第4話 侍が持つ心剣

僕たちは村に着いた。村は木で出来た古い家がたくさん並んでいた。

「らっしゃいらっしゃい!安いよ安いよ」

「そこのお兄ーさん、腹減ってない?美味しい肉入ってるよ」

「なんか商店街って感じで、和みますね」

「そうか?勧誘がうるさくて耳にタコ出来そうだぜ」

竜真は耳をほじりながらめんどくさそうにする。そこに一人の人が近づいてきて「あの~すいません。うちでご飯食べていきませんか?」

「あぁ?勧誘とかそうゆうのは………なんでもどうぞ」

竜真は美人の店員さんと分かるなり、発言を180度方向変換した。

「ちょっと竜真さん、来たばっかなのにいきなり休憩なんかして良いんですか?もし今綿を襲われたら、ミッション失敗ですよ?」

「大丈夫だ、今は来ない。それよか風舞希は何処行った?」

「あれ?さっきまでここに居たのに」

僕は後ろを振り返った。すると風舞希がとんでもない量のまんじゅうや団子を持ちながら食べていた。

「は~む、ん~美味しい、口がとろける~」

「あの風舞希お嬢様?そのまんじゅうとかってしっかりお金払った?」

今の僕と風舞希のカードには5千円しか入っていないので、とてもその量を買えやしない。それに殺し屋をして稼いでいた金は、金銭として貰っているのでこの世界では使えない。

つまり

「え?お金?まったくアッキーはそんなんだから駄目なんだよ。人間、お金なんかに縛られてちゃ楽しく生きてはいけないよ?」

「このバカがーー!どうしてそんなにホイホイ犯罪を起こせるんだ」

「コラーーそこの泥棒!」

風舞希から食べ物を盗まれた店の店主が追いかけてきた。それに続いて村の人達が一斉に僕らを捕まえに来る。

「やべーぞ。まじで来たじゃねーか!風舞希!テメー何してんだ」

「何してるって、食べ物ご馳走になっただけだよ」

「やばいです竜真さん。村の人達が目の色変えて追っかけてきます」

「とりあえず逃げる?」

「そうだね」

僕らは走って走って逃げた。なんでいつもこんな目に。竜真さんは到着したばっかなのに休憩しようとするし、風舞希は犯罪してるし、やる気あるのかお前たちは。異世界で指名手配なんて冗談じゃねー!

「ハァハァハァ、なんとか振り切りましたね」

「まったく、こんな状態にした人は切腹だよ」

「それはテメーだ風舞希」

僕らは曲がり角を曲がった所の小屋に逃げ込んだ。

「何処だー!」

「必ず見つけ出して死刑だ」

「お前はあっちを探せ!俺はこっちを探す」

「りゅ、竜真さんなんかとんでもない事になってますね。それに強盗で死刑って、野蛮な世界なんですけど」

「そうビビるな。俺らは冒険者だ。あのカード持ってるか?二人とも」

「持ってますよ」

「うんあるよ」

風舞希はこんな状況でもお菓子を食べ続けている。

「このカードはクレジット機能以外にも冒険者としての証明にもなる。つまり!このカードを見せれば俺らはチヤホヤされる訳だ~。よし着いてこいお前ら」

「いいんですか竜真さん、いいんですかそんなカードには期待して」

竜真に続いてアツキ、風舞希が外に出る。

「お前らこれを見やが…」グサ

「竜真さんーー!!」

竜真はカードを前に出し見せつけたが、速攻矢を頭に射たれて血を流して倒れたのだ。

「そのカード役に立ってねーじゃん。秒で矢射たれてるじゃねーか。風舞希、竜真さん持つの手伝って」

僕と風舞希は竜真さんの肩を持ち、村人から走り逃げた。

「ハァハァ、大丈夫ですか?竜真さん」

「え?何が?」

「何がじゃねーよ、頭に矢刺さってただろうが」

「フン、お前何年前の事言ってんだよ」

「今さっきだろうーが!」

「アッキー。竜ちゃんの頭は前からフーフーしないと役に立たないのに、物理的にもダメになったからそろそろ捨てだね」

「誰の頭がファミコンだ!」

ハァ~。まったくこの世界に来てから大変だな。ただ畑を守る仕事なのに、仕事場にすら着けないしこれからどうしたら。そんな事を悩んでいると村を外れた所に家があるのが見えた。

「竜真さん風舞希、あそこの家行きませんか?あそこなら強盗の事知らないと思うし」

「俺は行かね~、ただでさえこんな目に合ってるんだ。もうこの世界に用はねーから帰る」

「竜~ちゃ~ん、借金は竜ちゃんの生命保険でいいかな?」

竜真さんを脅し、連れて行く事に成功した。

「ごめんくださ~い」反応がない。

「ごめんくださ~い。あれ?居ないのかな」

「おいおい、ここまで歩かされて留守かよ。もう中勝手に入って休んでようぜ」

「そんなの駄目ですよ。また犯罪するんですか?それに鍵も掛かってますし」

まったくこの人は、本当にめんどくさがりやなんだから。

「あ~そうだ良い事思い付いた」

風舞希が目をキラキラさせて、まるで謎解きの答えが分かった時の様に自信に満ちている顔だ。

「鍵が開かなければこうすれば」ドカ~ン!!

「何が良いことだー!さっきの悲劇をもう忘れたのか!」

風舞希は拳で扉を破壊したのだった。

「いや~こっちの方が楽だと思って、よくテレビで開かずの扉とか開けるやつあるじゃん、あれって鍵穴を皆開けようとしてるけど、こうやって扉を壊せば楽じゃない?」

「楽じゃない?じゃねーよ!何も分かってねーじゃねーか!」

「は?なに言ってるんだ?アツキ、そっちの方が楽だろ」

「竜真さんまで何言ってるんですか!あれは扉を壊さない様にって言う親切心があるんですよ」

「親切心?笑わせやがって。そんな心でATフィールドを開けられる訳ねーだろ。何かを達成したい時は何かを犠牲にする覚悟が必要なんだ。」

そのふざけた話をなるほどなるほどと、風舞希が聞いていた。

「何訳の分からない事言ってるんですか。あんたらはまず扉の開け方から勉強してください」

「はいはい、うっしゃー入るぞ」

竜真さんに続いて僕達も家の中に入って行った。

家の中は薄暗く見えづらい。目の前の廊下を歩き、竜真さんが突き当たりの襖を開け、部屋に入ったその時。部屋に隠れていたと思われる人がいきなり竜真さん目掛け刀を刺しに来た。

グサ!っと言う効果音は聞こえなかった。聞こえた音は、刀が折れる音だった。

「おいおい、いきなり何すんだよ。当たったら痛てーだろうが」

いや痛いじゃ済まないだろ。でも確かに竜真さんの超人的な体を考えると、死ななそうだ。

その男は折れた刀を見て高笑いをした。

「はっはっはっはっはっ」

「なんだコイツ」

「いやーすいません、さすが冒険者と言った所ですな。ささ中へどうぞ」

「お邪魔しまーす」

と竜真さんと風舞希が中へ入って行こうとした。

「いやいやいや、ちょっと待ってください。いきなり殺しに来た人の家に上がるなんて危なくないですか?」

「そうか?だって俺より弱いんだぜ?」

「そうはそうかも知れないですけど」

僕も仕方なく二人に続いて部屋に入っていった。僕達は丸いテーブルの所で座った。

「ささ飲んで下さい。この村で取れる美味しい茶葉です」

「いやーなんかすいません……」

僕はそのお茶を見て確信した。それは竜真さんも風舞希も同じ気持ちだった。

「おいジジイ!なんだよこの紫色の飲み物は!どう見ても毒属性MAXだろこれ。なんなの?どんだけ俺らを殺してーんだ」

「ゴクゴクゴクゴク」

「へ?」

僕と竜真さんは視線を風舞希に持ってくる。

「あの~風舞希?それ何飲んでるの?その飲み物、自分で持ってきた物だよね?この家で出された飲み物じゃないよね?」

「え?」

「えじゃねーよ!お前そんな物によく騙されるな!今までよく生き残ってたな」

紫色の飲み物を飲んだ風舞希の体はすぐに反応した。

「チッ罠だったのか」

風舞希の体は痺れ動けなくなってしまったのだった。

「お前の視覚はどうなってるの?お前の頭はどうなってるの?完全に思考回路ぶっ壊れてんだろうーが」

完全にやられた。どうにか解毒してもらわないと。僕は営業マンの様に解毒の交渉を始める事にした。

「あ、あの~。この村の人達は野蛮と言うか、何で僕達の命を狙ってくるんですか?」

この村では特に悪い事はしていない。強盗はともかくそれだけでこんなに命を狙われるのはおかしい。竜真さんは頭に矢を射たれるし、強盗の事を知らない人がいきなり刀で刺しに来るし。しまいには毒まで盛ろうとされたし。こんな村いくつ命があっても足りねー。

「それは貴方達が冒険者だからですよ」

「そ、そんなに冒険者が嫌われてるんですか?」

するとその男は驚いた表情をし

「なに言ってるんですか。その逆ですよ逆。皆冒険者に助けて欲しいから奪い合いになるんですよ」

「へ?」

僕と竜真さんはその言葉の意味がわからなかった。

「逆ってどうゆう事ですか?さっぱり話が理解出来ないんですけど」

「私達は綿を作り加工することで生計を立てている綿職人なんです。綿職人は綿を作り、加工して布団や枕と言った日常生活に必要な物を作っているんです。おかげでこの村の綿は高級品となり生活が豊かになっていきました」

生活が豊か?なんかこの村の家を見ると、とても豊かとは…。そう思ったが僕はその言葉を飲んで話を聞いた。

「しかし綿の収穫時期になるとその綿畑をめちゃくちゃにする輩が居るんですよ」

それはお菊さんに聞いた話と同じだ。

「それで困っていた時、冒険者を名乗る人が助けれくれたんですよ。それから毎年誰かしらの冒険者が来て助けてくれるんですが、冒険者と綿畑の数が合わなくて、冒険者の取り合いになってしまうんです」

「冒険者の取り合いはなんとなくイメージつきますけど、それがなんで殺しに繋がるんですか?」

毒盛りに刀で串刺し、どれも立派な殺人未遂だ。

「いや、それは怪我をさせて自分の家に引き込むために…」

「あの、すいません冒険者そんなに不死身じゃありません」

「え?!」

「えじゃねーだろジジイ!俺だって人間だ。腹は減るし糞もする」

「えーそうなんですか!」

その男はまるで信じられんと言わんばかりの顔をして驚いた。

「ったりめーだろ!なに?お前らは冒険者をキョンシーか何かだと思ってたの?」

「竜真さん、その例えは懐かしいです」

「驚きました。まかさ冒険者が私達と同じ人間だったなんて、はっ!」

その男は何か大変な事に気付いた顔をした。その顔は何か嫌な事が起こりそうな顔だ。

「ど、どうしたんですか?なんかその顔怖いんですけど…」

「ジジイ、お前なんか忘れてたんじゃねーか?それに床の下からカチカチ音がするんだけどその顔とは関係ないよな?」

その男は親指を立て、優しい笑顔で「グッドラック」と言った。

家ごと吹き飛ばされた僕らは奇跡的に無事だったが黒焦げアフロになってしまった。そしてその爆弾を仕掛けた張本人も黒焦げアフロになるだけで無事だった。

「これからどうしますか?」

「とりあえず、このジジイをバラしてから考えてるか」

「バラすなら私やりたーい、バラすなんて久々だな~。一人用のショートケーキくらいにする?」

刀を抜き準備をする風舞希。それを止める人は居なく、アツキも竜真も目がギランギラン光らせて見ていた。

「ちょ、ちょっと待ってください。怒るのも分かりますがここは勘弁してください」

「命乞いなんて、分かってるじゃんおじさん。これで準備は整ったね」

風舞希が刀を振り上げ斬ろうとしたその時。

ドンドンドンドン。物凄い人の足音がこちらに向かってきた。

「居たぞ!冒険者だ!」

「捕まえろ!俺の家で休ませる」

「先駆けするな!冒険者は俺達の者だ」

さっきの村人達が一斉にこちらに向かって来た。

「来たーーーー。やべー奴ら来たーーー」

「なんでいつもこんな絶妙なタイミングで邪魔が入るんだよ。この物語の主人公だぞ!思い通りにさせろよ作者」

「誰に怒ってるんですか竜真さん!そんな事言ってる場合じゃありませんよ?」

「ねね、二人とも」

風舞希が僕達を呼び止める。何か良い作戦でも思い付いたのだろうか?

「この服、可愛くない?」

笑顔でクルリと回り、スカートがひらりと踊る。とても可愛らしい。いやそうじゃなくて…

「今言うことか今!」とアツキと竜真にツッコまれた風舞希だった。

「えーだってだって。今見てほしくなったんだもん。ねー答えてよ、アッキー、竜ちゃん」

僕たちは風舞希の話を無視し、考えるのであった。

「どうしますか竜真さん、走って逃げるにも限度があります」

「なら私が助けましょう」

僕たちを爆発頭にした張本人が言い出した。僕達ももう爆発頭ではなくなっていた。前に竜真さんが言っていためんどくさい設定なのだろうか?

「皆さん手を繋いでください」

「手を?なんで」

「良いから早くしてください。本当に殺されますよ?」

「しゃーねーな!アツキ」

「はい」

「風舞希も来い」

4人で手を繋いで並ぶ。風舞希は相変わらず騒いでいる。するとその男がスーと息を吸い大声で怒鳴った。

「この冒険者は私の者です」と言ったのだ。

するとこっちに向かってきた走っていた村人達が動きを止め、やれやれと肩を落とし村に帰っていくのであった。

「ジ、ジジイ」

「どうゆう事ですか?」

「この村にもルールがあって、冒険者の腕を持ち自分の冒険者と言えば、他の人はその冒険者には手出しは出来ないと決められているんです」

「冒険者って何?ペットか何かか?」

「それでその助けたお詫びと言うか、私の畑を守ってくれませんか?」

「んな事やるわけねーだろ、こっちはお前達に殺されかけてるんだぞ」

「そこをなんとか。あっ、なら礼金を渡すんでどうですか?」

「喜んで」と即答した竜真さん。なんとか仕事をはじめる事が出来たのだった。

「申し遅れました私伊藤と言う者です」

「僕は海藤アツキです。こっちの二人は坂本竜真さんと風舞希です」

僕らは自己紹介を終えた後、伊藤さんの持つ綿畑へ向かった。

「わ~、凄い広いね」

「こう見えてもこの村で一番広い綿畑の持ち主でして」

その綿畑の広さはどれくらいだろうか?一体いくつ東京ドームが必要になるか?そのくらいの広さだった。

「なんかスゲーな。要はこの畑を守れば良いんだろ?」

「はい、ここを守って頂きたいです」

「でも竜真さん。こんなに広いと守りきれないんじゃないんですか?僕らたった3人じゃ」

「それならご安心下さい。ちょっと着いてきてもらえますか?」

僕らは言われるがままに伊藤さんに着いて行き、綿畑の外周を歩いた。数十分歩いた所で伊藤さんが止まり

「止まって下さい。あそこに森が見えますか?」と指を指した。

その方向には大きな森があった。その木一つ一つは高さ60m程あるだろうか?樹海と呼ぶには充分過ぎるサイズだった。

「奴らはあの森のある方角からやって来ます。なのでここで待ち構えれば」

「散り散りになる前に殺れるって事だね?」

「はい。そしておそらく奴らはもうじき来ると思うのでこれを」

そう言って僕らに弓矢を渡した。弓なんて使った事ないけど出来るのだろうか?

「竜真さん、弓より剣の方が良くないですか?」

「なに言ってんだ?数が多い時は遠距離からの攻撃の方が有利に決まってんだろ?囲まれたら終わりだからな。弓で数を減らして残りを刀で仕留める。こんな感じだな」

「なるほど、確かにそうですね」

そんな話をしてると、なにやら後ろからブン!ブン!とまるでバットで素振りをしてるような音がしている。僕が振り返ると風舞希が矢を刀のように振っていたのだ。

「あの竜真さん。弓矢の使い方一切分かってない人が居るんですけど。とりあえず物を持ったら振り回す系女子が居るんですけど」

「心配するな、笑いを取りたくなる年頃だからな。いざ戦いが始まればしっかりするさ」

「そそうですかね?」

「そろそろ来ますよ」

いきなり伊藤さんが言い出した。そろそろ来るってなぜ分かるんだろう?この地に長く住んでると分かるものなのかな?そんな事を不思議に思いながら森の方を見ていると。

森の方がなにやらザワザワしている。それに鳥が森から飛んで出ていくのも見える。そしてその地震のような地鳴り。僕はこんなシチュエーションの映画を観たことがある。その映画にこんな感じに登場するのは。

「あ、あ、あ、あれってもしかしてもしかして」

「なんだ?お相撲さんとかが歩いてるのか?」

「んな訳ないでしょ!この地鳴りは」

森から姿を表したのは子供の頃に皆が憧れる恐竜だった。憧れ?憧れってどんな意味だっけ?今僕が感じるのは恐怖!以上。僕は今出来る精一杯の声で

「恐竜じゃねーか」と叫んだ。

「どうなってんだよジジイ!恐竜なんて聞いてねーぞ。俺はてっきり強盗とかと思ってたのになんでこんなにデカいんだよ!なんでまだ絶滅してねーんだよ」

竜真は伊藤の胸ぐらを掴みながら言う。

「強盗なんて言いましたっけ?この綿はあのモンスター、ガルルの大好物なんです」

「んな事知るかーー!」

「ガルルって竜真さんが昔仲間にしようとしてた危険指定生物なんじゃ」

「そ、そうだったな?」

竜真さんは何故か僕達より前に行き、ガルルに向けて頭を下げた。

「俺達の仲間に入りませんか?」

「……」

ガルルがいきなり叫び出し、走る速度を上げてきた。

「何やってんですか?早くどうにかしないと全員地面と同化します」

アツキ達が戸惑っている中、ガルルに光の目を向ける者もまた居た。

「わ~~。なんて美味しそうなの! 竜ちゃんアッキー!あれ倒して焼き肉にしようよ!あんだけ大きいと何日分食べられるかな?当分は焼きパだ焼きパ」

「お前に脳ミソはないんかーい」

「やばいですよ竜真さん、30匹近くは居ますし、もうじきここまで来ちゃいます」

「クソ、四の五の考えても駄目だ。やるしかねー」

竜真さんは弓を引き射つ準備をする。でもあんなデカいの弓なんかで倒せるのか?ここに住んでる人間は弓であのデカいモンスターを倒せると思っているのか?バカにしすぎだろ。仕方なく僕も弓を引く。

「アツキ、1,2,3で同時に射つぞ。狙いはあの先頭走ってるやつだ」

「了解」

僕と竜真さんは狙いを定める。

「よし、1,2,3」

僕らが放った2本の矢が一体のガルル目掛けて飛んで行く。矢はそのまま一直線に飛んで行き、見事ガルルに当たった。が刺さりすらしなかった。

「やっぱ無理じゃねーか!こんなのあの牛を狩るゲームモウハンで解毒薬忘れて毒食らった時くらい無理ゲーだろこれ」

「例えがいまいちなんですけど」

「ねね!二人とも見て見て、やり投げ」

「へ?」

「いち、にの、さん」

風舞希は矢をやり投げの様に投げた。その速度はとてつもなく人間離れしたスピードだった。

矢はガルルに命中したが刺さりはしなかった。と言うかガルルの体を突き抜けたのだ。体に穴が開き、崩れ落ちるガルル。

「やった!やった!ストライク」

喜びながらジャンプをする風舞希。

「さ、さすが風舞希だ。アツキ俺らもやるぞ」

「うぃっす」

僕らはそこから矢を投げ続けた。

こっちに向かってくるガルルを倒すまで投げ続けた。最初は中々当たらなかったり当たっても威力が弱かったりしたが投げてるうちに上手くなっていった。

竜真さんに至って首を振ったり、牽制球を投げる程成長していった。

「あの~冒険者様?弓矢ってそんな風に使うんでしたっけ?」

「俺らの世界ではこうやって使うんだ。お前らも、今度からは俺らに頼らなくて良いようにチェンジアップくらい覚えとけ」

「チェ、チェンジアップ?」

竜真さんってこんな野球好きだっけ?全然知らなかった。

「風舞希!」

「はーい」

「いくぞ、おりゃーー」

竜真は風舞希の方角を向き、上に思いっきり投げた。矢はそのまま風舞希を目指して落ちてくる。風舞希は一流外野手の様にボールを見つめる。いやボールではなく矢だった。

風舞希はその場で足を左、右とジャンプして、矢の棒の部分を掴み、ガルルに投げ込んだ。見事命中し、ガルルは地に顔を落とした。

「よっしゃーアウト」

「てめー俺の事煽ってんのか?フライを取るとき三角ボタン押しただろ」

「あんたらさっきから何の話してんですか」

ガルル達はほぼ鎮圧し、こっちに向かってきているのは一匹だけになった。

「あと一匹か、アツキ」

「はいはい、分かってますよ」

アツキはキャッチャーの様に座り、構える。竜真は アツキの手を目掛けて投げ込んだ。がその瞬間、風舞希が

「スチール」と叫んだ。

アツキは矢をキャッチした後すぐに持ち替え投げ込む。その矢は重力を完全に無視し、一直線にガルルの体を貫いた。

「やった~、アッキーキャノンだ」

僕らはこんな茶番をしていながらもガルルの殲滅に成功した。

「なんとか勝ちましたね」

「俺、プロ目指そうかな」

「無理ですよ」

「やっぱそうか、あはははは」

僕らは勝ったと言う喜びから、無意識に笑顔で盛り上がっていた。

「あの~喜んでいる所申し訳ないのですが」

「はい?どうかしました?」

「実はまだ終わってないんですよ?」

「は?」

「さっきのは第一派で、これからまた同じ数くらい第二派が来ると思います」

それを聞いた竜真は「よし、帰るぞ」と即答した。

「ちょっと待ってください。あとこれだけで終わりなんです。だからお願い致します。報酬も増やすんで」

「よしやるぞ」とまた即答した。

まったくこの人はどんだけ金なんだよ。

「竜真さん。大丈夫なんですか?さっきは上手くいきましたけど、今回も上手くいくとは」

「相変わらず心配性だな。第二派って言っても、数は一派と同じくらいって言ってたし余裕だろ」

伊藤さんに聞こえないくらいの声で話していると風舞希が

「そうだ、待ってるんじゃなくてこっちから攻めれば良いんじゃない?私、行ってきまーす」

「ちょっと待てーい」

森の方へ消えていった風舞希。

「大丈夫なんだろうか」

「大丈夫大丈夫。アイツは腕だけは確かだから、死にやしないだろ。それに運が良ければアイツが森で全部倒してくるかも知れないしさ」

「そうですね。そうなれば僕らも楽ですね」

「そうそう…ん?」

なんだ?この振動、何か見に覚えがあるような。てか今さっきこの振動を味わった気が…

「って結局こっちにまた来てるだろーが!風舞希は何やってんだよ」

「でも竜真さん。数はさっきと同じくらいだし、なんとかなるかも知れないですよ」

「そうだな、とりあえず矢を投げまくるぞ」

そこから僕達は矢を投げ続けた…がなんとガルル達は次から次へと森から姿を表してこっちに向かってくるのであった。

「どっなってんだー!倒しても倒してもキリがねーじゃねーか、もうさっきの倍くらい来てるじゃねーか」

「おかしいですね~…変ですね~…」

「伊藤さん。どうなってんですか!さっきと同じくらいって言ってませんでした?もう矢が無くなっちゃうんですけど」

「もうこっちは矢がねーぞ」

「こっちもなくなりました」

「やべーよ、どうすんだよこれ。全然勢い無くならねーじゃねーか」

「ん~、まさか」

「まさか?」

「あの森にはガルルの集団がそれぞれ、北、東、南、西と4つの集団があるんですが、基本こちらに来るのは北のガルルだけなんです。もしかしたら何かしらの理由ですべてのガルルがこっちに向かって来ているのかも知れません」

「そんな話聞いてませんよ。それに理由って」

「おいアツキ、原因分かったぞ」

竜真さんがそう言ったのだ。一体何が理由で全てのガルルが来ているのだろうか。竜真さんが見ている方角を見ると

「突撃~!」

「ガーーー」

風舞希が一体のガルルに乗って、ガルル達を引き連れて突撃してきていたのだ。

「何やってんだテメェーーー。早くも仕事放棄か風舞希。お前どっちの味方なんだ!完全にターザンじゃねーか」

「風舞希。そこから降りて!このままじゃ仕事失敗で報酬貰えないよ」

「そうなの?それは困るな~。よしこれからはガルル絶滅計画を執行するよ」

風舞希はガルルの背中から上に向かって飛び、刀を抜き回転しながらガルルをぶった斬った。

「やっぱり私は人を動かすより、自分が動く方が好きみたいだね。今回は人ってよりモンスターだけど」

「風舞希。よっしゃー俺らも行くぞアツキ」

「はい!」

「ま、待って下さい。あの怪物と生身で戦うんですか?それは正直言って勝算は低いと思うんですけど」

「おっさんよ。侍は一本の刀があればそれだけで充分なんだよ」

竜真、アツキ、風舞希は刀一本で自分のウン十倍もあるガルルを討伐していった。

あれが侍。私の世界には存在しない生き物だ。本当に同じ人間なのか疑問に思うくらいに美しく生きている。あれだけ真っ直ぐ生きている人を私は見た事がない。彼らが言う刀と言うのは侍が持っている鉄の剣とは違うと思う。私が思う侍の刀とはその内に秘められている意思の強さだと私は思う。

「これで最後!」

風舞希が最後の一匹を倒し、綿畑を守りきったのであった。

「やった、やりましたー!」

「うっしゃー、今夜は宴だ」

「好きなもの食べて良い?好きなもの食べて良い?」

伊藤が喜んでいる三人に近づいて行く。

「お見事です。坂本さん海藤さん風舞希さん。これで今年の綿は確保出来ました。本当にありがとうございます」

「いえいえ、金が動けば何でもやるのが俺らなんで」

「ここでそんな事言わないでくれますか良い空気ぶち壊すから」

「やったやった。おじさんからいくら貰えるのかな?」

どんだけ金なんだよ。確かに金は大事だけれども、露骨過ぎるだろ二人とも。

「さてさて報酬を」

竜真さんが手の平を擦り合わせて言う。だから露骨だって。

「はい、もちろん払わせて貰いますよ。こちらに来て下さい」

僕らは伊藤さんに着いて行き、伊藤さんの家に戻ったのであった。

「こちらにカードを当てて下さい」

なんでこの世界観でそんな電子カード読み取り機みたいのが出てくるんだよ。場違いにも程があるだろ。

それにやっぱ冒険者カードは全世界で使えるようにはなってるんだ。そりゃそうか、難易度の高い仕事とかだと1日じゃ帰れないだろうし。

「じゃー僕から」

僕は一番に冒険者カードを読み取り機に当てた。ピピっとまるでチャージの様な音がなり振り込みが完了したみたいだ。

順番に風舞希、竜真さんと振り込みをし、報酬を貰った。果たしてこうやって現地の人にも報酬を貰うのはどうなのだろうか?僕らの世界に帰ればまた別でクリア報酬が貰えるし、結構な稼ぎになりそうだ。

「一人20万程振り込ませて貰いました。今回は本当に感謝しています。それでプレゼントしたいなって思いまして」

そう言うと伊藤さんはどこかへ行き、戻って来たときには茶色い紙で包まれた大きな物を持ってきた。風舞希がそれを受け取り「これは?」と聞くと

「それはここの綿で作った布団です」

「布団?!」

「はい、前も言ったように、ここ布団は高級で綿を育てるのに1年、加工するのに2年掛かる代物で布団となると一つ数百万はします」

「数百万?!」

布団が?ほぼボッタくりレベル値段じゃねーか。

「今回貴方達侍に救われたのでこれを差し上げます。大事に使ってください」

「やったー、私の布団だ~」

「おいなんでお前のなんだ?俺のだろ普通は」

「え?なんで?私の布団丁度朝、誰かさんのせいで無くなったし。この布団は私のだよ」

「誰のせいって、お前のせいでもあるだろ。それに俺はこの物語の主人公だぞ?こうゆう激レアアイテムはリーダーの物だろ」

「私のだよ」

「いーや俺のだ」

「私」

「俺」

「なんかすいません。こんな僕達がこんな高価な物を貰って」

「いえいえ、感謝するのはむしろこっちですよ。私達はガルルに勝てないと決め、冒険者を取り合っていました。でも貴方達が教えてくれた。後先考えずとりあえず突っ込むと言うことを」

いや~、それ駄目な考え方なんだけど…もっとひどいことになりそうだ。

「まぁ僕達は帰るんで、また暇な時にでも来ますよ」

「え?帰るってどこへ?」

しまったーー。口を滑らしたー。すぐどうにかごまかさないと

「帰るって言うのは冒険に帰るって事です。生きていればまたきっと会えますよ。では。ほら竜真さんも風舞希も行きますよ」

僕達は最初に居た小屋に戻り。誰も着いてきていないのを確認したのち、転移しコノハ横丁に戻った。

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