第7話 己を倒すのも救うのも己しか…

合図と同時に斬り掛かるのかと思ったらお互い剣は抜かずに沈黙している。その空気の重さに誰も声を出さなかった。

風舞希、君はそれなりにやるらしい。普通の人間じゃない雰囲気が出ている。それに風舞希の剣、あれはなんだ?見た事ない長さだ。あれでどうやって攻撃をしてくるのか探る必要があるな。

先に動いたのはレン。レンは床を蹴飛ばし、一気に距離を詰め斬り掛かる。がそれをほとんどの動かずに避ける風舞希。レンは風舞希に避けられ、そのまま後ろに流れた。

「俺の攻撃が避けられたのか今。確実に当たったと思ったんだかな」

竜真はその様子を見てニヤリと笑う。

「あいつ少し前より上手くなってやがる」

「上手く?」

「戦いにおいて一番大切は物はなんだと思う?」

「えっと~。剣の速さですか?」

「光は?」

「体の速さ?」

僕らの答えを聞いた竜真さんはやれやれって顔をした。

「お前らはホント何も分かってねーな。確かに剣と体の速さは必要だ。けどそれ以上に重要なのが」

「なのが?」

「間合いの使い方だ」

「間合いの使い方?すみませんイマイチピント来ないんですけど」

その間も風舞希はレンの攻撃を避け続ける。

「しょうがねーな~。そもそも間合いって言うのは基本的には一方足を前に出して剣が届く範囲が間合いって呼ばれている。その間合いを極めるこそが強くなるコツって思う」

竜真さんは続ける。

「例え相手が自分より長い剣を使ってようと。例え銃器を使っていようと。剣や弾丸が自分の間合いに絶対に入ってくる」

「それはそうだけど」

「そう。間合いと言う小さい囲いの中をいかに無駄なく最短距離で動くか、それがスピードに関わってくる」

「だからスピードは大事じゃん」光が言う。

「確かに。だが少し違う。俺が言っているのは間合いの中のスピードだ。お前が言ってるのは間合いの位置を動かすスピードだろ?」

なんか今回は竜真さんの意見に納得してしまう。

「間合いの位置を動かす速さも必要だがそれだけじゃ駄目だ。間合いの中でも速くなければ。それと間合いの位置を決める事も重要だ。だから強え~奴って言うのは相手の間合いから外れ、相手に気付かせずに自分の間合いに相手を入れられる奴。それが出来れば」

ずっと避け続けていた風舞希が動き出す。

「チッ、なんで当たらねーんだよ。!?」

レンが剣を振り下ろそうとした瞬間、風舞希の剣がレンの脇腹辺りを掠める。もちろん風舞希はわざと掠めた。

「なっ!」脇腹の部分の服が切れている。カバーを着けているのに!?

クソ。

直ぐに攻撃をするレンだが全て避けられる。

何故当たらない?スピード負けしてるのか?何がなんだか分からない。でも何となく分かるのは、風舞希の手の平で泳がされている感じだ。俺が負けるなんで。俺が。負けるなんて。

風舞希に弾かれたレンの剣が宙を舞って飛んで行く。その瞬間、勝負が付いた。膝を着き、悔しさに襲われるレン。

「俺が負けたのか。負けた事なんか無かったたのに、こんなよそ者なんかに」

レンは会場を出ていってしまった。そんな事には目もくれず喜ぶ風舞希。

「やったー!やったやったやった!」

「スゲーなあんた」

「レンに勝ちやがったよ」

会場が歓喜に包まれる。今まで負けなしだったレンが初めて負けた瞬間だった。

「まったくあいつは容赦ねーな」

「貴方達って何者なの?レンをあんなにあっさり倒すなんて」

竜真は涼しげな顔をして答える。

「ただの宇宙飛行士さ」

「嘘つくな」

「そう。宇宙飛行士か」

「光も何で信じてんだよ」

「次は私」

光が立ち上がり、フィールドに行き準備を始める。

「お疲れ風舞希」

「うん。中々楽しかったよ。次は二人もやれば?」

「俺は良いよ」

「ならなんでやりたそうに貧乏揺すりしてるんですか?」

「別に、やりたいなんて思ってないし。圧倒的な力見せて皆にチヤホヤされたいなんて思ってないし」

「ぼ、僕もやりたいなんて思ってないですよ」

貧乏揺すりをしながら言うアツキ。

「二人ともやりたいんじゃん」

光と相手の準備が終わり、もう少しでスタートと言うところで皇帝が手を挙げた。

「ちょっといいかな?」

「どうされました?」

「選手の変更をいいかな?光さんの相手を君に頼みたい」

皇帝はアツキを指差す。

「え?僕ですか?」

「どうかな?私はぜひ君の剣を見てみたい」

「構いませんが」「でも頼むよ」「はい」

アツキは刀にガードを着けてもらい準備万端だ。

「アツキ。手加減はなしで全力でやろ?」

「そうだね。僕も全力で行くよ」

「うん」

二人は剣を抜き構える。

「では始めます。開始」

開始の合図と同時に二人は前へ飛び、剣が交わる。キシキシ音が鳴り響く。

「力は中々ある…ね」

「そっちこそ」

二人の剣が数十回ぶつかり合う。レンと風舞希の時とは違い、お互いのスタイルは分かりやすく言えば喧嘩だ。しかしそれは光にとってウォーミングアップみたいな物で本当のスタイルとは違う物だ。

「思った以上に光は強い。さすがレンの次に強い人だ。けど、僕が負ける相手じゃない」

アツキは光のスピード、パワーを見切っていた。しかし竜真はそれこそが危険だと思っていた。

「今回はアツキが分が悪いな」

「え?そうかな?アッキーの方が強いと思うけど」

「確かにスピードもパワーもアツキの方が上回っているが、それだけで勝敗に繋がる程甘くはないさ。見ててなんか思わねーか?」

「ん~。アッキーの顔が悪いとか?」

「いつ誰がそんな話したか?一歩引いて客観的に見てみろ」

風舞希は竜真に言われた通り、二人の戦いを深く考えずに客観的に見る。

「あっ」

「分かったみたいだな」

「アッキーの方が強いのに、クリーンヒットが一切無い」

「それだけじゃねーぜ。光の攻撃を避けるのが精一杯って顔だ。本当は楽に避けれるハズなのにな」

竜真の言う通りアツキは不思議な感覚に捕らえられていた。

なんだこの感じ。体が重くて動きにくい。重力をこんなに感じたのなんて始めてだ。

アツキは強い。普通に戦ったら私なんかじゃ勝てない。だから来てもらうよ?海底の底に。

アツキの剣はいよいよ光に一切当たらなくなってしまっていた。それに呼吸が荒く、体力の方も無くなりつつあった。

「ハァハァハァハァハァハァ」

「竜ちゃん。そろそろトリックを教えてよ?光ちゃんは何をしてるの?」

「答えはな分かりやすく言えばフェイントだ」

「フェイント?アツキはそんなものに引っ掛かっているの?」

「そんなもの、何かじゃねーよ。ほぼ完成したフェイントだ。今のアツキと光は完璧にシンクロしちまっている。おかげでアツキは光の人形になってやがる。よく戦っている内に強くなる事があるだろ?あれって言うのは互いが互いのリズムに合わせていくからなんだ」

「相手のリズムに合わせて強くなる。だけどその逆もある、って事だよね」

「あぁ。光は意図的にタイミングをずらし、アツキの体を操っている」

「自分のタイミングで体を動かせなければ、呼吸のタイミングもずれて、無駄に体力を消費する」

「それがトリックの答えだな。完全に光のペースだぜ」

何で当たらないんだ?光に当たると思った瞬間、急に体が重くなって速度が落ちて避けられてしまう。どうなってんだ。

「教えてあげないの?」

「当たりめーだろ?今は二人の勝負なんだ。外野が茶々を入れるもんじゃねーぜ」

「そっかー!なら私も黙って見てよ」

ここままじゃまずいな。何かを変えないと負ける。何かを。

光は思う。作戦通り、隙を見せたら止めを差して終わりにする。よし、ここだ!

アツキの剣を避けた光が止めを指しに行く。

これで終わり。この状況なら行ける!悪く思わないでよアツキ。これも勝負。この一太刀で私は勝ち、君は負ける。

「ハァーーーー」!?。

アツキは斬り掛かってきた光を斬り返して光を遠ざけたのだった。光は間一髪避けたが驚きは隠せなかった。

何が起きたの?今の状況じゃ連続で剣は振れないハズ。なのに一回目を避けた私が斬り掛かった瞬間、再びその剣を振った。体が重くて振れないハズなのに。

何とか出来たいみたいだ。

体が重くなった瞬間、力を入れて無理やり動く、まさか出来るとは思わなかったよ。

今のはきっとたまたま。次はない。

再びアツキ斬り掛かる。それを避ける、が光が連撃を繰り出す。

チッ、また体が重くなった。でも。

アツキは足に力を入れ、思いっきり飛ぶ。その結果、光の攻撃を避けていく。

「アツキは今無理やり体を動かしている。言い方を変えれば、光に乗せられるリズムを無理やり変えてる。それが出来ればいずれ」

アツキは気付く。体が重くなくなった。なんだ。体ってこんなにも軽かったんだ。

そこからアツキの反撃タイムのスタートだ。

アツキ剣筋を光は防ぐのが精一杯、誰の目にもアツキの勝利が見えた。

「終了~」

その声を聞いた二人が止まる。

「時間終了につき、引き分けとします」

おぉ~と会場にどよめきが起こる。

「いい勝負だったわ。ありがとう」

「時間制限あったんだね」

二人は握手をし、本日のバトルは終了となった。帰り道で今日の事を話して盛り上がる4人。

「危うくやられる所だったよ」

「それは私の台詞なんだけど、あのまま続いていたら間違いなく私がやられてたよ」

「二人とも試合時間長かったもんね。戦いはパパット終わらせないと」

「お前のは早すぎなんだよ」

「そういえばレンは大丈夫かな?風舞希に負けて、えらくへこんでたけど」

「大丈夫だろ。遊びでたった一回負けくらい何だって言うんだよ」

「それじゃ私はこっちだから。じゃーね」

「おう」「うん」「バイバイ光ちゃん」

光は笑顔を見せ、僕達とは違う道に行った。僕達は宿に戻り、マリアさんが作ってくれた夜ご飯を食べ、寝るのだった。

その夜。

3人の男がアツキ達の寝ている部屋に忍び込んでくる。そして何も言わずに、刀をそれぞれの体に突き刺した。しかし血が出てこない事不思議に思った者達は毛布を退かす。するとそこにはただの木があっただけだった。

「な、なんだこれは?」

動揺する3人。隠れていた竜真、アツキ、風舞希がその3人を斬る。

「グハッ」竜真達に不意討ちされた輩が倒れていく。

「俺らが尾行に気付かないとでも思ってんのか?ブランドタワー出た所から着いてきやがって」

「でも殺しちゃって良かったの?この人たちから何か聞けたんじゃ?」

「そうですよ。それに光の方にも暗殺者が行ったんじゃ?」

「それ大丈夫だ。奴等が恐らく冒険者殺し……」

「どうしたんですか?」

竜真はいきなり黙り考え込む。

待てよ。奴等は俺らを刀を使って殺そうとした。確か話によると冒険者を襲っていた奴等は刀や武器は使っていないはず。その後調査に行った新撰組連中は刀で斬られている。

そう考えれば今回、俺らを襲ったのは新撰組を襲った連中で、最初に冒険者達を殺した奴等とは違うのか?

「竜ちゃん?」

「考えてもしょうがねー。外に居る奴等に聞くか」

竜真は部屋の扉を開け、アツキ達を連れ外に出た。

するとそこには7人。口元しか見えない刀を持った男達が居た。

「へ~。テメーらが新撰組を襲った連中か」

竜真は奴等の柄に書いてある太陽の様な模様をそう思った。

「お前ら、何が目的だ?」

竜真が聞くとリーダー的な人間が「君達に言う必要も知る必要もない。何故なら君達はこれから死ぬのだから」と笑みを見せながら言った。

その言葉と同時に竜真達に襲い掛かって来た。リーダーは後ろを向き

「しっかり止めを刺しておけよ?」と言い、帰ろうとする。

「おいおいもう帰るのか?」

「ん?」その男は振り返る。

すると兵士達が全員すでに斬られ死んでいた。

「私は君達を見くびっていた。君達は私が思う以上にやる様だ」

「そりゃどうも。で何が目的なんだ?」

「目的。いやもうそれは必要無くなった。君達にはもう手を出さないし関わらない。では」

その男はそんな事を言うと歩いて帰ろうとした。それを竜真が止める。

「待てよ。俺らを襲って起きながらそんな勝ち逃げみたいな事が出来るとでも思ってるのか?話すか死ぬか、選べ 」

「そうだそうだ」風舞希が発破を掛ける。

「選ぶ?むしろ選ぶのは君達だ。ここで引いて生きるか?私に斬られるか?それとも…」

「おいおい偉く自信があるじゃねーか?なら殺ってやるよ」

竜真が刀を鞘から解き放とうとしたその時。キン!!と凄まじい音が夜の街に響く。

「竜真さん!」「竜ちゃん!」

その男は竜真が刀を抜こうとした瞬間、一気に間合いを詰め、竜真の柄に突きをした。竜真は鞘から刀を抜けずにいた。

「おやおや、大口叩いた割にはその程度ですか」

「クッ」

「私相手に君じゃ剣すら抜けない。君には誰も助けられない」

そう言い残し、その男はその場から消えてしまった。恐らく転移リングを使ったと思われた。

「竜真さん」

「アツキ。あいつ何の話してたか分かったか?」

「いえ、全然」

「だよな。あいつら一体何が目的なんだよ」

「分かりません。でも一つ分かったのはあいつが新撰組を襲った連中で間違いありません」

「風舞希はどう思う?」

「私はさ、あんまり考えても思い付かないタイプだから、こうゆう時は寝て、明日考えればいいんじゃない?」

「へっ。そうかよ。ならそうするか」

その日はとりあえず下手に動かないで寝る事にした。

朝。

まず僕達がした事は光さんの所に行って昨夜の事を話す事だった。

「昨日そんな事があったんだ」

「うん。何とか僕達は無事だったんだけど。結局何も情報は得られず、反ってややこしくなったよ」

「そういえばあいつ、変な事言ってたよね?君には誰も助けられないって」

「正直何もピンと来ないな~」

僕ら4人で悩んでいるとマリアさんがお茶を持って来た。

「まぁまぁ皆さん無事だったから良かったじゃないですか」

「あっありがとうございます。マリアさんは何かありますか?心当たりみたいな」

「ん~~。私には無いけどあの人ならどうかしら」

「あの人?」

「皇帝ですよ」

「あ~。皇帝なら何か知ってるかもしれない。もし良かったら私が連れて行こうか?」

光が気を利かせてくれる。

「なら頼むさ。この国のトップなら何か知ってるかもしれない知れねーしな」

「そうですよね。じゃーお願いするよ光」

「うん。任せて」

「光ちゃん頼りになる~」

光の案内で再びブランドタワーに向かう僕ら。この先に何があるのかを誰も知らず。

僕らはエレベーターに乗り、光が目的地のボタンを押す。

「たぶん皇帝は皇帝室に居ると思う」

「皇帝室か~。なんか職員室みたいな感じで嫌だな~」

「まったくチキンハートだなお前は。お前に職員室で寛ぐ位の度胸はねーのかよ」

「私なんて、いつも職員室の椅子に座って先生達と話してたよ?」

「それ叱られてるだけじゃん」

「皆しっ」指を口に当て、静かにする様に言ってくる光。

もう皇帝室の近くなのだろうか?エレベーターを降りた僕達は今、長い廊下を歩いていた。

「ここが皇帝室。なんか扉でかくないですか?」

皇帝室の扉は高さ5メートルはあるだろうか?とてつもないサイズの扉だ。光が扉をノックする。

「光です。皇帝に話があり参りました」

「どうぞ」と中から声が聞こえ、扉のロックが外れる音がした。

中に入ると、何もない広い空間が広がっており、部屋の奥の方に少し段差があってそこに机が置いてある。

そして皇帝はそこに居座っていた。

「やぁ光。どうしたのかな?」

「はい。今日はこの人達が皇帝に相談したい事があるそうで案内した次第でございます」

「ほう。でその相談とは?」

僕は皇帝に冒険者殺しや昨日僕達が襲われた事を話した。

「なるほど、そんな事があったとは」

「って事は皇帝さんも知らなかったって事ですか?」

「えぇ。私の耳にはそんな情報は入って来ていなかった。普通ならそんな事件が起こってしまったのなら私が知らないハズなんて無いのだが。もしかしたら既に息の掛かった者が忍び込んで居るのかも知れないな」

皇帝は僕らの話を信じてくれてるし、知恵を貸してくれそうだ。

「それで何か心当たりがないかと思いまして」

「残念ながら、その話を聞いたのも初めてで何も知らないんだ」

「そうですか~」

「だけど協力はさせてもらうよ。兵を派遣しセキュリティを強化してみよう」

「ありがとうございます。ではお願いします」

僕はお辞儀をし、皇帝室を後にしようとした時。

「ちょっと待ちなさい」

「はい?」

「なんだよ。まだ用があるのか?」

「用があったのは私達だけどね」

「アツキ君と言ったか?私は君に興味がある。少し残って話をしないか?」

「僕ですか?良いですけど。じゃー竜真さん達は先に帰ってて良いですよ」

この皇帝に気に入られたのかな?そういえば試合の時も僕を指名したし。

「まっまさかお前達、ひょっとして出来てるんじゃ?」

「ぷぷぷ。アッキーったら女の子にモテないからってそっちに手を出すなんて」

「まったくだよな。きっと俺らが居なくなってからド付き合いが始まるんだぜきっと」

皇帝が困って震えている。

「ちょっとそんな訳無いでしょ。なに言ってんですか?光も黙ってないで何か言ってよ」

光は笑いを堪えながら

「グッドラック」と親指を立てた。

そ、そんな。竜真さん達は誤解したまま出て行ってしまった。僕は気を取り直して聞く。

「あのそれで話って言うのは」

「そうだったね。ぜひ君に見て欲しい物があるんだよ。着いてきて」

僕は言われるがままに皇帝に着いて行く。皇帝は皇帝室の奥にある扉の鍵を開けた。

「さぁ~こちらに」

「あっはい」

僕は皇帝に着いて行き、中に入った。真っ暗な廊下を突き進み、どこへ向かっているんだろう?と思っていると皇帝が立ち止まった。

「それで話って言うのは、私はぜひ君に聞きたい事がある」

「聞きたい事ですか?」

「昔、君の周りで変な事は起きなかったかな?」

「変な事?どうゆう事ですか?」

「具体的に言えば、現実じゃあり得ない様な事が起きて命拾いしたとか」

「んーーー」命拾いか。命が危なくなったのはたくさんあるしな~。カダルを倒しに城に乗り込んだ時や、ガルルと戦った時とか、腐る程ある。

「僕、しょっちゅう危ない橋渡ってるんでイマイチ分からないんですよね~」

「そうですよね。冒険者ならいつ死んでもおかしくない」

「はい。あっ」

そういえば冒険者になる前に一度、僕は死にかけた事があった。僕の両親を辻斬りが襲った時の話だ。両親は斬られたのに何故か僕だけ無事で、辻斬りは死体で発見された話だ。覚えてない人は最初の方を読み返そう。

「その。あんまり覚えてない無いんで分からないですけど、昔僕、辻斬りに襲われて。両親は斬られたんですけど、僕だけ無事だった事が」

「なるほど。それでその事件が起こった日にちは分かる?」

「一応」

「なら話は早い」

皇帝は床を三回蹴った。すると床からキーボードの様な物が出てきた。

皇帝は番号を打った。そしたらキーボードが左右に引っ張られる様にして割れ、真ん中からキッチンタイマーの様な物が出てきた。

「それは何ですか?」

「これは時間を飛ぶ事が出来る機械なんだ」

「時間を飛ぶ?」

「そう。分かりやすく言えば小型のタイムマシーンだ」

「タ、タイムマシーン!?そんな物があるんですか」

「ここを何処だと思っている?時の国。と言ってもタイムマシーンは超極秘物だけどな」

「そんな物、僕に見せて良いんですか?」

「あぁ。是非君に使って欲しいんだ」

「僕に!?」

「ちょっとこっちに来てくれ」

呼ばれたアツキは皇帝に近付く。

「これが年で、これが月と日にち。そしてこのボタンが時間。その事件があった時間を打ち込んでくれ」

そう言われた僕は時間を打ち込む。

「出来ました」

「よし、後はこのボタンを押せばそこに飛べる。場所は思った所に飛べるから安心して下さい」

「え?そうなんですか?てっきり場所は選べないかと」

「いやいや、そもそも過去に飛ぶって事はその人の過去に戻る訳だからその人の記憶が必要なんだ。つまり記憶に一切無い所には飛ぶ事が出来ない」

「そうなんですね。じゃー行ってきます」

「はい。行ってらっしゃい」

僕はボタンを押し、過去に飛んだ。

「こ、ここは」

目を開けると、変な空間を落ちて行っていた。ドラ○○んのタイムマシーン使った時の空間みたいだ。僕はその空間を少し飛び、気が付くと道に立っていた。

「ここは?どこだろう」

僕は辺りを見て、場所を把握しようとする。

「あっ!思い出した。確かここは」

僕は今居る場所を思い出し、ある場所に向かった。

「確かこっちを曲がって、ここを曲がれば。やっぱり」

そこは昔、両親と外食していたお店だ。

「やっぱりここにあった。って事は」

たぶん今中に、両親と僕がいるはず。

アツキは店の窓から中を覗く。

あっ。やっぱり居た。昔の僕ってあんな感じだったんだ。それに両親も。

アツキは忘れかけていた両親の顔を見て、無意識に涙が出ている事に気付く。

「あんな感じの顔…だったかな」アツキは涙を拭った。

「凄く美味しかったわね」

「そうだな~。また三人で来ようか」「わ~い」

アツキは店から出て来た自分の家族を尾行した。

家に近づいてきている。確か、この辺で。

「な、なんだお前」

アツキの家族の前に現れたのは辻斬り。

「悪いがここで死んでもらう」

鞘から刀を抜き、襲い掛かろうとする辻斬り。しかしアツキは黙って隠れていた。何故なら皇帝に歴史を変える事は禁止と言われていたからだ。あくまで、誰が自分を助けたのかを知るためにこの時代に来たのだ。

来ないな~。もう今にも斬り掛かりそうなのに。何やっているんだよ。早く助けに来ないと、皆斬られるって。

「フン。さらばだ」

辻斬りは父親を斬り殺した。

アツキは目の前で父親が斬られた光景を見て。怒り。憎しみ。復讐心に満たされた。

「息子だけは。息子だけは」

母親がアツキを抱え、守ろうとする。待ってその人だけは。

未来アツキは感情を抑えられず、既に飛び出していた。しかし辻斬りに母親をあと一歩の所で斬られてしまう。アツキはその場で止まり、無になる。

「あはははははっ。やっぱこいつの切れ味はすげーなおい。後はこのガキを。ん?誰だお前」

辻斬りが飛び出て来たアツキに気付く。

「お前も死にてーのか?」

「何だよ。結局誰も助けに来ないのかよ」

アツキは刀を鞘から抜き、低く、そして怒りに包まれた声で話す。

「は?お前何言ってんだ?」

「カスは黙れよ」

「あ?どうやら先にお前が死にてーらしいな」

アツキは一歩続つ、怒悲しみながら歩く。辻斬りはアツキに斬り掛かる。そしてアツキの背後に斬り抜ける。

「グハッ」辻斬りの腕は落ち、大量の血が飛び散る。

「あーーーー。痛てー。痛てーよ」

辻斬りは痛みに耐えられず、足を崩し、地に落ちる。アツキは振り返り、止めを刺そうと近づいて行く。

「た、助けてくれ。頼む。金ならいくらでもやるから」

這いつくばりながら、逃げようとする辻斬り。アツキはその男を無言で斬り付けようとする。その瞬間辻斬りが内ポケットに忍ばせていた拳銃でアツキを撃つ。

「死ねーーー」バン。

弾丸はアツキには当たらなかった。アツキは首を動かし、弾丸を避けた。その隙に立ち上がり逃げる辻斬り。

「お前に生きる資格なんて無い」と言い。アツキは辻斬りを斬り付けまくったのだ。

辻斬りは斬ら過ぎて体の原型が壊れる。しかし倒れる事すら出来ずに、絶えず斬り刻まれる。最後は首が飛び、アツキは動きを止める。

それから僕はタイムマシーンで元の時間に帰った。結局、僕を助けた人は現れずに終わった。僕がその時代に行った事で時間が変わってしまったのだろうか?そんな事を思いながら現代に戻って来た。元の時間に戻ると、目の前に皇帝が立っていた。

「どうだったかな?」

僕はタイムマシーンを返し、質問答える。

「結局誰も助けには来ませんでしたよ。僕があの時間に飛んだ事で歴史が変わったかも知れません」

落ち込みながら言うアツキに対して、皇帝はニッコリ笑って

「それは無いですよ。歴史はなに一つ変わっていませんよ?」と言った。

「え?それってどうゆう」

「君は助けには来る人は誰も居なかったって言ったね?」

「はい。結局誰も来なかったです」

「本当に?」

「はい?」

「過去の君を助けた人間は居ると思うよ。私の目の前に」

「ひょっとして僕ですか?」

「その通り。昔、君を助けたヒーローは未来から来た君自信だった訳だ」

そうだったのか。やっと謎が解けた。

「まさか自分が自分を助けたなんて、想像も付きませんでしたよ」

「それはそうかも知れないね。さてもう用は住んだから君はもう帰りなさい」

「はい。ありがとうございました」

僕はブランドタワーから出て、宿に向かった。しかし宿に竜真さん達の姿が無かった。恐らく光の家に行ったんだな。そう思った僕は光の家に向かって、着くと案の定そこに皆揃っていた。しかし何故か竜真さんと風舞希は怪我をしていて、マリアさんが治療をしていた。

「何があったんですか?大丈夫ですか二人とも」

「あ?おうアツキか。大丈夫大丈夫。こんなの怪我の内には入らねーよ」

「そうそう。ただ血が出てるだけ」

「それが怪我何ですけど。何があったんですか?」と僕が聞くと、竜真さん達は光の方を見る。

見た感じ、怪我はしていないが下を向いて黙っている。

それにマリアさんも治療をしてはいるが、顔が暗く、笑顔が消えていた。

「どうしたって言うんですか?光にマリアさん。そんな落ち込んで、何かあったんですか?」

僕が聞くと、竜真が不気味な笑みを浮かべながら語った。

「何があったってレベルじゃねーよこりゃ。俺らはとんでも無い相手と戦ってたらしいぜ。それに大きな勘違いもしている」

「勘違い?一体何の話ですか?サッパリ分からないんですけど」

「実はなアツキ」

竜真さんは何があったかを話し出した。

「お前が皇帝に連れられた後、俺らはこっそりタワーの中を探検しようとしてな」

回想~。「ちょっと探検なんかやめなよ。見つかったらどうなるか」

「確かにそうだよね。やっぱやめた方がいいんじゃない?竜ちゃん」

「何言ってるんだ。それなら見つからなければいいだろ?」

「あっそっか!竜ちゃんは天才だな~」

「それは違うと思うけど。って先に行かないでよ」

先に行ってしまう竜真達を追いかけ、光も探検をする事になった。

「で、光。この辺は来た事あるのか?」

「来た事はあるけど、まず来ない所」

「竜ちゃ~ん。光ちゃ~ん。ここに変な扉があるよ」

「そんな所に扉なんかあったっけ?」

光はこのタワーに良く出入りしているため、ある程度はこの建物の事を理解しているのだが、この扉には見覚えがない光。

「じゃー開けますか」

「ちょっと待って。その扉、関係者以外立ち入り禁止って書いてある」

「あ~本当だ。よし中に入ろう」

「だから何でよ。私の話聞いてた?関係者以外は入れないって言ってるでしょ?」

光はドアノブに手を掛けた竜真の腕を掴んだ。

「なんだよ。別に良いじゃねーか。探検とは、行った所に行くのが探検だ。って事で」

竜真は力尽くでドアノブをひねり、扉を開け中へ入った。

「よし、私も入ろう~」

「光も早く来いよ」

中に入って行った竜真と風舞希が光も呼ぶ。

「あ~もうどうなっても知らないから」

光もやけくそで中に入って行った。扉の中は一つの小さな部屋だけだった。ホコリまみれの机と椅子。書籍がたくさん入った本棚。

「なんか隠し部屋って感じだね」

「そうだな~。皇帝はここでスッキリしてたのかも知れねーな」

「何バカ言ってるの。でもこんな部屋があったなんて知らなかった」

「なんかバジリスクが出てきそうだな」

「それは違う秘密の部屋」

3人は部屋でそれぞれ本を読んだりして部屋の中にある物を色々見ていた。

「なんか面白い物無いかな~」

風舞希は本を次々に開いている。すると本の中に入っていた変な物を見つける。

「何だろこれ?二人ともこれ見て」

風舞希は丸い水晶玉の様な物を見せつける。

「なんだこれ?どんなプレイに使うんだよ」

「何であんたはそんなにバカなの?脳ミソ入ってないんじゃない?その頭ハズレでしょ?」

「誰の頭がかに味噌だ」

「これ。何だろう?どこにあったの?風舞希」

「この隙間」

風舞希は玉が入っていた本を見せる。その本の厚さは辞書みたいに厚くて、開くと真ん中に穴が空いており、そこに玉があったのだ。

「何でこんな所に。しかもまるで隠す様に」

「んー。分かんない。いいや捨てちゃえ」

風舞希は玉を投げ、玉は転がって机の下に行ってしまった。

「ちょっと投げないでよ」

光は机の下に潜り、玉を拾った。

「あったあった。ん?」

光は玉を拾い、机の下から出ようと思った時、机の裏に丸い穴が空いているのを見つける。

「これってもしかして」

光は拾った玉を机の裏の穴にはめる。ゴゴゴゴゴゴーーー。

「何だ何だ?光お前何やったんだ?」

「机の下に穴があったから、玉を入れてみただけなんだけど」

「なんか本棚が動いているんだけど。ここって心霊スポットだっけ?」

「な訳あるかー!」

たくさんある本棚のを内、二つの隣り合わせの本棚が下に沈んで消えて行く。そして二つの本棚が消えた事により、後ろに隠されていた扉が姿を表す。

「隠し扉じゃねーか。お宝の匂いがするぜ」

「でも、罠とかあるから気を付けないと」

「そうだな。待ってろよクリスタルスカル」

「そんな世界観じゃ無いから」

それにしてもこんな部屋があった事も、こんな扉があった事も知らなかった。この先に何があるんだろう。

「この先に進んでみよう」

「お~。光も探検家の仲間入りか」

「光ちゃん。一緒に頑張ろう?」

「うん。まぁそんな所かな」

皆で扉を開け、中へ入る。

「なんだよこれ。まじでお宝ありそうなんだが」

そこは洞窟だった。

「このバイオ感。たまんないよ」

「風舞希。お前はゲームのやりすぎだ。何だよバイオ感って。どんだけバイオやり込んでるんだ。光は知ってたか?こんな場所がある事を」

「こんな空間があるなんて、たぶん誰も知らない」

さんな会話をしながら洞窟内を進んで行く一行。

「ん?また扉か」

洞窟の歩いていると、突き当たりに扉があり行き止まりだった。

「しかもこの扉、パスワード式になってるから開かないよ」

「なんか思い当たるパスワードはないか?光」

「思い付かない。そもそも今居るこの状況に未だに頭が追い付かないんだけど」

「なんだよだらしねーな。よし風舞希頼んだ」

「よいしょっーと」

風舞希は刀で扉を破壊した。

「ちょっと何やってるの?」

その言葉に、何言ってるんだこいつ?と言う顔をする二人。

「なんで私が非常識って顔をされなきゃいけないの」

光のツッコミを食らった二人が、先に進もうとする。

「よし、とりあえず先に進むぞ」

「早く行こうよ光ちゃん」

破壊した扉の先は近未来的な研究所の様な施設だった。

「おいおい。ますます変な所に出たな」

「ブランドタワーにこんな施設があったなんて」

「まったくだぜ。ん?おい風舞希。どうした?早く行くぞ」

風舞希はその場に止まり、目をキラキラさせていた。

「ここって、バイオの施設だ~!」

「お前はいつまでバイオを引きずってるんだよ」

「だってこの場所。必ずゲームの後半に出てくる研究施設だよ。うわ~生で見るとやっぱり違うな~」

「なんでもいいからさ。早く来いって」

「言われなくても行くよ」

「ちょ。待てーい」

風舞希は竜真と光を追い抜き、一人で先に行ってしまった。

「まったくあいつは」

「それにしても、ここはなんの施設なんだろう」

「さぁ~な。でも見た感じ、使っていないって訳じゃなさそうだぜ。さっきから人の気配を感じやがる」

「やっぱりそうだよね。こんな凄い所。使わない方がおかしいよ。でもなぜ皇帝はこんな施設を作ったんだろう?」

二人は風舞希を追うように進んでいった。

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