手掛かり
酒場を出た後、私は行く当てもなく街を彷徨っていた。
「やはり、無謀なことだったのかしら……」
赤眼の悪魔を探してはや三日。何の手掛かりもなく、資金も底をつきかけていた。今までは道行く人に尋ねたりしていたが、今ではその気力もない。ただ、このまま何の成果も得られずに帰るつもりもない。というか、私には帰るところがなかった。
「とりあえず、宿屋を探さなくては。見つからなかった場合のことも想定しないと」
野宿、あるいは親切な人と巡り合えるだろうか。それとも……。
私は負の思考回路に陥っていて、注意がおろそかになっていた。
ドンッ!
結構な広い道だというのに、男の人と正面からぶつかってしまった。
「「すみません!」」
お互いに尻もちをつくということはなかったが、男のほうが急いでいたのか、結構な速度だったので、なかなかのダメージだった。
「本当にすみません。急いでいたもので」
どうやら男は本当に急いでいたらしく、セリフもだいぶ早口だった。
「いえ、こちらこそ。私のほうもボーっとしていたので非があります。構わず、行ってください」
私がそう言って男の顔を見ると、男もこちらの顔を見ており、数秒見つめあう形になった。
「あの……」
「もしかして……」
かぶった……
沈黙の後互いに空気を読んで、男がセリフを続けた。
「あなたは、もしかしてここ最近、赤眼の悪魔を探していらっしゃった方ですか?」
私は驚きながらも肯定する。
「はい、その通りです。ところであなたは一体……?」
そこで男はハッとした表情の後、すぐに微笑みを携えて名乗った。
「私の名前は、赤星リクといいます。あなたを探していました」
男の容姿は、深紅の瞳とサラサラとした赤髪が特徴的で、端正な顔立ちでありながらも、どこか幼さを持った非常に愛嬌のある顔だった。少しやせ型だが、スラリとしていて、姿勢が良さからどこかの貴族のような風格がにじみ出ている。
「えっと……」
あまりに唐突すぎてどう答えるか躊躇っていると、少し気まずそうにした顔でリクと名乗る男が尋ねてきた。
「とりあえず、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
相変わらず笑顔の仮面を張り付けたままリクは手を胸に当てて、軽く会釈をする。
「私の名前は……」
言いかけて、ハッと思いとどまる。今ここで名乗ってしまうのは色々と問題がある。
リクは、疑問マークが顔に出ていたが、何も聞かずに、笑顔で続けた。
「では、場所を変えましょう。赤眼の悪魔のところにご案内いたします」
普段ならこの手合いは怪しいキャッチセールスと同様、素気無くあしらうのだが完全に手詰まりとなっているこの状況では藁にも縋る思いで承諾した。
「はい。よろしくお願いします」
これで駄目だったらどうしようかしら。
いや、もう先のことについて考える気力はない。
あまり過度な期待はせず、とりあえず流れに身を任せてみることにした。
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