第8話 迷い
「そういえばお前の父親はなんで死んだんだ?」
「それが、分からないの」
「分からない?」
「うん。病気で死んだのか、事故で死んだのか、また誰かに殺されたのか、何も分からないんだ。なんせ死体が無かったから」
「死体が見つからない?」
「うん。でもこれはお父さんが花弁を飲んだからなの」
「花弁って食えるのか?」と竜真は不思議そうに光に聞く。
「違うよ。花弁って言うのは、少し前に流行った薬で、飲むと死ぬ時に体が光って散りながら消えていくんだ」
「なんだその薬。そんなの買う奴いるのか?」
「当時は買う人はチラホラ居た気がする。家族に自分の死体を見せたく無いって人が飲むんだ。神になる様に本当に神々しく、体は空へ消えていってしまう。まぁさすがに今は禁止されていて、そんな薬は消えてしまったけどね」
「そりゃそうだよな。で親父さんはその薬を飲んでたって事」
「うん。ある時いきなり姿を消したから。お父さんはブランドタワーの試合で勝ちまくって1位だったって聞いた」
「そうかよ。道理でお前も強い訳だ。人は死んでも、その思い。遺伝子だけはお前の体の中で生きてるからな」「うん」
二人はそんな会話をし、歩いて行く。曲がり角を曲がった瞬間。何人もの人がそこに居た。竜真達は急いで物陰に隠れる。そしてそこに風舞希も隠れていた。
「お前こんな所に居たんか」
「シー。どうやらここはまだ使っているみたいだね。あんなにたくさん人が居る」
その場所は一本の通路の両サイドがガラス張りになっており、部屋から通路を、通路から部屋を見れる状態だ。竜真達は通路の物陰に隠れている。
「何ここ。この人達は何者なの?」
「さぁな。皇帝が何を隠しているか見に行こうぜ」
「でもどうやって進む?こんなに白装束の人達が居たら、とてもバレずにここを通るのは無理じゃない?」
「確かに、それならこうしよう」
研究員の3人が、部屋から通路に出て、竜真達の方角に歩いて来る。
「まったく。当分空見てないよ」
「そうだな。俺も頭がおかしくなりそうだぜ」
その二人が竜真達の居る所を通りかかった時に、その3人を物陰に連れ込み、気絶させた。そして服を盗み、研究員に成り済まして、ここを通ろうとしていた。
「よし。ここからはバレずに行くぞ。少なくとも研究員ポイ事を話すぞ」「ラジャー」
竜真達は物陰から出て、通路を歩く。研究員の一員として、自然な会話を心構える3人。
「そういえば、昨日のディナー何食べましたか?」
「家はポークステーキざますよ。しかもおフランス製の」
なんで似非セレブの物真似してるんだこの二人は。それにおフランスって何?フランスって言いなよムカつく。
「それはそうと、最近光さんはどうですか?あんまりお金を使わないと聞きましたけど」と竜真が光に振る。
「え、えっと~。ど、どうかな~。あんまりお金は使わないかな~」演技下手かよ。
「やっぱりそうでしたか。ダメですよ?お金はしっかり使って自分を良く見せなければ。今みたいに色気のないパンツなんて履いてたらダメ。それに露出も少ないなんて勿体ない。若い内は常に下着姿。これ常識ですからね。聞いてますか?」その台詞に、下を向きキレる光。
「竜真さーん。あんまり調子乗ってると……背中を色気のあるレッドカラーにしますよ?」
「じょ、冗談ですよ。オホホホホ」
そんな会話をして、歩いている内にゲートにたどり着いた。3人は小声で会話をする。
「どうすんだこれ。完全に行き詰まったじゃねーか」
「パスワードなんて分からないしどうする?」
「一旦引き返すのはどう?」
「そうだな」
一行は戻ろうと180度ターンする。それとすれ違いに本物の職員がゲートの方へ行く。
「おい風舞希。パスワード見て来い」「了解」
竜真と光はその場で怪しませないように待機し、風舞希がゲートの前でパスワードを打つ男の後ろにバレない様に近付いた。
「どれどれ」風舞希はパスワードを覗く。
801か。
その男は風舞希に見られているとは知らず、ゲートを開け、中に入って行った。
「風舞希。パスワードは分かったか?」
「分かったよ。801だと思う」
「よし、それを打ち込んでさっさと中に入ろうぜ」
「まったくどこまで行くつもりなの?」
「行き止まるまで」
「は~。しょうがないわね。今更引けないし、とことん付き合ってあげるわよ」
「光ちゃんも悪になったね~」
「うるさい」
「よし。じゃー開けるよ。二人とも下がって」
風舞希は何故か二人を扉から離し、刀を抜いた。
「おい。風舞希。何やってんの?」
「ちょっと。ちょっと。ちょっと」
「行くよ~」スパーン。
風舞希は扉をぶった斬ったのだった。研究施設にサイレンが鳴り響く。
「あれ?なんでサイレン鳴ってるの?」
「お前は今の事もう忘れたんかーい。何でわざわざ壊すんだよ。何のためにパスワードを盗み見したと思ってんだ」
「だって801だから破壊って……。あー!そのまま打ち込めば良かったの?」
「何で語呂合わせー。お前やっぱり脳ミソ無いだろ。この状況、どう見ても扉をぶっ壊すのヤバイって分かるだろ」
「失礼な私にだって脳ミソくらいあるよ!」
頭と頭をぶつけ、喧嘩する二人。
「ちょっと二人とも喧嘩してる場合じゃないよ。この警報。このままだと私達、全員逮捕させる」
「そ、そうだったな。とりあえず先に進むしか無いだろ」
「まったく誰のせいでこんな目に」
「地面に埋めるぞコノヤロー」
3人は破壊した扉の方へ走って行った。すると突き当たりにまた扉がある。
「またゲートか。よし風舞希」「了解」
風舞希はまた扉を破壊する。先に進むとまた新たなゲートがある。3人は走る事をやめない。
「なんだよまたかよ。風舞希。頼んだ」「はいよ」
またまた破壊する。そして先に進むと再び扉。
「言わなくても分かるよな?」「うん」
再び扉を破壊した風舞希。そして3人は三つ目の扉を破壊して入った場所で止まった。
「どこだろう?」
「おい。風舞希。お前いくつ扉を破壊した?この施設をどれだけ壊せば気が済むんだ。これ以上借金が増える事は死を意味するぞ」
竜真が風舞希の頭をグリグリしながら言う。
「ちょっと二人とも。これ見て」「あ?」
そこにあったのは超巨大な丸くて青い結晶石だった。結晶石は様々な機械に繋がれ、宙に浮きながら、青々しく光を放っている。
「なんじゃこれりゃー」
「うわ~。大きいね」
「大きいね。じゃねーよ。こりゃ飛行石だろ絶対。って事は」
「ここはラピュタ」
竜真と風舞希が息が揃った声で行った。
「ね~おバカさん達。このままだと貴方達の体をバルスするよ?」
「大丈夫だ。今回はコンタクトにしたからな」
「そうそう。私も踏んでも割れないハズキ」
「ちょっとそこまで。もうこんな事してる場合じゃないのに」光は頭を抱える。
「今問題なのはこれが何なのかって事」
「は?飛行石だろ」
「もうその話は終わりだってんだろ。ゴホン。ともかくこれが何なのかを調べないと」
「それは必要ないですね」
その言葉に全員が聞こえた方を見る。その聞き覚えのある声の持ち主はあの皇帝だった。
「私が教えてあげよう」
「皇帝さん」
「だから皇帝さんは止めてくれ。さんは付けなくて良いから」
「どうゆう事ですか皇帝。この施設は一体何ですか?それなこの飛行。ゴホン。この結晶石も何に使うんですか?」
光の質問に皇帝は潔く全てを話し出した。
「どこから話そうか。最初、私は宇宙の研究をこの施設でしていた。宇宙とは何か、宇宙の端はどこか?そんな事を調べている内にある事を知ってしまう。それは数年後、この国に隕石が落下する事だ」
「隕石の落下?」
「そうだ。隕石な落下。その威力はこの世界を完全に消し、全ての生き物は絶滅する。私は考えた。隕石を防ぐ方法を。しかし隕石を防ぐ方法など、分かってはいたが無だ。だから決めたんだ。隕石で死ぬなら、少し死ぬ時が早くてもいいから楽に美しく死のうと。それで思い付いたのが全人類安楽死計画だ」
「安楽死計画?何それ。全然言って意味が分からないんだど」
光は皇帝の話を理解できなかった。
それはそうだ。この世界の人は隕石で死ぬ事は決まってて、国のトップは全人類を安楽死させようとしているのだから。
「この結晶石が安楽死計画発動のための道具だ。この結晶石に溜めた電磁波を一斉放射し、人の脳を破壊して死に至らしめる」
「おいおいおいおい!」
黙って聞いていた竜真が強く静かに言う。
「お前……さっきから何言ってんだ?」
「おや、君には理解できなかったかな?」
「理解も何も、テメーは何も分かってねー。その装置を止めろ」
「止める訳が無いだろう。今日までとれほど苦労したか。この機械でちゃんと全員殺せるように、冒険者を実験台にしたり」
その言葉を聞いた竜真が無言で皇帝に斬り掛かる。皇帝は慌てて刀を抜き、竜真の攻撃を防ぐ。
「いきなり攻撃を仕掛けるとは礼儀がなってないな~」
「どっちが。テメーの勝手な都合で人を殺しやがって」
竜真の怒りの剣が踊る。その二人の勝負に風舞希も光もその場で見るしかなった。いや、この世界の住人の光は戦いなんて目もくれずにパニックになっていた。光の顔からは感情が消えていた。
「どうせこの世界の人間は死ぬんだ。なら少し位死ぬのが早くなっても楽に死ねる方を、人間らしく死ねる方を選ぶ」
「ならテメーだけ勝手に死にやがれ。他人を巻き込むな。新撰組を襲ったのもお前らなんだろ?」
竜真の力一杯の刀が皇帝の頬を掠めた。
「ほ~。この前より強くなってる。確かに新撰組を襲ったのは私だ。だが冒険者に直接手を出したのは私ではない」
「なら一体誰が殺ったって言うんだ」
「君の良く知っている人間だよ。今井礼侍」
「今井だと…。何故お前が今井を知っている?」
「それは知る必要はない。知りたかったら私を倒して見せろ。竜の器と呼ばれる男よ」
竜真は皇帝から感じる雰囲気が変わったのを感じっ取った。
「お前一体俺の何を知ってやがるんだ」
「私は君の全てを知っている」
皇帝は竜真に斬り掛かる。竜真はそれを避け、カウンターを決めようとしたが、何故かもう既に皇帝の剣が竜真に襲い掛かろうとしていた。竜真は確かに避けたハズなのに。
「お前。今何をした」
「言ったハズだ。私は君の全てを知っていると」
竜真は皇帝に刀を上から振ろうとした瞬間。皇帝は既に刀が当たらない場所に居て、竜真に斬り掛かって来る。
「なっ!」竜真は肩を斬られる。
「クソ。はーー!」
竜真は再び斬り掛かるが全てを避けられる。しかも皇帝の攻撃を竜真は避ける事が出来ていない。竜真の体に傷が刻まれていく。
さっきから変だ。竜ちゃんがどんなに相手の意表を突いて攻撃を仕掛けても、全部読まれてる。何で?竜ちゃんの動きに癖がある?いやそんな感じじゃない。竜ちゃんが皇帝の攻撃を防げていない所を見ると、皇帝は全て反対に動いている。
風舞希はそんな事を思いながら見ていた。
「どうした?その程度か竜の器と言うのは」
クソ。どうなってやがる。俺の攻撃や防御姿勢が全て読まれている。
「お前。なんか超能力でもあんのか?」
「いや、そんな物はない。ただ私は昔、父に剣士同士の試合を見させられていた。1日も欠かさず毎日見ていた。そんな生活を送っていると、見たくなくとも見えて来る。人の動きと言うのが」
「やっぱりか」「ん?」
「お前が風舞希の試合を見る目を見て、おかしく思ったぜ。なんせお前の目の通りに試合が進んでいたからな」
「なるほど。気付いてた訳か」
「確信は無かったがな」
「竜ちゃん。私も手伝うよ」
風舞希がそう言い刀を抜き、戦闘体制に入る。
「おやおや二対一か?」
「いくら先が見えても、二人なら対応が出来ないハズでしょ?」
「それはどうかな?」
竜真達は二人で同時に斬り掛かる。
普通に考えれば、いくら次の動きが分かった所で、二人の攻撃に逃げ道は無い。だか皇帝は二人の攻撃をスルリスルリ避ける。それどころか攻撃をし、二人は苦しみ。皇帝の拳が風舞希の腹を捕らえる。風舞希は腹を突き抜けられた様な痛みに襲われながら飛ばされた。
痛い。今、私が攻撃をしたタイミングに合わせて、お腹にパンチをされた。あのタイミングでやられるとここまで痛いんだ。
風舞希はすぐ立ち上がり、竜真と共に戦う。しかし光はその場で動く事が出来なかった。
「私も、戦わないと。このままじゃ二人とも…」
でも何で?足が動かない。
光は目の前で、ここで動くべきなのか?動かないべきなの?分からずその場で立ち止まっていた。ここで皇帝を倒したとしても、隕石で死ぬ。皇帝を生かしたとしても、隕石が落ちる前に電磁波で死ぬ。光はどちらを選んでいいか迷っていた。
「クソ。こいつ化け物かよ」
「二人掛かりでも歯が立たないなんて」
「フハハハハハハ。実は弱いな人間は。さて止めだ」
倒れている二人に止めを刺そうと近付く皇帝。プシューー。
「なんだこれは」
煙が辺りを包む。光が煙幕弾を射ったのだ。その隙に光は二人を救出し、研究施設から抜け出した。
「おやおや。逃げ足の速い奴だ。まぁいい。どっちにしろ私の計画は今日実行されるのだから」
こうして光は負傷した二人を連れて、逃げてきたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます