VSエボルカリウス-2
「――
檻の中に顕現した炎が迫る中、普段と変わらない声音でそう呟いたブレイド。
リアナは死を覚悟して目を閉じていたのだが、先ほどまで感じていた熱波が無くなり、わずかながら涼し気な風が頬を撫でていくのを感じてゆっくりと目を開けていく。
そこで見た光景は、透き通るような空の青さを背景にした兄であるブレイドの笑顔だった。
「リアナ、大丈夫か?」
「……お兄ちゃん、なんで?」
リアナの呟きは当然のものだった。
ブレイドが生まれてきてから今日まで、リアナは兄を守り続けてきた。
出来損ないと言われてきた兄だったが、リアナからすると大好きな兄である。
だからこそ妹が兄を守るという構図も受け入れることができたし、これが当然だと思っていた。
だが、心のどこかでは兄に守られる妹になってみたいという乙女心も秘めていた。
「後は任せろ」
「……う、うん」
そんな叶うことなど一生ないと思っていた願いが、突然やってきたことにリアナは頬を紅潮させながらもしっかりと頷いてみせた。
驚いていたのはリアナだけではない。当然ながらロイドやリリー、その場にいた全員が何が起きたのだと唖然としている。
ブレイドは周囲を見渡し、最後にロイドとリリーに視線を向けた。
「……ブレイド、なのか?」
「……まさか、本当に?」
「父さん、母さん――見ていてくれ!」
ブレイドは視線をエボルカリウスへと向ける。
エボルカリウスは一連のやり取りをただ黙って眺めていた。
それはまるで強敵との戦いを心待ちにしているかのようにブレイドには見えていた。
「……今回はソロで倒させてもらうぞ」
「……今回は? 初めて見る顔だがな」
「ま、魔族が、言葉を話しただと?」
ロイドは驚愕に表情を染めているがブレイドは当然のように話を進めていく。
「そうか……この世界では初めてなんだよな」
「この世界……ククク……そうか、お前がそうなのか!」
ブレイドの言葉にエボルカリウスは笑いながら歓喜の声を上げた。
「貴様を殺して屍を持ち帰れば、我が魔王になれる!」
「そうなのか? それは初耳だな。だがまあ、お前を倒すために色々とスキルを習得してきたんだ、簡単には殺されてやらないからな!」
ブレイドはそう口にした途端に速度上昇を発動して突進していく。
だが、エボルカリウスの人族斥力大が発動しているのでブレイドといえど簡単には近寄れない。
しかし、MSOで経験済みのブレイドは対応策をすでに準備していた。
「
ブレイドはエボルカリウスをソロ討伐するためにいくつかのスキルを習得していた。その一つがスキル無効化である。
これは自身も含めて範囲内にいるプレイヤーや魔族のスキルを全て無効化する効果を持っている。
ブレイドでいえば速度上昇だけが無効になるのだが、エボルカリウスは人族斥力大だけではなく魔法攻撃無力化や物理ダメージ軽減大などのあらゆるスキルが無効化されていく。
「なんだ、このスキルは!」
「驚いている暇があるのか?」
「貴様、いつの間に!」
エボルカリウスが驚愕しているのも無理はない。
スキル無効化によって自身のスキルが全て無くなったにもかかわらず、ブレイドは速度上昇を発動した時と同じ速度で間合いに侵入してきていたのだ。
「スキル効果は消えたけど、すでに加速に乗った体はそのままだからな!」
そのままの勢いでブレイドは七星宝剣を振り向くと、刃はエボルカリウスの左足を斬り裂いて緑色の体液を撒き散らしていく。
「グアアアアァァッ!」
「まだまだ!」
物理ダメージ軽減大が無効化されていること、さらに七星宝剣の斬れ味が真価を発揮してエボルカリウスにダメージを与えていく。
「その剣、
「この世界ではそういうのか?」
「ほざけっ!」
MSOの世界とまるっきり同じではないのだと知ったブレイドは、エボルカリウスからなるべく多くの情報を聞き出すために口を動かし続けた。
「お前たちはなんのためにこの村を襲っている!」
「人族を襲うのは魔族の本能! それも分からんのか――人族の英雄は!」
「英雄? 俺が?」
古来より伝わる伝承でもあるのか、そんなことを考えつつエボルカリウスの動きを注視していく。
「魔力消失」
「ちいっ!」
ブレイドを突き放そうと後方に控えているロイドたちを狙おうとしたエボルカリウスだったが、ブレイドの魔力消失によって打ち消されてしまう。
「さすがは魔族、卑怯な手を使うんだな」
「黙れ! ならば貴様から片付けるまでよ!」
その時、スキル無効化の持続時間を迎えたことでエボルカリウスのスキルが自動的に効果を発揮した。
「吹き飛べ――異界の英雄!」
エボルカリウスの口から、ブレイドも予想外の言葉が飛び出した。
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