VSエボルカリウス-1
村の中を駆けていくブレイド。
最初は周囲に人影もなかったのだが、門に近づくと討伐隊を見送った人々が多く姿を現した。
「おい! ブレイド、お前何を――うわあっ!」
ブレイドの記憶にあったいじめっ子の一人が声を掛けようとしたのだが、あまりの速度で駆け抜けていくブレイドに驚きの声を上げるしかできない。
その後も横を通り過ぎていく人からの驚きの声が後方から聞こえてくるが、ブレイドが止まることはなかった。
※※※※
――ドンッ! ドンドンッ!
戦場になっている大草原の最前線では多くの討伐隊が苦悶の表情を浮かべ、死屍累々の様相を呈していた。
そんな中でもエボルカリウスの目の前を動き回り注意を引きつけている人物がいた。
「こいつ、なんで近づけないんだ!」
「あなた、気をつけて!」
放たれる魔法を回避しつつ近づこうと試みるロイドとリリー。
だが、対人族斥力大の効果によって攻撃が当たる距離からはるか遠くで足止めを食らっていた。
「――二人とも、下がれ!」
そこに響いてきた女性の声にロイドとリリーは一気に後退する。
魔法師隊を率いる村の村長――ソリアナは発動準備が完了した大量の魔法を一気に開放した。
しかし、エボルカリウスが持つ魔法攻撃無力化のスキルが全ての魔法を一瞬で霧散させてしまう。
「……こ、これもダメなのか!」
「村長! 危ない!」
今度はロイドの悲鳴にも似た声が響き渡る。
エボルカリウスはゆっくりと右腕を空めがけて上げたかと思えば、その頭上にいくつもの魔法陣が顕現した。
「まさか――上級魔法」
魔法陣の中では幾何学模様が複雑な動きをしており、魔法陣が完成したところから様々な上級魔法が放たれていく。
そのどれもが死に直結する上級魔法であり、魔法師隊は死を覚悟した――一人を除いては。
「
荒々しい戦場においてほんの一瞬、心地良さすら覚えてしまう清涼感あふれる声が脳を震わせた。
天才魔法師と呼ばれているリアナの魔法障壁が魔法師隊の頭上に顕現すると、全ての上級魔法を防ぎ切ってしまう。
その様子を無言のまま見つめているエボルカリウスは、誰にも分からない程度に笑っていた。
「リアナ! よくやった!」
「当然! 私は天才魔法師なんだからね!」
「後は下がっていなさい。ここからは私たちが――!」
ロイドの褒め言葉にリアナが強気に声を上げ、リリーが剣を握り直し突撃を掛けようとした時である。
村の方から一人の少年が戦場へ近づいてくる姿を見つけてしまった。
「ブ、ブレイド!」
「何! あいつ、何をしに来たんだ!」
「父さん! 母さん!」
ブレイドが普通とは明らかに違う速度で戦場に駆けつけたことに気づいていない討伐隊。
「さっさと戻れ、死ぬぞ!」
「俺も戦える!」
「お願い下がってブレイド!」
ロイドとリリーから怒号が飛ぶが、ブレイドは怯まない。
「みんな、下がって!」
そこにまたもやリアナの声が聞こえてきた。
リアナが準備していたのは上級の更に上――極大魔法である
エボルカリウスの頭上にリアナが発動させた魔法陣が形成されて幾何学模様が移動を繰り返している。
「ダメだ――返される!」
「えっ?」
ブレイドの忠告は間に合わず、炎獄の檻が発動されてしまった。
先ほどまでは誰にも気づかれることなく笑みを浮かべていたエボルカリウスだったが、今回は明らかな笑みを深く刻み顕現した炎獄の檻を見つめている。
ゾッとするほどの笑みに、リアナだけではなくロイドやリリー、その場にいた誰もが恐怖のあまりに動けなくなってしまった。
「……
どこからか発せられたエボルカリウスの声に反応した炎獄の檻はエボルカリウスの頭上から消失――直後にリアナの頭上へ顕現した。
「ま、まさか、反転魔法だと!」
「「リアナ!」」
驚愕するソリアナにロイドとリリーが悲壮の声を上げる。
「くっ!」
リアナはせめてみんなは助かるようにと自分を中心に突風を発生させて全員を吹き飛ばしてしまう。
直後に炎獄の檻が落下してきてリアナだけを捕らえた――はずだった。
「よっと!」
「ちょ! お、お兄ちゃん! 何をしているのよ!」
リアナが檻に閉じ込められる直前、ブレイドは速度上昇スキルで駆け寄り、檻の中には二人が閉じ込められてしまった。
一度に二人の子供を失うかもしれない。そう思ったロイドとリリーは戦闘中にもかかわらず二人へ視線を向けていた。
そんな中、ブレイドは一つの魔法を発動した。
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