19.中等部武闘大会決勝試合Ⅰ
「さて……と」
夜七時から行われる決勝試合に間に合うように、夜人は学園の第一決闘場を訪れていた。
当初はテレビで見れば十分だと思ったが、せっかくだからと思い、こうして現地に足を運んだわけである。
日が完全に暮れてライトアップされた決闘場。第一決闘場は、学園の決闘場で最大の規模を誇るが、それでも観客席はほとんど埋まっていた。
夜人は運よく二人で座れる席を後ろの方に見つけて、そこにティーナと並んで座る。
「へーっ、こんなに盛り上がってるんだね。すごーい」
ティーナは武闘大会で盛り上がっている学園を訪れてからずっと、興味の視線をキョロキョロと振りまいていた。
日も暮れているということで、当たり前のようにティーナは夜人に付いて来たのだ。
既に会場の熱気は相当高まっているようであり、観客たちの騒めきは止まらない。
少し耳を澄ませて聞こえる話題は、ほとんどが
まぁ彼女が注目を浴びる理由は考えるまでもない。
(実際に夜人は見た訳ではないが)実力の高さ、端正な容姿、他国からの留学中で
その堂々不遜な態度は敵も多く作るだろうが、少なくない支持者を得るだろう。
(でも、春風さんと違って女子よりも男子に人気が出そうだな……)
おそらく今朝のインタビューで一気に知名度が上がったと思われる。この武闘大会という催し、ある所まで勝ち登ればこうして一躍有名になることもあり得る。
そうすれば魔道騎士団からの推薦を受ける可能性も自然と上がるのだ。
『――さてさてっ! 皆さん盛り上がってますかっ!? いよいよ中等部武闘祭っ、決勝試合十分前となりましたっ』
唐突として、決闘場ドーム天井付近から、アナウンスの声が響き渡った。
この騒がしい決闘場内にも、ハッキリと聞き取れる澄んだ音声だ。
『ここで
快活な少女の声に押されるように、少し客席の騒めきが静まった。
『はぁいっ。それでは今から開始される決勝試合っ。この場にて勝負する二人を紹介したいと思います!
一人は中等部三年生っ。風の魔法を得意とするイケメン男子っ、
ワァァァッと、アナウンスに応えるように会場が沸く。
丁度夜人の席から見て、真向かいにある巨大スクリーンに、決勝に出る風上俊と思しき男子生徒が戦闘している映像が映し出されている。
おそらく昨日と今日で彼が出場した試合の映像であろう。
どこからかキャァァという少女たちの黄色い声が聞こえた。
(ふむ、確かにイケメンだな。あれで実力も高かったらそりゃモテるだろうな)
「うーん、そんなにカッコいいかなぁ? お兄ちゃんの方がずっとずっとカッコいいと思うけどなー。そう思わない? お兄ちゃん」
「いや、それを俺に聞かないでくれ……」
非常に答えにくい質問をされて、夜人は困惑する。
「うんっ。絶対にお兄ちゃんの方がカッコいい。みんな見る目なさすぎ」
どうやら自己完結したらしく、うんうんと頷いているティーナ。それを見て、夜人は小さく苦笑した。
『――さぁてっ、お次に紹介いたしますのは、もちろん風上俊くんの対戦相手! こちらも中等部三年生。なんとディール連合国からの留学生の
スクリーンに映し出される映像が、俊のものから、かえでのものに切り替わる。だが、何故か彼女が戦闘している様子はほとんど映されず、試合開始前に客席に手を振っている様子や、インタビュー時の映像ばかり流される。
(一瞬で終わるから戦闘時の映像がないのか……? いや、それにしても……)
『彼女の得物は
そしてっ、先ほど入った情報ですが、どうやら彼女は、この学園の高等部に想い人がいるみたいです! その先輩のために決勝を戦ってくれるようです。うーん、非常に面白いですねっ。そしてなにより、かえでちゃんの様な可愛らしくて強い子に慕われる先輩というのが、私非常に気になりますっ!
せんぱーいっ、会場に見に来てますかーっ?』
また、ワァァァという声が沸いた。
「……」
「へー。誰なんだろうねお兄ちゃん、ティーナたちの近くにいるかな?」
ティーナは無邪気にそう言って、キョロキョロと周囲を見渡す。
「……さぁ、誰だろうな」
『はいっ、それではまだまだ話足りない所ではありますが、試合開始三分前となりましたので、ここで選手の入場ですっ!』
アナウンスがそう言うと、夜人がいる方の客席の下から一人の少年――風上俊がフィールドに入ってきた。
キャァァという黄色い声が何処かより聞こえてくる。
それに少し遅れて、夜人の真向かい、巨大スクリーンの真下から
彼女は両手を振って観客の声援に応え、同時に笑顔も振りまく。狐耳がピンと立ち、僅かにピクピクと震えている。もふもふの大きな尻尾が、彼女の背後でゆっくり揺れていた。
仕草の一つひとつに愛嬌があり、引力のように人々の視線を惹きつける。
そんな彼女だが、一瞬だけ夜人の方を見て、満足そうにくすりと微笑んだ――そんな気がした。
(気のせいだよな……)
「……今、あの女、お兄ちゃんの方見た?」
冷えた声でティーナが言う。
「き、気のせいだろ。ほら、それより試合が始まるぞ」
夜人が視線をフィールドの中央に目を向けると、俊とかえでが一定の距離を置いて向かい合い、審判の指示に従って
俊の手には極シンプルな小太刀が握られ、かえでの両拳には
かえでは両の
俊はその視線に真っ向から応え、軽く腰を落として中段に小太刀を構える。
「――――試合開始っ!」
審判の合図が掛けられ、試合が始まった。
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