情報交換


 街の大通りを歩いている間、私たちは事務的に必要最低限の情報を交換し始めた。


 今一番知りたいのは、この男が信用に足る男かどうかということ。その一点に尽きる。っていうかなんでこの男は私のことを疑ってないのよ。服装からして、ただの不審者でしょうが私は。


 親切にしてくれている手前、疑ってかかるのも失礼なのでとりあえず、当たり障りのないことを聞いておこう。


「あなたは、階級持ちですか?」


 この世界には,全種族共通の階級というものが存在する。階級とは、悪魔の対の存在である天使を参考にしたもので、悪魔討伐における役職に大きな影響を及ぼすものだ。


 第一級は熾天使(セラフィム)

 第二級は智天使(ケルビム)

 第三級は座天使(スローンズ)

 第四級は主天使(ドミニオンズ) 

 第五級は力天使(ヴァーチュズ)

 第六級は能天使(パワーズ)

 第七級は権天使(プリンシパリティーズ)

 第八級は大天使(アークエンジェルス)

 第九級は天使(エンジェルス)


 五年に一度行われる各種族ごとの祭典、大天舞大会の上位九名がそのままの階級に就く。彼らをまとめる語はいろいろあるが、基本的には単に階級持ちと呼ばれている。


 彼は先ほど馬車の手配と言っていた。となれば相当裕福な暮らしをしていると思ったのだが。


「いえいえ、そんな滅相もございません。私は少し金銭にゆとりのある一般人ですよ」


 彼は、首と手を同時に振ってその問いを否定した。そして、それだけだと不審がられてしまうと思ったのか、自身について軽く語り始めた。


「うちは父が優秀な鉄職人だったので、以前の大戦の際に飛ぶように品が売れたんです。それにうちの商品は、赤城様に大変贔屓にさせてもらっていたので、おかげで売り上げが加速しました」


 不意に出てきた名前が、彼女の胸をざわつかせる。


「赤城って……」


 そう呟きながら彼の顔に視線を向けると、彼は先ほどから何度も繰り返している笑顔を再び貼りなおして頷いた。


「そうです。赤眼の悪魔様です」


  俗にいう、〇〇モデルというやつだろう。スポーツ用品だって、有名な選手が使っているというだけでだいぶ売り上げは変わるように思える。それと同じようなものだ。ましてや一族の英雄が使っている武器となれば、宣伝効果は考えるまでもない。


「さぞ、立派な業物なんでしょうね」


 素直な感想をこぼすと、彼は何度も首肯した。


「はい。とても美しいものです。よろしければご覧になってください」


 刀について話しているうちに、屋敷と思しき建物が見えてきた。


「みえてきましたよ。あれが私の屋敷です」


 それを見て、金持ちの言うイッケンヤはこちらの認識する一軒家とは別の建物であると思い知った。

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