第5話 時を発展させた異世界
コノハ横丁に戻った僕らはすぐ地上に戻り、真っ先に向かったのは居酒屋だ。
「うっしゃー。とりあえず生お願い」
「はいよー」
「じゃー私はジョッキでコーラお願い」
「ジョッキで!?凄いなー。じゃー僕はジンジャーで」
僕らはとりあえず飲み物とつまみを頼んだ。
「さて、料理も来たことだし乾杯!」
「乾杯」
「乾杯」
確かに異世界まで行って働くのは大変だし、それに仲間達も変わった人でいつも大変な目にあうけど、なんかこうゆうのがあると、それも良いかなって思うかな。単純に楽しい。
「見て見て竜ちゃん!華厳の滝~。ごくごく」
「どんな飲み方してんの」
風舞希はコーラが入ったジョッキを顔の上から溢しそれを下で口を開けて溢さず飲んでいるのだ。
「た、確かに華厳の滝に見える」
「風舞希。お前に華厳先輩は早えーよ」
「華厳先輩ってなんですか」
「お前は湯滝くらいにしとけ。まぁ俺くらいになるとナイアガラ大明くらい出来るんだけどな」
そう言うと竜真さんは右手左手にジョッキを持ち、上に手を伸ばして2つ同時に溢した。それを竜真さんは一滴も溢さず飲んでいく。悔しいが本当にナイアガラの滝に見える。
「さすが竜ちゃん。ナイアガラ大明に手を出すなんて凄いね」
「あははは。俺を誰だと思ってるんだ?竜真さんだぞ?」
僕らは居酒屋で楽しんだ後、いずみさんの所で温泉に入り、僕の家に帰った。
「いやーなんか疲れましたね」
「そうか?もっと飲みたかったぜ俺は」
「んな事言っても金無くなっちゃったじゃないですか」
「私も後2000円くらいしかないよ」
「また稼げばいいだろ。もう寝ようぜ」
「そうですね」
僕らはそれぞれ自分の部屋に戻った。竜真さんはリビング。僕は寝室1。風舞希は寝室2で寝ようとしていた。ただ風舞希が貰った布団が気になったので風舞希の部屋に行くと、竜真さんも居た。同じく気になったらしい。
「見て見て竜真ちゃん。アッキー。凄いふっかふっかで暖かくて気持ちいいよ。こうしてるだけですぐ眠れそう」
風舞希は数百万する布団に寝転がりダラダラしていた。それを見てると僕も竜真さんも悔しいくらいに羨ましくなっていた。
「ん?どうしたの二人とも」
「くーーー、もう我慢出来ねー俺も入れろ」
風舞希の布団に飛び込んだ竜真さん。完全に犯罪の江面だ。
「ちょっ、竜ちゃん狭いよ~」
「良いじゃん仲間なんだから」
「仲間でも十代の女の子の布団に入ったら犯罪だって。あぁん、竜真今胸に当たったって」
「竜真さん、警察呼びますよ?」
とは言ったものの、まじで気持ち良さそうだ。高級な布団とは一体どれだけ気持ち良いのだろうか。
「ぼ、僕も」
気づいたら僕も風舞希の布団に飛び込んだ。
「ちょっ、二人はさすがにダメだよ~。どんだけ私の事が好きなのー?」
そんな事をしている内に寝ていた。
今考えると凄い状況だ。一つの布団で3人で寝たのだから。朝起きてからの罪悪感が僕を襲う。
相変わらず二人は起きる気配がまるでない。結局昨日稼いだお金も使ってしまったし、本当にノリと言う悪魔の存在に改めて気づいた僕だった。
「昨日は大変な目に合いましたね」
「あ?全然記憶に、ゲロゲロゲロゲロ」
「ちょっとどこにぶちまけてるんですか。朝御飯の最中ですよ」
「もう飲まねー。絶対飲まねー」
「それってまた飲むフラグだよね。人間その場のノリには逆らえないからね~」
竜真さんは二日酔いでぐったりし
「悪りー。今日俺仕事休むわ。お前ら適当に稼いどいて」
「しょうがないですね」
「竜ちゃん今日はゲームしないで寝てなさいね」
「お母さん!?」
それから僕らは二人でも出来そうな仕事をどんどんクリアしていった。
気付けば一週間も二人で働き続けていた。
その間竜真はゲームしてだらけてドラマを見てギャンブルしてグータラライフを送っていた。
「ちょっと待って。お前二日酔いでも何でもねーじゃねーか!ただ働きたくないだけじゃねーか」
「竜ちゃーん。私達が稼いだお金でギャンブルってどうゆう事かな?」
「二日酔いって言うか、俺は1週間酔いするタイプなんだ」
「あっ、そうなんだ。なら指の一本や二本切り落としても良いよね?酔ってるなら痛みも無いだろうし」刀を抜く風舞希。
「んな訳あるか。酔ってても痛みはあるだろ普通。てかなんでお前俺の指すぐ切り落とそうとするの?竜真さんはナ・メック星人じゃないんだよ?地球育ちの地球人だからな?」
バン!いきなり下から床を突き破って銃弾が飛んできた。
「上に住んでる方、朝からうるさいですよ」
こ、これはいずみさんだ。危なかった。あの人は平気で人に銃を撃つ人だから。
「とにかく竜真さん。これからはちゃんと働いてください。2人だと稼げる仕事少ないんですから」
「分かったって。ったく世話の掛かる部下だぜ。社長を動かすとはな」
「足引っ張らないでよねニート」
「誰がニートだ!あんな生きる屍と一緒にするな」
「いや風舞希の言う通りですよ。僕達が稼いだ金で遊んでるんだから」
「ぐっ」竜真さんは膝を床に付け、それはそれは見事は土下座だった。
「すいませんした」
土下座を見終えた僕らはコノハ横丁ギルドで仕事を探していた。
あれ?何もない。いつもならこの掲示板に様々な仕事があるのに今は一枚も貼っていない。
「お菊さん、なんか仕事が無いんですけど」
「おいおい仕事無しじゃしょうがねーな。借金はチャラって事で」
早速帰ろうとする竜真を風舞希が服を掴み帰らせない。
「どうゆう事なのお菊さん。さすがに仕事無いのは困るんだけど」
「実は」お菊さんの表情は険しく、何か深刻な事が起きている顔だ。何かあったのか?
「最近変な事件が多発していて。その事件と言うのは、様々な世界で貴方達冒険者が謎の死を遂げてるんです」
「謎の死?」
「はい。最近仕事をしに行った冒険者が帰ってこなくなる事が多くて、それで調査を頼んだらあちこちで冒険者が死んでいたんです。しかも外傷などが一切なく」
「外傷がない?」
「はい斬られた後は無く、まるで寝ているかのように死んでいるんです」
「あれだろ、デスペンシル見たいなやつだろそれ。そのペンで名前を書いたら死ぬってやつ」
「な訳ないでしょ。う~ん、あっ!なら毒やガスは?それなら体に傷は無いだろうし完全犯罪が成功するよ?」
「その言葉犯罪する側だから」
「毒や気体系等も全て調べ尽くしましたが反応はありませんでした」
一体何が起こっているのだろうか?何が目的で冒険者を狙っているんだろうか?分からない事だらけだ。
「それで私は今回の事件を新撰組に調査を頼みました。事件が起こった世界は全部で10。新撰組はその10の世界に調査部を設置しそれぞれの世界を調査していたんですが……」
お菊さんの言葉が詰まる。
「どうしたんですか?」
「その新撰組の10個全ての調査部が何者かに襲撃を受けたんです」
「襲撃!?」
「守りきった調査部は4つ。それぞれ近藤さん。土方さん。沖田さん。そして永倉さん。
その4人が守っていた部は守れたんですが、他の部は壊滅させられました」
「壊滅!?あの新撰組が!?」
あんな化け物集団が壊滅させられるなんて。今実はとんでも無いことが起きているのでは無いだろうか。
「それに信じられないんですがあの近藤さんが右腕を負傷したそうで」
「日咲さんが!?あれだけの腕の人間が怪我を負うなんて、相手は何者なんですか?」
お菊さんの顔を見る限り敵の正体はまだ分かっていないようだ。 するとずっと黙って聞いていた竜真さんが
「奴等の死体から何か分かったりはしたのか?やられたって言っても相手を一人も倒せなかった訳じゃないんだろ?
「そうなんですが襲撃してきた人間の身元は分かりませんでした。ただ」
「ただ?なんか分かったのか?」
「襲撃してきた人間が持っていた刀に太陽の様な赤い丸のマークがありました」
「赤い丸ね~」
「そんな事があったから通常の冒険者は今異世界に行くのは禁止にしているんです」
「そうなりますよね。それで今新撰組は?」
「新撰組は動員を増やし再度陣形を展開し情報収集をしています」
こんな話を聞くとこっちも何もせずに家でこもっているなんて僕には出来ない。僕らに出来ることは少ないかもしれないけどそれでも、何か手を貸したい。そんな事を思っているとお菊さんがパソコンをいじりだした。
「実は近藤さんから坂本さんがここに来たら伝えて欲しいと言われていることがありまして」
「日咲が?」
「えっとー、よく聞いて竜。今回の事件私はある人物が裏にいると思っているわ。私達はこの事件が起こる前ある人物を追っていたの。その人物は最近不振な動きをしているらしく、その情報をキャッチした私はそれを調査していたの。そのタイミングでこの事件。絶対何か繋がっている。私達は引き続き調査するわ。そしてその人物の名前を聞けば貴方は絶対に動くでしょうから気を付けなさい。そしてその人物の名前とは今井礼侍(いまい れいじ)」
その名前を見た竜真の顔が変わる。
「私が戦った相手の正体はいまだ分からないけど1つ言えるのは、奴は未来を生きている。ただそれだけだわ今の私に言えるのは」
日咲さんの文章を読み終えたお菊さんはどうするんですか?と言わんばかりの顔でこっちを見てくる。
「やれやれ金は出るんだろうな?」
「たんまり稼がして貰いますよ?」
「私達はお金のためならなんでもするもんね」
「やっぱり貴方達なら大丈夫そうですね。なら頼みます」
「おう任された」
こうして僕達は今回の件に首を突っ込んだ。
「ではでは貴方達に調査して欲しい場所は」
「場所は?」「場所は?」「場所は?」
「唯一、時を発展させた世界ランラインです」
「ランラインか、聞いたことねーな」
「私も聞いたことないよ」
「ランラインで今回の事件の調査をお願い致します」
「悪さしてるやつをぶっ倒して」
「大金を手に入れて」
「優雅に暮らしてやる」
僕らは気合いを入れ転移リングを使い異世界ランラインに飛んだのだった。
気が付くと僕達は壁と壁の間に居た。どうやら建物と建物の間に到着したみたいだ。
「まったく人気は無い所ってもう少しマシな所にしてくれねーかな」
「でも今回は街まで歩く必要無いみたいだから楽で良いじゃん」
「さて、まずは何からしますか」
おそらく今僕達がいる場所は都市なのだろうと分かった。なぜなら人がめちゃくちゃ多いからだ。常に耳に人の声が入って来るし、建物も高い。現に今僕達を挟んでいるビルも高いのだ。
「まずはこの街を探索と聞き込みをしようぜ。情報って言うのは足で稼ぐのが一番だ」
「そうですね。とりあえず人に当たって見ないと分かりませんしね」
「やった~、探検だ」
「いやそれは違うから」
僕達はビルの間から出て街を歩く。ここはとても江戸に似ていた。腰に刀を差した侍擬き見たいな人もいるし、ビルがたくさん並んでいる割には人が古いと言うか、なんと言うか。分かりやすく言えばビル街なのに商店街みたいな感じだ。
お店がたくさん並び、果物や野菜を売っている。でも見ていると分からないお店もある。
例えばあそこの修理屋だ。何を修理するかは分からないけど、修理するには道具とかが必要なはずなのに、それが見当たらない。それに偏見なのかもしれないけど修理系のお店って汚れた作業着を着て、男が汗水垂らして働いているイメージだ。なのにこの修理屋はまるで何もない。道具はもちろんないし、作業している人も楽な軽装で店の中も机と椅子が二つしかない。
そしてなりより修理が速すぎる。さっきから子供が壊れたラジコンやゲームを持って中に入っていったのに数秒で直ったラジコンやゲームを持って中から出てくる。しかもまるで新品みたいにキラキラ輝いている。
「竜真さん、風舞希」
目をキラキラさせながらどんどん先に歩いて行く二人を呼び止める。
「あそこの修理屋で聞き込みをしてみまんか?」
「修理屋?構わねーけど」
「竜ちゃんの頭直してもらおう!」
「人の頭が元から壊れてるみたいな事言ってんじゃねーよ」
僕らは修理屋の自動扉の前に立ち、自動扉が開き中に入っていった。
「どうしました?」
中に入ると普通のおじさんが居て話しかけてきた。
「いや、どうしたって訳じゃ無いんですが」
僕は自分が冒険者だと証し、事件の事を話して聞き込みを開始した。
「冒険者の小屋が襲われたんですよね。でも残念ですが私はそれしか知りません」
「そうですか」
「すみません力になれなくて」
「いえ、そういえばここは修理屋ですよね?」
「はいそうですが、何か変ですか?」
「変と言うか何もなくて、道具とかないんですか?」
「道具?何を言ってるんですか冒険者様」
そのおじさんは僕がとぼけているのか?という表情で言う。
「直すのに道具なんて必要無いじゃないですか。この液体を垂らせばそれで元通りじゃないですか」
そのおじさんは机からスポイトを取り出し、机の上に置いてある液体を吸い上げた。
「ほれ、そこのお嬢さんこっちに来て下さい」
「え?私?」
おじさんに呼ばれた風舞希がおじさんに近づく。
「ちょっと手を貸してください」
と言われた風舞希は腕を前に出した。おじさんは風舞希の腕を掴み服の袖にスポイトで吸い取った液体を一滴落とした。
「わ~~~!」
すると風舞希の服が光輝き出した。
「なんだこりゃ!」
「竜ちゃん。アッキー。私凄く楽しかった。二人が居てくれたから生きてこれた。今までありがとう。そしてさようなら」
風舞希は涙目になりながら語る。それを聞いた竜真さんと僕も涙を流した。
「あっちに行っても元気でな。グスッ」
「短い間だったけど僕は凄く楽しかった」
まるで映画、お化けのワンシーンの様に光ながら成仏して行きそうな風舞希。本当に今までありがとう。
「いやあんたら何してるんですか?」
「へ?」
「いやだから何してるんですか?」
「何って見れば分かんだろ」
「ちっとも分からないんですけど~」
「あれ?」
風舞希の服がさっきまで光っていたのに急に光が弱まって行く。そして光は消えた。
「あっ、帰ってこれた」
「お帰り」
「ただいま」
「なんか綺麗になった?」
「そりゃそうだろ、あっちから浄化されるからな」
「じゃなくて服がだよ」
確かに風舞希の言うとおり服が新品みたいになっている。
「やっぱ綺麗になってるよ!ここ破れてたのに直ってるし、汚れも無くなってる。何これ凄いどうやったのおじさん!」
「どうやったって言われてもですね、ただこの時戻しの薬をかけただけですよ?」
当たり前のように言う、時戻しの薬ってなんだ?
「時戻しの薬ってなんですか?」
「おやこれも知らないんですか?この薬は様々な所で使われている薬でして、この薬をかけると少し前の状態に戻れるんですよ。例えば怪我をすれば怪我をする前に。何か壊れれば壊れる前に戻るれるのです」
「そ、そんな便利な薬が」
「おい親父、この薬人の頭にかければ記憶は消えるか?」
何企んでるのこの人。性犯罪犯す気満々じゃねーか。
「記憶に時間は触れられないかな、残念ながら」
「んだよ使えねーな」
「使えない事は無いでしょ!すみません仕事の邪魔しちゃって」
僕が謝り。その場を後にした。
「結構情報は得られませんでしたね」
「まったくお前は役にたたねーな」
「あんたが言えたことかよ」
「アッキーの言うこと聞いた私がバカだったな~」
「なんでさっきから僕が悪者?」
まったくこいつらは僕が居なかったらどうやって生活しているのだろう!あっ二人とも僕が居なくても生きてこれてた。
風舞希は殺し屋。竜真さんはこの仕事で。なら僕が引っ張る必要もないか各自で動いてくれると思うし。
「おい風舞希、そこで飯食わね?」
「やったー!丁度お腹空いてた」
「ってちょーい、もうご飯ですか!ここに来てから聞き込み一人にしかしてませんよ?そんなんでこの事件解決出来るんですか?」
「うるせーな、腹が減ったら聞き込みは中止って言うだろ?」
「言わねーよ」
「聞き込みなんて数人から聞いて、分からなければ、もう無理だろ?一人に聞いて知らないって言うなら他の人も知らねーだろ。なら聞き込みは終わりしかねーだろボケ」
「ボケはお前だろ。さっきと言ってる事が矛盾してんだよ。どんだけめんどくさいんだよ。聞き込みに向いてなさすぎだろ」
僕達が揉めているとそこに一人の男が近付いてきた。
「すいません。もしよろしければこちらの機械試しませんか?今なら無料です」
「今はそれどころじゃねーんだよ」
「ないのよ」
「ひぃーー」
凄い形相で睨み付ける竜真と風舞希。
「何してんの!せっかく宣伝しにしてくれたのに」
それに聞き込みも出来るって言うのにこの人達は。
「その機械ってどこにあるんですか?」
「ありがとうございます。こちらにあります」
案内された所に行くと、そこには人が入れるくらいの大きさの箱のような物があった。
「これは?」
「モシカシテボックスじゃないよ?」
「何言ってるの」
「こちらは将来や過去の自分の姿に一時的になれる機械でして。この中に入って、好きな年齢を打ち込むとこの年齢の姿になれる商品なんです」
「そんな凄い機械なんですかこれ!」
「はい!今なら無料なんでどうですか?」
「やって見ようかな」
「私はやるやる!なんか面白そうだし。こうゆう時に色んな年齢の私達を見せて人気を上げないと」
「どこに気使ってるの」
僕と風舞希はやる気だが竜真さんはあんまり興味なさそうだ。
「竜真はやらないんですか?せっかく面白そうな機械なのに」
「こうゆうのではしゃぐのはガキだけだろ。大人はな、大人のはしゃぎ方があるんだよ」
「誰よりも子供な人がなに言ってるんですか。やりましょうよ竜真さんも」
「そうだよやろうよ竜ちゃんも」
「ったくしゃーねーなー」
「じゃーまず誰から中に入られますか?」
「一番は僕から行きます」
僕は箱の中に入った。すると中にダイヤルのようなボタンがあり、年齢が書いてあった。
んー、何歳くらいにしようかな。まずは20歳くらいにしようかな。
僕はダイヤルを20に合わせ、確定ボタンを押す。するとプシューと音と共に中に煙が充満し出た。唯一外が見える丸い窓からも竜真さん達が見えなくたった。
「まだかな。まだかな」
「落ち着け風舞希。モブが何歳になろうとモブはモブにしかならないだろ」
「そうかもだけど~、気になるじゃん」
少し経つと、チンと完了を教える音がなり箱の扉がゆっくり開き出した。竜真と風舞希は目を凝らし箱からアツキが出てくるのを待つ。
「僕、変わりましたかね?あんまり自分じゃ実感無いんですけど」
その聞き覚えのある声に竜真と風舞希はあんまり変わってないじゃんと思った。が。
「少しはカッコ良くなったかな?」
急にイケボに変わった声で話ながら現れたのは長身イケメン男子だった。
「いや誰だー!」
「誰って僕じゃないですか」
「いや知らねーよこんなイケメン。どんな人生歩んだらあの顔がこの顔になるんだよ。まったくの別人じゃねーか!つーかその斜め45度ムカつくんだよ」
「アッキー変わりすぎて誰か分かんないよ」
「そんなに変わったかな?」
「うん。だって顔のパーツが違うもん。作り物の顔だよそれ。歯だってそんなにキランって光ってなかったし。って斜め45度やめなよ。もう、次は私」
今度は風舞希が中へ入って行く。
私はこれ!
風舞希はダイヤルを回しボタンを押した。プシューと音と共に煙が充満する。
「竜真さん、風舞希は何歳になったんですかね?やっぱり今の年齢より上ですか?」
「そりゃそうだろ。でもあいつ中身は幼いからあんま変わんないんじゃねーのか?中身は顔に出るって言うしな」
チン。完了したみたいだ。扉が開き、煙が無くなってゆく。
「あれ?竜真さん、風舞希居なくないですか?」
風舞希がまるで見当たらない。あれ?僕は目を凝らして探す。
「ここだよここ」
「あれ?今風舞希の声しました?」
「あ?気のせいだろ」
「気のせいじゃないよ。下下」
「下?」
僕と竜真さんは視線を下に持ってくる。するとそこには、とても可愛らしい女の子が居た。
「何これ。ちっちゃい風舞希が出てきたんだけど」
「おおー、可愛いな。お菓子あげるから着いてきて」
「さりげに誘拐しないで下さい」
「えへへへ」
見た目からして小学生高学年だろうか。風舞希のこの姿はまるで天使。この嘘も曇りもない目に、この笑顔。可愛い以外の言葉がない。可愛いとは彼女の事を言うのではないだろうか。
「私、小学生くらいに戻ってみたかったんだよね。このペタんこ感に」
「それは元からだろ」
「体も軽い軽い」
その場でジャンプをしたり軽く走ったりして楽しむ風舞希。その姿を見ていたら、僕は話しかけていた。
「好きな物なんでも買ってあげるからついておいで」
「お前も同じだろうが」
「やっぱこの位の歳は良いよね。何しても許されるし責任も何もないし。毎日遊んでられる」
「思惑が悪魔なんですけど。でもまぁこの姿だったら言いかな~」
「おいアツキ。さっきから気持ち悪いぞ。お前の趣味なんか知りたくねーっつうの」
「真っ先に誘拐しようとしてた人が何言ってるんですか」
「誰がこんなガキを」
そう言う竜真の袖を風舞希が引っ張り
「ねねお兄ちゃん?」
「ん?欲しい物でもあるのか?何でも買ってあげるぞ。こう見えて兄ちゃんはお金たくさん持ってるからな」
「お金なんてないだろ!それになんだよお兄さんって。どんだけ子供に弱いんだよ」
「これで私も人気うなぎ登りだね!ぶっちゃけ男なんて皆ロリコンだからさ」
「カミングアウトしすぎだろ」
「じゃー次は俺だな」
今度は竜真さんが中へ入って行った。チン。
「終わったみたいだ。一体竜真さんは何歳にしたんだろう?」
「うぃーす。やっぱ自分じゃ変化した実感ねーな。あれ?わしは元はどんな感じだったか?」
予想以上ひどい事になってる。
「なんで年寄りになってるんですか。なんで老けさせてるの」
「だってお前らが」
「え?僕らがなんですか」
「竜ちゃんは他にネタがなかったんだよ。アッキーが少し大人になって私が子供になったから竜ちゃんが変わる年齢があれしかなかったんだよ。」
「な、なるほど」
竜真さんが涙を流しながら
「俺だって若くしたかったんだよ~。でもさそれだとキャラ被りするじゃん」
「分かった分かった。泣かないでクソジジイ」
「ロリ風舞希、口悪すぎでしょ」
「ほらほら皆ここに並んで」
ロリ風舞希に言われるがままに横並びした。
「これが新しい私達だね」
「こんな弱そうなパーティー見た事無いんですけど」
「誰がヤワイか!わしはまだ若いもんには負けんぞ」
「黙って頑固ジジイ」
「だから口が悪いって。風舞希は鏡で自分の姿見て!その姿から出る悪口は強烈過ぎだから」
ポン!ポン!ポン!
「あれ?」
「私達、元の姿に戻ったみたいだね」
「やっと俺の存在意義が帰ってきたぜ」
どうやら時間切れのようだ。
「どうでしたか?変わった自分は」
「変な気分でしたよ。でも悪くはなかったですね」
「そうですか。なら良かったです」
「でもこんな機械、何のために使うの?」
確かにこの機械はすごい物だけど、必要ない気がする。短時間だけ好きな年齢の自分になって一体何をするのか疑問に思うところがある。
「これはまだ完全な完成ではなくてですね。まだ大きな欠点があるんですよ」
「欠点?」
「その欠点は変わっていられる時間の短さなんです。なのでこの時間を伸ばせれば、遊園地などで遊ぶ時に若くなって遊んだりする事が出来る商品になっています」
なるほど、確かに時間が短すぎる。こんなすぐに戻ってしまうなら変わる必要がない。
「なんか大変そうですね。あっそうだ」
そこで僕は事件の事を思い出した。危ない危ない、ついつい事件の事をうっかり忘れていた。竜真さん達と同じように楽しんでしまっていた。
僕は事件の説明をし、情報を聞こうとしたがやはり特に役に立ちそうな情報は得られなかった。
「すみません。なんか色々聞いちゃって」
「こちらこそ力になれずすみません」
僕らはお礼を言った後、その場を後にした。そしてそこからはあらゆる人に聞き込みをこれでもかいって位聞いた。しかし誰も何も知らなかった。
冒険者の小屋、つまり新撰組が襲われた事件は知っていても、誰が襲ったかとか怪しい人は居たか、などは一切情報が集まらなかった。
「中々情報集まらないですね」
「そーですね」
「なんでこんなに人は居るのに、誰も新撰組を襲った集団を知らないんだろう」
「そーですね」
「あんたら僕の話聞いてますか?」
「そーですね」
「聞いてないですか?」
「そーですね」
「はぁーー」
まったく頼りにならないよこの二人は。戦いでは頼りになるけどそれ以外はまるで足かせだ。やる気ゼロじゃないか。
そんな事を思いながら3人で歩いていると診療所と書いている所を発見した。
相変わらず怪我して中に入っていった人が何事も無かったかのように外に出て行く。この世界万能過ぎないか。
「竜真さん、診療所なら色々知っているかもしれませんよ?」
「そーですね」
「まだ言ってるんですか」
僕達は診療所に入っていった。
中を見渡すと相変わらず道具も何もない。やはりあの液体でなるのだろう。
「すみません。僕達怪我とかしてないんですけど」
僕は目の前に居る医者に、いやこの際医者と呼べるのか分からないが、その医者に事情を説明した。
「んーーー」
医者は悩んでいる。ここまでとはまるで違う反応だ。何か知っているのか?
「おかしな所は、その冒険者が襲われたって事なんです」
「それはどうゆう事ですか?」
今の医者の言葉を理解したのは誰も居ないと思う。まるで意味がわからない。
「だから人が人を殺したって事がおかしいのですよ」
「なんだそりゃ?それじゃまるで人は人を殺さないみたいな言い分じゃねーか」
黙っていた竜真さんが聞いた。
「えぇ。殺しませんけど?いや殺す殺さない以前の問題で。そもそも犯罪なんて言葉は昔の本に載るような言葉ですよ?」
一体何を言っているのだろうか?この世界の人は、人を殺さないのか?
それどころか犯罪すらも起こらないのか?そんな事ありえない。
人は分かっていても犯罪を犯すし間違いをする。時には人を傷つけて、時には傷つけられる。その繰り返しが歴史になる。
でもこの人が言っているのは犯罪はある時ポツンと無くなったみたいな言い分じゃないか。犯罪が無くなるなんてそんなの人間と言えるのか。
「それで、どうかしましたか?」
「いえ」
返しの言葉が見つからない。この人が言う事が本当だとしたら凄い事だ。犯罪がない世界なんて理想じゃないか。
「ねね、ここもその液体で体を治してくれるの?」
「そうですよ。この液体を数滴垂らせばどんな病気や怪我だってたちまち治りますよ」
「お~なるほど」
シュキーン。その言葉を吐いた風舞希は直ぐ様竜真を斬り、竜真に血を吐かせた。
「何やってんの風舞希」
「本当に治るのかなって」
「治るのかなって、竜真さん死にかけてるんですけど。もし治らなかったら取り返しつかないんだけども」
「大丈夫大丈夫。その時はその時はだよ」
「それ人生失敗する人間の言葉なんだけど。すみませんこれ治りますよね?」
「治るには治るけど、こんだけの傷だと相当なお金掛かるよ?」
「な、なんだと……」
「風、風舞希?」
「さ~てどうしようかな~」と僕から目をそらしながら言う風舞希。
「どうしようかな~じゃないでしょこれ!だから言ったんだよ余計な事はするなって!竜真さんこのままだと死ぬし、でも治すお金もないしどうするんだよ」
「だって。だって。傷が治る所見てみたかったんだもん」
「それならこんな意識不明の重体に成る程斬らなくていいだろ」
「あ~なるほど」
と手の平に拳を乗せ、ポンと打つ風舞希。いや、事の重大性に一切気付いていないじゃん。竜真さんにとっては今、人生の波に飲まれかけている所なんだけど。
僕らが、いや僕がどうしようかと困っているとそこに一人の女性が来た。その女性を見た時、なんて美しいのだろうと思ってしまった。
彼女を表すなら女神。そこ言葉が似合う人間は他には居ないと見ただけで思ってしまった。
「あの~、もし良かったら代金は私が持ちますので、その方を治してくれませんか?」
な、なんと見た目だけで無く、心まで女神とは。この女性がここでお金を払った所で何一つ彼女に取っては得が無いのに払ってくれるなんて。人間損得感情だけで動く訳じゃないと改めて教わった気がする。
「いいんですか?」
「はい、宜しくお願いします」と僕達に笑顔を向け、医者に頭を下げる。
「分かりました」
と医者が液体を竜真さんの深い斬り傷に5滴程垂らす。すると風舞希の服を直した時同様に竜真さんの体が光だし、傷が無くなってゆく。
「あ~~~!」
竜真さんから声が出る。そして光は無くなり、傷は完治した。
「危ね~、死にかけた」
「竜真さん復活したみたいですね」
「良く分かんねーけど、気付いたら綺麗な川をクロールしてた。」
「なんでクロール?どんだけ早死にしようとしてるんだよ。あの世まっしぐらじゃねーか」
「竜ちゃんごめんね」
らしくもなく風舞希が素直に謝っている。今回の事はそれなりに悪いと思っているらしい。やっと君も人道を歩みだしたか。
「アッキーが竜ちゃんにイタズラしようとして、アッキーが竜ちゃんに斬りかかったのを私、止められなかった。だからゴメンね」
「そうなのか?まったくガキのイタズラは困るぜ。今回は運が良かったからどこも怪我しなかったけど、怪我してもおかしく無いことをしたんだからな。反省して今後しないように」
「先生キャラなの?竜ちゃん」
そう。風舞希がこんな事で反省するような女じゃ無かった事を今一度確認した僕だった。
「怪我が治って良かったですね」と竜真の方を見てニッコリする女性。
セニョリータ。
「なんて美しい女性なんだろう。まさしく君は野原に咲いた1輪のバラ。その美しく白い肌。透き通るような目。そして芸術の様な体のライン。あぁ僕は君の虜になってしまった」
どこからか持ってきた赤いバラを耳に掛け、加工した様なイケメンフェイスで躍りながら口説く竜真。
「まぁ!情熱的な方」
「ありがとうございます。僕の情熱は心だけではありませんよ?」
「そうなんですか?」
「えぇ。それが知りたかったら一緒に参りましょう。僕達の城。ドリームキャッスルへ」
「どこに連れてこうとしてんだ!ドリームキャッスルって夢の城じゃねーか」
「竜ちゃん。初対面の相手には純粋のフリをしてないとモテないよ?」
「まじか!?」
「まじかじゃねーよグズ」
「あらあら皆さん元気が良いですね」
その女性は竜真さんの手をぎゅっと握った。
「貴方の情熱、とても素敵です。その情熱を他の事にも使ってくれると私は幸せです」
それを言われた竜真さんは立ち上がり。出口の扉の前で立ち止まった。
「そうですね。僕も心が切り替わりましたよ。なので掃除でもしてきます」
「かーーー」「かーーー」
そのありえない竜真さんの言葉に僕も風舞希も顎が外れる程驚いた。
どんな事をしても落ちない汚れの塊で出来たようなあの男をたった一言で綺麗に。この女性一体。
「あ、貴女一体」
「何者?」
その美しい女性は立ち上がり、人間とは思えないくらいの美しい笑顔で
「私はマリア。この街で鍛冶屋を営んでおります」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます