第6話 悪魔と天使は紙一重
名前で分かる。その女性がどれ程の器か。道理であの悪魔が言う事を聞く訳だ。
「もし良かったら私の家に来ますか?」
「ぜひ!」
「アッキーも人の事言えないよね~」
僕達は掃除をしている竜真さんを呼び、マリアさんに案内され、マリアさんの家に向かった。
「マリアさんって鍛冶屋をやってるんですよね?」
「そうですね。この街じゃ私の店以外には鍛冶屋がないんで」
「それなら相当稼いでるでしょー」
風舞希は相変わらずお金の話が好きだな~。女の人はそうなのだろうか?
「まぁそれなりに」
そりゃそうだ。この人なら鍛冶屋じゃなくても稼げそうだし。
「今は娘と二人で暮らしてるんです」
「ガーーーー」
竜真さんがこの世の終わりみたいな顔をしている。これで現実に帰ってくるだろう。
「え!マリアさん結婚してるんですか?」
「はい。ですが主人は昔に亡くなってしまって」
「あっそうなんですか。すみません思い出させてしまって」
「いえ。確かに当時は辛かったですけど、今は娘も大きくなって、店を手伝ってくれるので結構楽しかったりするんですよ。さてここが私の家です」
マリアさんは扉を開けた。
「ただいま~。お客さん連れてきたわよ~」
「お邪魔しま~す」「お邪魔しま~す」「お邪魔しま~す」と中に入った。
「光(ひかり)~?あれ?帰ってないのかな」
僕達はマリアさんに案内され、部屋に入り座った。
「お茶で良いですか?」
台所からマリアさんの声が聞こえる。
「はい。ありがとうございます」
「俺牛乳」
「私コーラで」
「はーい」
こいつらは遠慮と言う言葉は知らないのか。
「はいどうぞ」
「すみません」
「わーーー。コーラだ。ゴクゴクゴクゴク」
早速コーラをイッキ飲みをする風舞希。ここは居酒屋か何かか?竜真さんも牛乳をイッキ飲みし、口にひげを着けていた。
「そういえばさっき、光~って呼んでたけど娘?」
「はい。私の一人娘です」
「いくつくらいなの?」
「丁度貴女と同じくらいの歳だよ」
「そ、そうなんだ」
なんで照れているだ風舞希、同い年がうれしいのかな?僕達がそんな会話をしながら休んでいると。
「お母さん帰ってきたの?……」
「なぁ!?」
そこには風呂上がりだと思われる女の子が、タオル一枚で出てきた。
「キャーーー変態!!」
意識が戻った時にはその女の子はすでに服を着ていて、不機嫌そうだった。僕と竜真さんは蹴りをもらって気絶していたのだと風舞希から聞かされた。
「で何?お宅いきなり蹴りかましてくれたけど慰謝料とか出るの?」
「は?バカじゃないの?私の体見たんだからむしろ金払えって思う」
「なんだとクソアマ!」
「何よダ侍」
「まぁまぁ竜真さん。気持ちは分かりますが落ち着いてください」
「落ち着いてられるかよ。それに何この子。マリアさん娘?遺伝子何にも感じられないんだけど。本当に娘か?」
「それってどうゆう事?」
竜真さんを睨み付ける光さん。
「竜ちゃんそれは失礼だよ。しっかりとしたマリアの娘……」
風舞希は言葉を詰まらせた。それもそうだ。光さんとマリアさん、まったくと言って良いほど似ていない。
髪の色も違うし、性格もまるで違う。優しく女神様の様な母に対して、厳しくてツンツンしてる感じの娘。似てなさすぎる。
「あっそうだ僕達、まだ自己紹介してなかったですよね。ここは自己紹介でもしましょうよ」
「は?そんな事する訳ねーだろ。めんどくせ」
「今さら自己紹介なんかしなくていいんじゃないかな?私だって風舞希って名前、あってるか分からないし」
「ナニソレ初耳なんだけど。まぁいいや、僕は海藤アツキです。ホラ竜真さんも」
僕は寝転がっている竜真さんにふった。
「だからしないって」
「ぜひ貴方の名前が聞きたいです」とマリアさんが言う。
「良いでしょう。教えて差し上げましょう。俺の名前は坂本竜真。パイロットやってます」
「嘘つくな!」
「私は風舞希。宜しくね」と風舞希が光さんの方を見て言う。すると少し頬を染めて恥ずかしそうに
「うぅ。私は光。宜しく」と自己紹介を終えた。
「なんだただツンツンしてると思ったら可愛い所あるじゃんよ」とチャチャをいれる竜真さん。
「うっさい。死ね!」
「初対面にそれ言うかおい」
「あと一人来ると思うんですが」ピンポン。家のチャイムが鳴った。
「来た来た」マリアさんが玄関の方へ行き、ドアを開ける音がした。
「誰か来てるんですか?」
「あっどうも」
部屋に来たのは、光と同じくらいの年齢の男だった。
「こちら、光の幼なじみのレン君です」
「はじめまして、レンです」
「うぃーいっす」
「どうもです」
「宜しくね~」
腰に刀を差している。この子も侍なのか。
「レン君は時々鍛冶屋を手伝ってくれるんですよ。もし良かったらこれから鍛冶屋の方に行きますか?この家のすぐ近くなんで」
「鍛冶屋って刀作っている所だよね?なら行ってみたい」
「風舞希もこう言っているし、僕らも行きますか?竜真さん」
「そうだな。俺の刀も錆びてきたしな」
「なら行きましょう。光、レン君、3人を案内してあげて」
「了解です」
僕達はレンと光に案内され、鍛冶屋に向かった。
「貴方達。刀持っているみたいだけど、剣士か何かなの?」と相変わらず鋭い口調で聞いてくる光。
「剣士か~。剣士って程俺達は綺麗って感じじゃねーな」
「そうですよね。そんな国を守るって感じじゃないですもんね」
「そうそう。私達は国を守るってより、国滅ぼす方が似合ってるよ」
そんな話をしている内に鍛冶屋に着いてしまった。本当にすぐ近くだ。
「ここがマリアさん鍛冶屋です。好きに中を見てください」
「変な事したら殺す」
「しねーよ絶対。だから刀抜こうとするのやめろって」
この鍛冶屋は外から見ると相当場違いだと思う。ビルがたくさん並ぶ町に瓦屋根で江戸時代的な建物な鍛冶屋があるのだから。この世界の世界観はどうなっているんだ?いつも思うけど。
「わ~ホントに刀がいっぱいあるね!光ちゃんが作ってるの?」
「えっ?いや、そうゆう訳じゃないよ。刀を打つのはお母さんにしか出来ないんだ。私やレンは手伝いって感じで」
「なんだ光ちゃんは作らないのか」
「あっ。でもこの剣だけは私が作ったんだ」
そう言いながら自分の腰に差している刀を触る光。
「お前はなんで鍛冶屋をやってんだ?」
「別に私が何したっていいじゃん」
「まぁそうなんだけどよ。なんで刀作ってるのかなって思ってさ」
「それは…。親の影響って言うのもあるけど、剣が好きなんだ私。まっすぐとした剣。まるで心を表しているみたいで、綺麗って思っちゃうの」
「そうか」
「だから私、貴方達が剣を腰に差しているの、少し嬉しかった」
「そうか!ならお礼に俺が磨き上げた、取って置きの剣を見せてやる」
竜真さんが物凄い速さでズボンとパンツを脱いだ。
「あーーーー!」
ボコン!と竜真さんは光に蹴飛ばされた。
「なんで、蹴るんだ」
「今のは竜真さんが悪いですって」
「なぜだ?俺ただ、俺の自慢の剣を見せてやろうと思っただけで」
「誰も竜ちゃんのキレない剣なんか見たくないよ」
「なんだとコラー!まだ全然ふっただけでキレるわ!」
「あははは。元気がいい人達だな~」
苦笑いをするレン。
「そうだそうだ。光が前に作ったこの剣、実は凄い高値がついてるんですよ」
「お?そうなのか?」
「その泥棒みたいな笑い方やめてください」
光は自分の持っている剣を鞘から出して机の上に置く。その剣はまっすぐ伸びていて、白く輝いている。
「普通剣って言うのは作成時間2週間位で作り終えるんですけど、光が作ったこの剣は1ヶ月半近くかけてゆっくり作ったみたいで、その出来は凄く、その美しさと圧倒的な切れ味で有名になったんですよ」
「確かに他のどの剣よりも光ってるよな」
「おかげで皆売って欲しいって鍛冶屋に人がたくさん来ましたよ」
そんなに凄いんだこの剣。
「その剣触ったら殺すから」
「分かってるって触らない触らない。ほんの少しは持つだけ」と言いながらその剣を持ち上げた竜真さん。その瞬間、光の拳が竜真さんの顔をクリーンヒットしたのだった。
「ホントにこのバカは」
「ごめんね光ちゃん。竜ちゃん。根は真面目なんだけど、頭が弱い子で」
「だからお母さん?」
「そんな事言われなくとも知ってる」
「それでそれでその剣、名前とかないの?」
と気になったので聞いてみた。光は剣が好きみたいだから、剣の話をさせて期限を取らないと。
「名前?かが……」
「今、何て言った?」
光は顔を赤くして、聞こえもしないような小さな声で何かを発した。
「だから輝(かがやき)」
「ブーーーー」
「あははははは」
それを聞いた僕達は大爆笑をしてしまった。
「あはははは。お前輝ってそりゃないだろ」
「しかもそれを照れながら言うところが可愛く面白いですよね」
「光ちゃんだから輝?」
光は顔を真っ赤にして下を見る。
「お前さ、もうちょい格好いい名前あっただろ。剣の名前ってカタカタだろ普通。なんだよ輝って、光輝くってか?」
「あーもううるさいうるさい」と光は鍛冶屋から出て行ってしまった。
「行っちゃった。3人とも笑いすぎですよ」
「あんなの笑うなって言う方が無理があるぜ。あいつ結構面白い事言う人間なんだな」
「私ちょっと光ちゃん追いかけてくる」
風舞希は光を追いかけて、鍛冶屋を出ていった。
「さらに冷やかしに行くんか」
「今の雰囲気どう見ても違うでしょ」
鍛冶屋を出た光は街を歩いていた。
何あいつら、私の大事な剣をバカにして。あ~ムカつく。
「光ちゃーん」
あれは。「どうしたの風舞希?」
「慰めに来たよ~」
「そう?ありがとう」
「ごめんね笑って、傷衝いた?」
「付いてないよ。大丈夫」
「なら良かったよ。あの人達ホントにバカだからさ。人の事すぐ笑い者にするし、クズ発言全開だし相手にするの大変だよ~」
「じゃーなんで一緒に居るの?」
「それはね~」
風舞希はニッコリ笑った。
「だって楽しいんだもん」
「楽しい?」
「そ。楽しい。毎日皆でバカやって、ちょっと悪い事もして、皆で美味しいご飯を食べる。それだけで充分一緒に居る理由になるよ」
「一緒に居る理由…か」
「まぁあいつら普段はあんなんだけど、いざと言う時には頼りになるから、何かあったら言ってね?」
「ありがとう。じゃ~さっそくひとつ頼もうかな?」
「何々?」
ニヤリと笑う光。しかしそのニヤリは可愛いニヤリではなく、止めを刺す人間の表情だった。
「ひ、光ちゃん?」
光は風舞希の耳元で頼みを言った。
その夜。竜真達はマリアさんが用意した小さな宿で寝ることになった。
「本当にマリアさんにはお世話になってばっかですね。泊まる所も手配してくれるなんて」
「まぁそれもマリアの人徳だろうな」
「だよね。マリアが居なかったら私達、どこで寝る事になったんだろうね」
「さぁな。とりあえず今はそんな事より」
「ですね」
「やっぱこれだよね」
「そう!手を合わせて。いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
僕達はマリアさんが作ってくれた料理をこれでもかって位に食べた。
「いや~美味しいですね」
「だよなだよな。アツキ、これも食ってみろよ」
「どれっすか」
「やっぱキンキンに冷えたコーラは格別だね」
「だよね。僕も久々にコーラ飲んだけど。やっぱおいしー」
「はっはっはっは。ガキ共にはコーラがお似合いだぜ。ゴクゴクゴクゴク。かーー!ビールはサイコー」
相変わらず、ナイアガラの滝をする竜真さん。僕達は本当に今回の事件が解けるのだろうか?心配しかないけど、今だけは。今だけは。今だけは思いっきり楽しもう!だってこんなに美味しいご飯があったら我慢出来ないって。
「マリアの料理はサイコーだな」
「あっでもこれ、光ちゃんも手伝ったみたいだよ?」
「は?嘘だろ?トゲキャラが料理なんか出来ないだろ」
「そうですよね。トゲキャラは料理が下手で恥ずかしがるのがベタですもんね」
「そうそう。あいつに料理なんて……」
急に顔色悪くなったな竜真さん。どうかしたんだろう?
「竜真はさん?大丈夫ですか?」
「あっ、あっ、あいつ……飯に何入れやがった……毒か?」
「またまたそんな大げさな……!?りゅ、竜真さん」
「お、お前もか……」
竜真とアツキは冷や汗が止まらなくなり、自分のお尻を押さえた。そして我慢している時に発する、震える声で
「ア、アツキ。ここ、トイレひとつしかないよな?」
「そうですけど、それが何か?」
「俺の方が歳上だから……先で良いよな?」
「何言ってるんですか?歳上だからこそ、下に譲るもんじゃないんですか?」
「そんなものただの幻想だ。世の中は歳上が絶対。逆らうことは許さんぞ」
「何訳のわからない事言ってるんですか?」
その二人の様子を見て、笑いをこらえる風舞希。実は風舞希が光に頼まれた事と言うのは。
「風舞希。今日の夜ご飯の時に、二人の飲み物にこれを入れて」
そう言って、風舞希に小さな粒を渡す。
「これは?」
「内緒。これを二人の飲み物に入れたら、泊まる宿のトイレを壊しといて」
「え?壊していいの?」
「うん。あのトイレ、もうボロいから新しいのに変えようとしてたからさ」
「なるほど。任せて」
まさか下剤だったとは。まっ、これはこれで楽しいけどね。
二人はすでにトイレの前に揉めながら到着していた。
「ここは譲れよ新人君」
「それはこっちの台詞です」
「だからここは上司が絶対だから、嫌なら他の所行ってくれる?変わりはいくらでもいるからさ」
「だからなんでさっきからブラック企業みたいになってんすか」
「うるせい」
竜真はアツキの腹をパンチした。アツキの顔が歪む。たがその顔は殴られた痛みによるものでは無く、違う痛みだった。
「あんたこの世界のタブーを犯しやがって」
竜真の腹を蹴り返すアツキ。
「グォーーー。て、テメェー」
「ハァハァハァ、トイレは譲りません」
「お前はまだ余裕があるだろ。俺のごみ溜めは限界なんだよ。早く他の施設に運ばないと」
「それを言ったらこっちだって、もう壁壊れる位にパンパン何ですよ」
「ならジャンケンはどうだろうか?このまま揉めていても何も解決にならない。ならジャンケンをし、神に選ばせるのはどうだろうか?」
「わ、分かりました」
このジャンケン。負ける訳にはいかない。何がなんでも勝たなければ。ここで俺が負ければ発車確定。つまりここで何としてもアツキに勝てなければ。
「よし行くぞ。最初は」
「チョキ」
「チョキ」
「カーーー」
ジャンケンはあいこ。その瞬間がゴングの合図だった。二人は殴り合いを開始し、相手をダウンさせてトイレを制圧するつもりだ。
「テメェー、最初はチョキとか反則だろコンニャロー」
「それお前が言うかボケ。お前の頭くらい読めてんだよ」
二人の終わり無きトイレ争奪戦にしびれを切らした風舞希がトイレの扉を開けて全てを見せた。
「おバカさん達。これ見て」
竜真とアツキの目には、粉々に砕かれた便器があった。
「カーーー」
二人は宿を飛び出し、マリアと光の住む家に向かった。
「あの子達、とてもいい人達だったわよね」
「そうかな?私にはただのバカにしか見えなかったけど」
「うふふふ。それもそうね」
ピンポーン
「あら?誰か来たみたいね」
確かにあいつらはバカでどうしようもないのかも知れないけど、それでも。
「あら竜真さん」
「トイレを貸してください」
楽しければそれで良いのかなって。光はニッコリ笑ってそんな事を思った。
翌日、僕と竜真さんの目覚めは良かった。
昨日の夜、マリアさんの家でスッキリさせてもらった僕らはスキップしながら宿に戻り、すでに寝ていた風舞希を寝室に運び、僕らもすぐに眠りについた。
僕は起きて驚いた。なぜなら風舞希が僕らよりも早く起きて朝御飯を作っているのだ。さすがにその状況は竜真さんすらも驚いていた。
「何が起きてんだ。これは夢か?」
僕は自分のぽっぺをつねりながら
「夢じゃありません。夢じゃありません」
「あいつも毒でも盛られたのか?」
「二人とも起きてたの?」
「今起きたところだよ」
「今日は楽しみにしててね。風舞希ちゃんのスペシャルご飯だよ」
僕らはリビングの床に座り、朝御飯が出来るのを待つことにした。風舞希はエプロンを付け、楽しそうにキャベツやトマトを切る。
「なんかこうして普通に見てると可愛い女の子ですよね」
「あぁ。でもこうして見ると、人間って見た目と中身はまるで違うよな」
「えぇ。ああ見えて大食らいで、喧嘩が強くて、ゲームが大好きなんて。誰も見ただけじゃ分かりやしませんて」
「そうだよなって、え?ゲーム好き?初耳なんだけど」
あっ竜真さんはあの時、二日酔いで仕事に来なかったから僕達の会話を知らないんだ。
「別に大した話じゃないですよ。ただ殺し屋時代に稼いでいたお金って今あるのかなって聞いた事があって、そしたら全額ゲームに使ってるらしくて、金は一切無いらしいですよ」
「な、なんだと……」
竜真さんが青ざめている。
「どうしたんですか?」
「ぶっちゃけ生活は風舞希の金で生きていこうと思ってたからな」
「あんたそんな事思ってたのかよ」
「だって最強の殺し屋って呼ばれているんだろ?スゲー大金持っているって誰でも期待するじゃん普通」
「そうかも知れないですけど、風舞希には一切貯金ないんで、しっかり働いてくださいね?」
「そんなーーー」
まったくこの人は、どんだけ人生舐めきっているんだ。
「出来たよ~」
風舞希が料理をテーブルに並べる。
「やっとか、待ちに待ったぞ」
「風舞希の料理初めて食べるけど期待できるの?」
「味の心配はご無用。さっ。食べよ食べよ」
「だな。じゃー手を合わせて、いただきます」
「いただきます」
???????
「な、何ですか?これ」
僕はお皿に丸々乗っているキャベツを見る。
「なんでサラダ一切切ってないの?キャベツにトマト、なんで丸々一個乗ってるの?」
「こ、これ卵ですか?茹でる以前に生卵、殻ごとだし」
うーーーーん
「ちょっと待てーい」
僕と竜真さんは風舞希の料理に文句を言う。いや、文句しかでない。腹を空かせて待ちに待ったのにこんなオチだとは。
「何なんだよ。さっきの楽しそうに包丁で刻んでるシーン何なんだよ。何も刻めてねーじゃねーか。洗っただけじゃねーか。完全に嫌がらせ以外の何物でもねーじゃんか」
「ほ、包丁は一応使ったよ?」
「で、でも竜真さんこっちのパンは普通見た目ですよ。これなら食べれますよ」
うん。パンは見た感じ問題はない。
だが何故か、焼けている感じがしない。もしかして焼いていないのかな?まぁそれはそれで美味しいけど。
「なんかこれ薄くねーか?」
「確かに言われてみればこのパン薄いですね。まぁ味が良ければなんでも」
「そうだな」
パクと一口食べるアツキと竜真。
その瞬間、二人の口の中が焼ききれるような苦味に襲われた。
「な、なんだこれ!ゲホッゲホッ」
「お、お前。何を」
竜真がパンの裏を見ると、一切隙間無く隅々まで黒くなっていた。
「何やったらこんな焦げかたになるんだ。白い所が一切見えねー位焦がしてんじゃねーか。一瞬宇宙かと思った位暗いぞ」
「私、料理はキッチリしたいタイプで」
「どこをキッチリさせてんだ。お前の頭が焦げてんだろうが」
「つ、つまりこのパンを真っ黒にした風舞希は、パンの真ん中に包丁を入れ、2枚のパンにして、内面を上にしてたって事か」
「お前、あんな楽しそうな顔をして、とんでもねー物捌いてたって訳か」
結局僕達の朝御飯にロクな物はなくマリアさんの家で朝御飯を食べることにした。
「まったく風舞希にご飯作らせると毒殺物しか作らねーな」
「なら私が作ってあげようか?」と光が言う。
「お前は本当に毒物入れただけだろうが」
「うふふふ」とマリアさんが笑う。
「どうしたんですか?」
「なんか光が楽しそうだなって。この子あんまり友達いないから皆さんが来てくれて良かったですよ」
「えぇ任せてくださいマリアさん。俺と光は友情を越えた関係です」とイケボで話す竜真。
「まぁ!」
「な訳あるか!」
そういえばあの子が居ないな。
「レンはどうしたんですか?」
「そういえば見かけねーな」
「あの子は住んでる所は別で、仕事を手伝ってもらっているだけで」
「そうなんですね」
「本当は一緒に住みたいんだけど、この子が駄目って言って」
「当たり前じゃん。男と住むなんて無理に決まってるじゃん」
「相変わらずお堅いな~光ちゃんは。まぁ胸くらい柔らかければ良いのに」
「何!」
その言葉に反応する竜真とアツキ。
「何バカ言ってるの!!!」
風舞希のせいで怒った光を皆でなだめ、なんと落ち着きを取り戻した光。
「じゃー私。出掛けてくる」
「ん?どこ行くの?」
「ブランドタワーだけど」
「ブランドタワー?」
?マークを付ける3人にマリアが説明を始めた。
「ブランドタワーとはこの街の中心にあるタワーでこの国のトップ。皇帝が住んでいるタワーです」
「皇帝?」
「そう。それで私は今日そこに剣のトレーニングに行くんだ。じゃ行ってくる」
「ちょっと待って光。竜真さん達も連れてってあげて」
「え!?」
「ニヒィーー」
竜真達はキモいニヤケ顔で光を見る。
「行ってくる」
「無視すんなコラー」
家を出る光に続いて竜真達も出ていった。
「そうだ。先に言っとくけど、皇帝の前で 変な事しないでよね」
「しないしないって」
皇帝って事はこの世界のトップって事だろ?って事は使い切れない程金持ってる訳だろ?ならどうにか気に入られて大金GETだぜ。
「竜真さん。光に恥を掻かせたら駄目ですよ?」
「分かってる分かってる。な?風舞希」
「うんうん。これで憎っくき課金勢を倒せる」
「何も分かってないじゃん。それに目が¥になってるよ」
「そうだぞ風舞希。お前露骨過ぎなんだよ。少しは恥じらいを持て」
竜真も目が¥になっていた。
「あんたもかい」
そんな会話をしながら歩いている内に、あれだろって一発で分かるビルが見えてきた。
「あれがブランドタワー」
「デケーなおい」
「わ~~~。」
「た、高い」
そこには周りにあるビルとは高さも面積も違う、とてつもないサイズの建物が聳え立っていた。
「皆。行くよ?」
光に連れられた僕らは、ついにこの国の中心的存在のブランドタワーに到着した。
一階の入り口は、警備員なども居なく、ショッピング感覚の様に出入りを繰り返していた。
「ここがブランドタワー。じゃー中に入るよ?」
「おう!」
僕らは光に続いて中に入る。
「な、なんじゃこりゃー」
中はとてもビルとは思えない位に広く、店が大量に並んでおり。同時に大量の人が動いている。
「おいおい。めっちゃ人いるじゃねーか。暇か?こいつら」
「それは竜ちゃんも言えないと思うよ?」
「迷子にならないよう、ちゃんと私に着いてきてね」
「は~い」
僕達は光に続いて建物内を右へ左へ進み、一つのエレベーターの所に着いた。
「このエレベーターに乗れば一発で目的の階に着くから乗るよ」
乗った所で竜真は気付く。
「なんかボタン多くないか?」
「このエレベーターは縦だけじゃなくて横にも動くから到着地点が多くなるんだ」
「ここはチョコレート工場か」
光がボタンを押すとエレベーターは上に上っていく。そして横にも動き、1分くらいで目的地に着いた音が鳴った。
僕らは降り、一直線のレッドカーペットを歩いて行く。色んな人とすれ違っているがほとんどの人間が剣を持っている。訓練所がある階だからだろうか?光が突き当たりの扉を開く。
するとそこは文字通りのトレーニングルームだった。素振りをする人。反復横飛びをする人。腕立てをする人。ここはジムか?
「おっ。光さんお疲れっす」
「お疲れ」「お疲れっす」「お疲れ」
モブ達が光に挨拶をしに来る。
「光ってここの有名人なの?」
「そ、そんなんじゃないよ」
「でも凄いよ。こんなに皆が挨拶に来るなんて」
「だからそんなんじゃないって。早く上に行くよ」
光って実は凄い人なのではないか?こんなにも人が挨拶に来るなんて普通の人じゃない。
「上って、この上に何かあるの?」風舞希が聞く。
「うん。この上はバトルが出来るようになってて、選ばれた人だけが皇帝に呼ばれてそこで試合が出来るの」
「って事は光は皇帝に呼ばれてるって事?」
「まぁ、うん」
ほっぺを人差し指で掻きながらテレる光。
「へぇ~光って凄いんだね」
剣が作れて剣の腕もあるなら人気で当然だ。
「あれ?そういえば竜真さんは?」
「確か、私の後ろ歩いてたんだけど、どこ行ったのかな?」
あ~もうどこ行ったんだろうあの人は。
「おーー!!」
「なんだなんだ?」
いきなり後ろの方で歓声が聞こえた。
カシャカシャカシャカシャカシャカシャ。鳴り響くシャッター音。そして
「お疲れーす」「お疲れーす」「お疲れーす」
モブが挨拶に行く程の人気。
「す、凄い。光と同じくらい人気なんだけど」
「いやアッキー。あれは光ちゃんより人気かも」
確かに風舞希の言う通り、光よりも人気かも知れない。モブの盛り上がりが凄い。一体誰が来ているんだろう。
僕達は人混みの中に飛び込んで背伸びをし、その中心を歩いている人間を見た。
カシャカシャカシャカシャカシャカシャ。
「はい。お疲れ」「お前かい!!」
その中心に居たのはキラキラの服を着て、サングラスを掛けたバカだった。
「何してんだお前」
「OH~。お疲れ」
「お疲れじゃねーんだよ」
竜真がアツキの肩を掴み、くるりと反対を向かせる。
「何してるんですか?」
ササササササササササ。アツキは自分の背中を見る。
「サインかい!何ハリウッドスターみたいな事してるんですか?」
「お疲れ~い」
「そんな台詞、スターは言わねーよ!」
「あのバカは」光は頭を抱える。
竜真さんに元の服を着せ、やっと皆で上に歩いていった。トレーニングルームの端にある階段を上り、試合が出来る会場の扉を開けた。
中へ入るとすでにたくさんの人が真ん中を一直線に空け、両サイドに座っていた。僕らは真ん中のフィールドを通り、反対側に座った。
「竜真さん。風舞希。絶対ここで悪さはしないで下さいね」
「分かってるって」
ここで悪さなんかしたら、光の顔に泥を塗るはめになる。何としても僕が止めなければ。
少し経つと一人の男が中心に行き、マイクで話し出した。
「お集まり頂きますありがとうございます。今日も素晴らしい試合を期待しております」と司会者らしき人が頭を下げた。
「おい光。皇帝ってもう来てるのか?」
「まだみたいだけど。あっ来たわ」
「どこだ?」
「あそこ」
光が指差す方向を見ると、一人だけ地面ではなく高級そうか椅子に座っている男が居た。あれが皇帝。見れば見るほど皇帝って感じだ。
「皇帝って、THE皇帝って感じですよって居ねーー」
すでに竜真や風舞希はアツキの隣には居なかった。どこに居るかと言えば、言うまでもなく皇帝の所に行っていた。
「皇帝さん?肩はこってないですか?」
「皇帝さん。こちらコーヒーになります」
肩を揉む竜真とコーヒーを渡す風舞希
「な、何やってんだー!あのバカ共は」
「ちょ、皇帝に何してるの?」
その対応に皇帝はビックリした顔をしながら
「き、君達は何を?」
その言葉にビビった竜真達はさらにサービスを良くする。
「さ~さ~肩をほぐしますよ?このくらいの強さで良いですか?」
「痛い痛い痛い」
「コーヒー私が飲ませてあげます」
風舞希は熱々のコーヒーを皇帝の口元に持って行く。
「動かないで下さい皇帝さん」
「アツ!アツアツアツいから」
痛すぎる竜真の肩揉みで体が動く皇帝。動く事で風舞希が無理やり口に当ててくるコーヒーがこぼれ大変な事になる皇帝だった。
「アツい。痛い。アツい。痛い」
するとそれを見ていたモブ達が立ち上がる。
「無礼者。よくも皇帝を」
剣を抜き竜真達に向ける。
さっ、早速修羅場なんですけど。
「殺せ殺せ」「打首だー!」
モブ達が今にでも竜真さん達を斬り殺しそうだ。どうしよう?
そんな事を思っていると、隣に居たはずの光がいつの間にかに居なくなっている。
「皆下がって」「光さん」「光さん」
「その人達は私の知り合いです「しかし」「下がって」「分かりました」
す、凄い。さすが光だ。モブ達が下がり、元の場所に戻り座る。
はぁ~、なんとかなった。でも皇帝の逆鱗が。
「すみません。私の知り合いが無礼を働いて」
「そうだそうだ!謝れ」
「あんた達のせいでしょ」
その言葉に皇帝は「はっはっはっ。実に面白い人達ですね」と笑いながら言った。
あれ?怒らないのかな?実は皇帝っていい人なのでは!
「許してくれるんですか?」と光が言う。
「もちろんですよ。君達、冒険者か何かなんでしょう?」
「はい。そうみたいなんですが、なぜそれを?」
「そんなの見れば分かりますよ。身分の違いなど気にしない所などが冒険者らしいです」
その言葉に竜真と風舞希は泣きながら
「ありがとう皇帝さん」「ありがとう皇帝さん」と言った。
「さて、じゃー始めましょうか。ぜひ君達も見ていって下さい」
「おう」「うん」
竜真達もアツキの所に戻って座った。
「本当に見ててヒヤヒヤしましたよ」
「そうか?全然余裕だろ」
「普通の国ならとっくに死刑ですよ」
司会者がマイク持ち再び話し出した。
「では始めさせて貰います。1試合目やりたい人~」「はーーい」と一斉に手をあげるモブ達。
「こんな感じで決めるのかい」
軽すぎやしないか?
手をあげたモブの中から司会者に選ばれた二人が前に行き試合の準備をしだした。
「光ちゃん。これルールとかあるの?」
「一応あるよ。一太刀浴びせるかギブアップさせるかで勝敗が決まるよ」
「へぇ~そうなんだ」
準備が着々と進む中、僕は面白い物を見た。それは刀の刃の上から着けて刃を無くす、カバーの様な物だ。
「あのカバーを着けないと試合出来ないんだね」
「そうだよ。あのカバーは取り外し簡単だから、試合する時にはすぐ着けて、終わったらすぐ外せるんだ」
「便利だな~」
そんな会話をしている間に試合は始まった。両者ほぼ互角で、見てて面白い。
「中々やるじゃねーか」
「私もやりたいな~」
「でもここはレベル高いよ?ほら見て、丁度ランキング1位のレンが試合するよ」
「レン?あのレンか!」
「そう。レンは最強の剣士なんだ。私は2位でレンに勝てないんだよね」
レンってそんなにスゲー奴だったんだ。
レンはモブを圧倒し、一瞬でケリが着いた。
「おいおい。相変わらず強いなレンさんは」
「あんなに強いと怖くて戦えないよな」
そんな会話が周辺から聞こえる。余程レンは強いらしい。
「次、俺とやりたい人は居ますか?」レンは皆に言う。
しかし、誰一人として手を挙げ、いや一人だけ居た。僕の隣に。
「はいはーい。私やりたい」
「風舞希ったら正気なの?レンは相当強いよ?」
「なら尚更だよ~」
「まぁいいんじゃねーか?俺は知らね~」
「また竜真さんは無責任な」
でもやめろって言っても聞かないからな~。
「風舞希。レンに怪我させちゃダメだよ?」
「分かってるって~」
「ちょっ怪我の心配するのはこの子でしょ?レン相手じゃ怪我するよ?」
光は心配そうに風舞希見つめる。
その視線をお構い無しに、中心のフィールドに行き、早くも準備をしている。
「アツキ、止めないの?レン相手じゃ大怪我する可能性だって」
アツキは落ち着いた様子で
「その心配はいらないよ」
「で、でも……」
「大丈夫だから見てて」
「そうそう。俺らの仲間はそんなにヤワじゃねーよ」
風舞希の刃にカバーが装着され、準備完了となった。
「では二人とも剣を鞘に。でも今から開始したいと思います。始め」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます