第24話「嫌な予感」

 フロントチームが第二バリケードに後退し、虫たちとの戦いは仕切り直しとなった。

 だがランドギアを前面に押し出して、迫り来るインセクターの頭を押さえ、ストライカーとアタッカーが一匹ずつ撃破していくという作戦に変わりは無い。

 エリート兵を養成している第一高戦であれば、最新の兵器を駆使し、強化薬を使って敵の大軍と真っ正面から戦い、勝利を掴むのかもしれない。

 それだけの能力があり、最高の訓練を施され、最新の兵器を装備しているのだから、当然と言えば当然だろう。

 だが第十三高戦の生徒はそんな無謀な事はせず、確実に生き残るために戦場に細工を施し、小隊で力を合わせてしぶとく敵を撃破する。

 それが能力も低く、落ちこぼれと蔑まれる第十三高戦の戦い方だった。


「無駄に前に出るなよ! フォーメーションを維持して、できる限り時間を稼ぐのがあたいらの仕事だかんな!」

「わーってますよ、カエデ姐さん!」

「もう何匹倒したか分かんなくなっちゃったねー」

「まだまだお替わりたくさん」


 ヒマリとミトがのんびり口調で話すなか、ケイコの叫びが響いた。


『ごめん、一匹仕留め損ねて抜かれたー!』


 T-LINK越しの悲鳴に、サヨが即座に対応する。


「なにやってんですかバカですかっ!」


 体当たりでバリケードを壊そうと迫り来るアブラムシの前に飛び出したサヨは、フルバーストで銃弾を叩き込んだ。

 銃弾の雨を浴びながら、執念深くバリケードに突進したアブラムシは、だがサヨの目前で動きを停止し、血しぶきを上げながら地面にどうと崩れ落ちた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 間一髪のところでバリケードの崩壊を防いだサヨは、荒い息を繰り返しながら、予備弾倉を取り出して装填する。


「全く……身体中、虫のクッサい汁に汚されるとかバカすぎますね。ペッ……」


 口内に入ってしまった虫の体液を吐き出したサヨは、


「ケイコさん、横から来てる!」

 物陰に隠れ、ケイコが搭乗するランドギアに飛びかかったダニ型のインセクターに向かって咄嗟に引き金を引いた。

 放たれた銃弾は正確にダニ型の頭部に命中し、生命活動を停止させた。


『悪いサヨ! 助かった!』

「少しの油断が命取りになりますから気をつけてくださいバカですかケイコさん」

『ごめんってば! でも良く見つけたね。こっちのレーダーには反応もなかったのに』

「……たまたま、ですよ」

『そっか。とにかくありがと。もう油断しないわ!』

「そうしてください」


 敵に向き直り、砲撃を続けるケイコのランドギアを見守りながら、サヨは自分に起きた現象について考える。


「……私のスキルは聴覚強化と反応強化。でも今のは明らかに普段以上の能力を発揮していたように思う……これは一体?」


 動きを止め、思考に集中しているサヨを見て、怪我でもしたのかとヒマリが心配げに声を掛けた。


「サヨっち、大丈夫?」

「……あ、ええ。大丈夫です。怪我もしていませんよヒマリさん」

「なら良かったー!」


 サヨの無事を確認できて、ヒマリは満面の笑みを浮かべた。

 そんなヒマリの様子に、サヨは思わず微笑する。


「考えるのは後、ですね。今は目の前のことに集中しましょうか」

「え? なに? なにかいったサヨっちー」

「いいえ何も言ってませんよバカですかヒマリさんはハーレム系特有の鈍感難聴主人公なんですかバカですか、ああすみませんバカでしたね」

「ええーっ! ヒマ、どうしてサヨっちに罵倒されてるのーっ!?」

「今はそういう気分なんです」

「そっかー。気分なら仕方ないねー♪」

「フフッ……」




 戦いは続いている――。

 フロントチームが激戦を繰り広げるなか、バックスチームも忙しく働いていた。


『カザー! また外して、あんた一体何回外したら気が済むの!』

『うわーん! ワザとじゃないもん! カザ、ちゃんと頑張ってるもん!』

『ちゃんとやってるならあんなにもバカスカ外せる訳無いでしょ! T-LINKの標的選択情報のまま、引き金を引けばどんなバカでも当たるのに!』

『そこはほら、データに従うだけじゃ味気ないから、ちょーっとアレンジを加えて、もっと戦果を稼ごうかなーって』

『余計なことするなーっ!』


 T-LINKの通信機越しに聞こえてくる、リンカとカザリの喧嘩漫才に、ミコトは引き金を引きながら思わず笑いを零した。


「あの二人も相変わらずねー」

「こんなに口喧嘩をしているのに、スコアはそれなりの成績なのが不思議です」

「相性が良いって証拠じゃない?」

「……あれでですか? 人間というのは不思議ですね」

「不思議だからこそ面白いんじゃない」

「そういうものなのですか?」

「んー……少なくとも私は、そう思うけどね」

「ふむ。……」


 ミコトの言葉に、ユリィは考え込むような表情を見せた。


「それよりユリィ。戦闘開始から今まで、何分ほど経過した?」

「十七分ですね」

「ということは、そろそろ次の動きがありそう、か……」


 ぼそりと呟きながら、ミコトはゲート付近に合わせていた照準を動かし、防壁管制室の周辺を索敵する。


「……敵影無し。すでに逃走を図ったのか、それとも管制室内に閉じこもって何かをしているのか……嫌な感じね」

「嫌な感じ、ですか?」

「非正規品の女の子が防壁管制室を占拠してから、それなりの時間が経過しているでしょう? それなのに管制室に動きがない。もちろんすでに逃走しているって可能性も考えられるけど……もし最終フェーズに入ってるとしたら?」

「あ……」


 ミコトが何を言いたいのか理解したユリィが、思わず声を漏らした。


「……時間を掛けてる暇、無さそうね」


 呟きながらミコトが打つ手を考えようとした、そのとき。

 関東全域に非常事態を知らせるサイレンが夜空を震わせた――。


次回、12/11 AM04時更新予定

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