいじめてたんだぞ?」

「そうなんだけどね。まあ、最初に謝ってくれたし、それだけでいいんじゃないの?」


 ブレイドはこんがり焼けた肉を頬張りながらそう口にする。

 一方のグリムは口を開けたまま固まっており、取り巻きの子供たちも顔を見合わせてどうしたらいいのか分からないと言った感じだ。


「……グリム」

「お、おう!」

「一緒にお肉を食べよう」

「……に、肉?」

「そう、肉。一緒に食事をしたら気分も変わると思うよ。それに、この肉めちゃくちゃ旨いし」


 焼きたての肉をグリムの目の前に差し出すと、香ばしい匂いが鼻をくすぐり子供たちの視線は肉に釘付けとなっている。


「……んっ!」

「……あ、ありがとう」


 ブレイドがさらに腕を前に突き出したことで、グリムは肉を受け取るとそのまま頬ばる。

 その瞬間から他の子供たちも料理――主に肉へ群がり始めた。

 みんなが『美味しい』と口にしてにぎやかになると、グリムは申し訳無さそうにブレイドに声を掛ける。


「……すまん、ありがとう」

「いや、俺もなんで今みたいになったのか分からないからね。でも、もし同じような子がいたら、今度はいじめるんじゃなくて助けてあげてくれると嬉しいかな」

「……おう」


 ここでようやく笑ってくれたグリムにブレイドも笑みを返すと、二人も料理を堪能した。


 夜の深くなり、子供たちが帰り、大人たちも少しずつ帰っていく中で、ブレイドはロイドから声を掛けられた。


「ブレイド、少しいいか?」

「もちろんだよ、どうしたの?」


 ロイドはリリーとソリアナに断りを入れると、ブレイドと二人で宴会場を離れると村の中で一番の高台へ移動する。

 何事だろうとブレイドは思ったが、すぐに呼び出された内容を理解した。


「……異界の英雄」

「――! ……父さんは、異界の英雄について何か知っているの?」

「……まあ、おとぎ話に出てくる程度だけどな」


 ――曰く、異界の英雄はその名にふさわしい力を秘めている。

 ――曰く、異界の英雄は魔を打ち払うために現れる。

 ――曰く、異界の英雄が現れた年には――厄災が訪れる。


「……厄災」


 最後の言葉を、ブレイドはゴクリと唾を飲み込みながら繰り返した。


「まあ、あくまでもおとぎ話だからな。それに魔族が言っていたことが本当だとも限らんだろう」

「……うん」


 頷きはしたものの、ブレイドは内心で焦りを覚えていた。

 もし自分が本当に異界の英雄であれば、その厄災へ対抗し得るのはブレイドである。

 そして、その厄災というのはおそらくMSOのラスボスに設定されていただろう魔王だと推測される。

 メインストーリーも半ばだったブレイドにとって、ラスボス討伐はエボルカリウス討伐に比べて遥かに難易度の高い内容だった。


「……ブレイド」

「……はい」

「お前は、自由に生きろ」

「……えっ?」


 ロイドの――父の突然の言葉にブレイドは顔を上げてロイドを見つめる。

 その表情を自愛に満ちており、大きな手がゆっくりとブレイドの頭を撫でてくれた。


「お前が異界の英雄だとしても、そうじゃないとしても、お前はお前だ。今までは他のみんなと比べて頼りない部分もあったから心配していたんだが、今のお前なら何の心配もいらないだろう」

「……父さん」


 ロイドは最初から子供たちの好きなようにさせるつもりでいた。

 ただ、ブレイドに関しては口にした通りで心配の種があまりにも多すぎたために告げることを躊躇っていた。

 リアナにはすでに告げている。ブレイドも自由に生きろと、好きな道を選べとロイドは告げた。


「……父さん、それなら俺は――」


 ブレイドは自分のやりたいことをその場で告げると、ロイドは笑顔で大きく頷くのだった。

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