第23話「第一バリケード」
フロントチームが戦闘に突入した頃。
ミコトとユリィの二人は、メインストリートから二百メートルほど離れたビルの屋上にいた。
愛銃であるバレット改のバイポッドを下ろし、伏射で撃てるように設置する。
銃の横には、迅速にマガジンの交換ができるように予備弾倉が並んでいた。
伏射姿勢で
「姉さん。フロントチームが戦闘を開始しました」
「ありがと。ゲートのほうは?」
「周辺のインセクターが集まってますね……侵入が止まる様子は見えません」
「早いとこ、ゲートを閉めないとジリ貧ね」
「はい。リオン小隊長が何か考えているようでしたが……」
「作戦というほどの手が打てるほど、戦力に余裕がある訳じゃないからね。多分、突入時期を見極めているんだと思う」
「となると、援軍が来るまではこのままの可能性が高そうですね」
「戦場で小隊ができることなんて、たかがしれてるしね。今は課せられた任務を遂行することに全力を尽くしましょ」
「はい。あ、
「ならこっちも負けちゃいられないわね」
「
「任せる」
「
腰帯から取り出した単眼鏡をT-LINKに接続し、リリィはゲート付近の標的を観察する。
「標的設定。データ送信」
「受領したわ」
そう言うとミコトは躊躇無く引き金を引く。
伏射状態で放ったバレット改の弾丸は、逸れることなくアブラムシの頭部に直撃してその命を奪った。
「ヒット。ヘッドショット。目標沈黙。
観測手であるユリィの情報に従い、ミコトは次々とインセクターを撃破していった。
「ユリィ、周辺警戒をお願い」
「
狙撃から五分ほどで予備弾倉の全てを空にしたミコトは、弾薬箱から弾丸を取り出し、弾倉へと詰め込んでいく。
「フロントチームの様子はどう?」
「善戦しているようですが、徐々に押し込まれてますね」
「後退支援、したほうが良いかもね」
詰め終えた弾倉を銃に差し込み、ミコトは伏射の体勢をとって照準器を覗き込んだ。
その頃、前線を維持しているフロントチームは――。
「ユイナ、弾くれ弾ぁ!」
「うっせぇ、自分で取りに行け!」
「手が離せねぇから言ってんだよ!」
「同じ場所に居るんだから、あーしだって手が離せる訳ないっしょバーカ!」
「全く。いちゃつくならベッドの上でしろと言われたでしょうにバカですか」
引き金を引きながら口喧嘩するサキとユイナに呆れた顔を見せたサヨが、腰帯から引き抜いた予備弾倉を二人に投げつける。
「せめてヒマリさんぐらい効率的に引き金を引くことはできないんですか。バカすぎますよお二人とも」
「うっせー。エースと一緒にすんなエースと」
「あーしら落ちこぼれっしょ? 才能も運も何もかも落として零れたマンカスがあーしらだよ? 期待するだけ無駄っしょ?」
「そうやって捻くれたフリをして同情を引き、手を抜こうとしても無駄ですよ。ユイナさんの弱音を吐いて同情を誘う手法はすでに看破済みですからバカですか」
「ちっ。これだから長く付き合ってる奴らはメンドーっしょ……」
「手抜きもほどほどに。あなた方二人のコンビのスコアは、私なんかより上なんですからしっかり殺っちゃってください。でないと死んでしまうじゃないですかバカですか」
サヨの指摘に、サキが地団駄を踏みんで吠えた。
「あー、くっそメンドイ! やってらんねー!」
「喚くよりも先に虫を殺してくださいバカですか」
「うっせー! 文句ぐらい言わせろやぁ!」
サヨに怒鳴り返しながらサキは手早く弾倉を交換し、迫り来るインセクターへの攻撃を再開する。
だがインセクターは、頭部を跳ね飛ばされ、足をもがれてもじりじりと迫ってくる。
「あー、そろそろ厳しくなってきたかもー。後退命令まだー?」
ヒマリの確認に反応し、ケイコがQBに通信を飛ばした。
「リオン、後退命令はまだ? そろそろ押し切られそうなんだけど!」
『ええ、そろそろですわね。フロントチームは手榴弾投擲後、すぐに第二バリケードまで後退してくださいな」
「
「うん、了解だよー。姐さん、いけるー?」
アタッカーたちより前方で善戦していたカエデが、腰帯から複数の手榴弾を取り出して投擲した。
それに倣うようにアタッカーチームも手榴弾を投擲する。
着弾した手榴弾が連続して爆発し、虫たちを粉砕していく。
「うっし、てめぇら後退すっぞ! 第二バリケードに入ったら弾の補給をしろよ!」
カエデの号令の下、フロントチームが発砲しながらじりじりと後退を開始した。
『第一誘導ポッド、起爆』
デヴィの報告とともに虫に集られていた誘導ポッドが爆散する。
『これでしばらく時間が稼げますわ。フロントチームが第二バリケードに移動後、QBから第二誘導ポッドを起動し、遅延戦闘を再開しますので各員よろしく。バックスは現状維持をお願いしますわ』
『RB
リンカの返答を聞いていたミコトが、リオンに疑問を呈した。
『
バックスチームは今、フロントチームとほぼ横並びの位置にいる。
フロントチームが第二バリケートに下がり、バックスがそのままの位置で固定となると、当然、フロントチームとの相対距離が開き、咄嗟のときに援護ができなくなる。
ミコトは狙撃手としてフロントチームのバックアップに従事しているのだから、この質問は当然と言えた。だが――。
「まぁしゃーねーよ。こっちはこっちで何とかするからリオンの指示に従っとけ」
『本当にそれで良いの? カエデ』
「あんま良くはねーけどな。今のところ、なんとかなってる。保たせて見せらぁ」
『分かったわ。ならこっちはゲート周辺に集中する。だけど支援が欲しいときは知らせて。できる限り早く体勢を整えるから』
「おう、そんときゃ頼まぁ!」
ミコトに答えたカエデは、第二バリケードの前でくるりと敵を振り返った。
「後退完了! QB、誘導ポットの起動を頼む!」
『了解。健闘を祈りますわ』
「おう。うっし、ミト、やんぞ」
「ん。了解」
次回、12/10 AM04時更新予定
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