第25話「合流」
「なんだってんだこのサイレン! また何か起こったってのかっ!? おい、QB! 詳細な情報をくれ!」
関東全域に響くサイレンを耳にし、カエデがT-LINKに向けてがなりたてる。
『こちらQB。たった今、統治局より緊急連絡が入り、関東区域の全ゲートが開放に向けて稼働しはじめたことが確認されたそうですわ』
「なーっ!? つーことは、ここと同じことが関東全域で起こってるってことかよっ!?」
「マジで? 人類最後の日って今日のことなん?」
「縁起でもねーこと言うなよユイナぁ……」
『ユイナさんの感想も尤もですが、まだ気が早いですわ。ですがこのまま手をこまねいていては、そうなってしまうのは明白でしょう』
『リオン、どうしてこんなことになっているのか、説明してくれる?』
ミコトの状況確認の問いにリオンが答える。
『統治局からの情報をT-LINKで共有します。詳細はそちらを確認して頂くとして、今、早急に伝えなければならないことは一つ。関東全域のゲートが開放されている原因は、わたくしたちの目の前にある九番ゲートの防壁管制室ですわ』
『九番ゲートの防壁管制室から関東区域の他のゲートに対し、全門開放のコードが発信されてるみたいなんだよー』
補足するようなリリィの説明に、サヨが珍しく口調を荒げる。
『はっ!? なんでそんな危険なコードが存在してるんですか? バカですか? 統治局バカ過ぎませんか? 死ね無能役人ども!』
『あははー、まぁサヨちゃんの怒りも分かるんだけどね。これ、実は厳重に封印されてたコードなんだよね。使用されたのは今まででたった一回。防壁完成とともに各地域の避難民を受け入れるときに使われたコードなんだよー。封印は各機関が厳重保管しているコードを入力した後、5秒以内にカードキーを同時に挿入するってものなんだけど……それがどうやら強制解除されたっぽい』
「なんだそりゃ? そんなこと普通にできるのかよ?」
『んー、リリィぐらいのハッキング能力が無ければ無理なんじゃないかなー』
「ほえー、リリィっちレベルの子がたくさんいたら、情報とか改竄されまくって人類滅亡まったなしになっちゃうねー」
『ほんとだよねー、あはは♪』
状況にそぐわないヒマリたちの和やかな会話を無視し、リオンは言葉を続ける。
『ともあれ事態は深刻ですわ。このまま各ゲートの開放が続いてしまえば、インセクターの都内侵攻は確実になるでしょう。それを防ぐためにも早急に手を打たねばなりません。ミコトさん、ユリィさん。二人は防壁管制室に向かい、状況の確認と、可能ならば管制室の制圧をお願いしますわ』
『えっ? マジで? んー、この状況なら確かに私たちが適任かー……』
リンカたちと違い、狙撃メインのミコトには大軍を足止めするほどの火力はない。
つまり抜けたとしても戦線のバランスへの影響は小さい――そんなリオンの判断を察し、ミコトは指示を受け入れた。
『はい。ミコトさんの持つ洞察力や判断力に加え、近接戦闘能力でも高いランクにあるミコトさんにしかお願いできない仕事ですわ』
『へー。私ってリオンにそんな風に評価されてたんだ?』
『私だけではなく、クラス全員からの評価でしょうけれど?』
『そうなの? ……なんだかくすぐったいわね。まぁとりあえず
『それはそうでしょう。大丈夫です。サキさんとユイナさんを付けますから』
「はーっ!? なんであーしらが!」
「くっそめんどいんだけどそれ。つーかミコト、おまえらだけで行ってこいよ」
『二人じゃ無理だっつってんでしょ!』
「んだよ、それぐらいやれよ、隠れエースなんだからよー!」
『エースだってんなら、ユイナとサキのほうが
「はっ? んな面倒なことやってられっかよ!」
「同意だわー。あーしもサキに完全に同意だわー」
『なるほど。……時にサキさん、ユイナさん』
「な、なんだよ?」
「なに言われたって、あーしら断固拒否するかんね?」
『まぁお聞きなさい。この乱戦の中、管制室を制圧し、各所のゲートを閉めることができれば、恐らく戦功は一番となるでしょう。そうなれば報奨金の他にも様々な特典があるのではないかしら?』
「……なんよその特典って」
リオンの話に興味を持ち始めたサキとユイナは、反抗的な態度を潜めて耳を傾ける。
『そうですわね。例えば……定例試験や補習の免除、内申点への加算……とか? もしかすると、そういったご褒美があるかもしれませんわよ?』
「……っ! サキ、やんよ!」
「はぁっ!? なに急にやる気出してんだよ!」
「だってここで戦果をあげたら、試験を免除されんだよ? 免除ってことは赤点取ってもクレアちゃんにシゴかれる心配がないってことだよ? あーしらバカなんだから、ここはやるしかないっしょ!」
「試験免除のために命を賭けろってのかよ!」
テンションの上がったユイナの言葉に、サキは強い調子で反論する。
「そ。あーしら他に賭けるものなんてないっしょ?」
「あ、ねーな。確かになんもねーわあたしら。はー、分かったよ! ったくよぉ……」
納得がいっていない表情を浮かべながら、サキはユイナの提案を渋々了承した。
『よくぞ決断してくださいましたわ。ではサキさん、ユイナさんはすぐにLBと合流なさい。分隊指揮はミコトさんにお任せしますわ』
『
「はっ? ちょ、なに無茶振りしてんだよ!」
「クソムシが目の前に迫ってきてるこの状況で、いきなりあーしらが抜ける訳にはいかないっしょ!」
『ああ、それなら大丈夫ですわ。皆さんが踏ん張ってくださったお陰で援軍が間に合いました』
リオンの報告と殆ど同時に、2C小隊の左右の道から駆け出してきた高戦生たちが、迫り来る虫に向かって一斉に銃撃が浴びせはじめた。
「3C小隊、
「うぉぉぉぉぉっ!」
精悍な顔つきの少女の扇動に、3C小隊の少女たちが野太い雄叫びで答える。
「1C小隊、先輩たちを援護します! 撃て撃て撃て撃てーっ!」
「はーい!」
3C小隊とは逆方向から現れた小隊が、まだ幼い顔つきの少女の声に従って虫たちに発砲する。
『こちらC中隊本管、クレア・アイハラ。これより八王子方面迎撃部隊の指揮を執る』
「3C小隊、了解した!」
「い、1C小隊、了解です!」
『2C小隊、
『ご苦労。ミコト・ククリ他三名。すぐに防壁管制室に向かえ』
『
「ってことだって。サキ、行くよー」
「はぁ~……んじゃ、ちょっくら行ってくっか」
クレアの命令にだるそうに答えた二人が、弾薬箱に入っている予備弾倉をひっつかみ、バリケードを駆け出していった――。
次回、12/12 AM04時更新予定
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